[P2-A-0584] 表面筋電図を用いた膝後十字靱帯損傷患者の三次元動作解析
―歩行動作における健常者との比較―
Keywords:PCL損傷, 表面筋電図, 三次元動作解析
【はじめに,目的】
膝後十字靭帯(Posterior Cruciate Ligament;以下PCL)損傷は,交通事故やスポーツでの接触など大腿に対して下腿が後方へ落ち込むような強い力が作用した場合に引き起こされる。PCLの損傷により後方不安定性が出現し,その評価には主にMRI検査や後方引き出しテストなど静的な評価が用いられる。しかし静的評価による膝関節の不安定性と患者の愁訴との関連は少なく,またPCL損傷患者では降段動作時に膝崩れが起こるといった動的な不安定性が生じるため,動作時の膝関節運動の評価も重要である。Oritaらは三次元動作解析装置を用いてPCL単独損傷患者の歩行解析を行い,健常者と比較して立脚期で脛骨後方移動量が減少し,脛骨がより外旋することを報告した。その要因として,PCL損傷膝では歩行時に代償機構が働くため患者の愁訴が少ないことを示したが,その作用機序については他関節からの影響や筋による代償などを推察するに留まっている。特に代償運動に関しては膝関節周囲の様々な筋の関与が報告されているが一定の見解を得ず,歩行時の三次元動作解析と筋電図学的解析を同時に行った報告は我々が渉猟し得る限りでは見当たらない。そこで本研究ではPCL単独損傷患者の歩行時の膝関節運動と筋活動に着目し,健常者と比較することでPCL損傷が膝関節運動や下肢筋活動に与える影響を検証した。
【方法】
対象は画像所見及び理学的所見によりPCL単独損傷と診断された男性1名とし,また下肢に整形外科的既往のない健常男子大学生4名をControl群とした。課題動作は快適速度での10m歩行とし,測定肢はPCL損傷側,Control群はランダムに決定した下肢側とした。測定には三次元動作解析装置VICON MX(Vicon Motion Systems社)と床反力計(AMTI社),表面筋電計ME6000(Mega Electronics社)を用いた。Point Cluster法を参考に骨盤・両下肢に赤外線反射マーカーを貼付し,歩行時のマーカー座標及び床反力データを記録した。表面筋電図の被験筋は腓腹筋内側頭・外側頭(以下GM・GL),内側・外側ハムストリングス(以下MH・LH),内側・外側広筋(以下VM・VL)とした。解析は各筋から得られた波形を全波整流化後,各筋の最大等尺性収縮(以下MVC)時の値で正規化し%MVC値を算出した。解析区間は測定側の踵接地から同側の次の踵接地までの1歩行周期とし,時系列で100%に正規化後,0~60%を立脚期,61~100%を遊脚期とした。運動学的データは静止立位時からの相対的な膝関節角度の変化量を求め,膝関節屈曲角度,脛骨の回旋角度,前後移動量を算出した。筋電図学的データは1歩行周期中の各筋の活動量を算出した。
【結果】
Control群に比べPCL損傷患者では歩行周期全体を通して膝関節屈曲運動,脛骨後方移動の減少を示した。また立脚終期から遊脚初期を除く各相で脛骨の外旋変位を示した。筋活動量は歩行周期全体を通してGM・GLの著明な増加がみられた。
【考察】
本研究の結果では膝関節屈曲運動,脛骨後方移動の減少,脛骨の外旋変位がみられ,これらはOritaらの報告と類似した結果を示した。一般的にPCLは膝関節屈曲位で緊張するため,PCL損傷患者では膝関節屈曲位で不安定性が生じる可能性がある。このためPCL損傷患者は歩行時に膝関節屈曲角度を減少させ不安定性を減少させるのではないかと考える。また膝関節の伸展に伴い脛骨が外旋し,前方に移動することが知られているため,PCL損傷患者ではControl群に比べ,膝関節屈曲運動が減少し,脛骨の外旋変位,後方移動の減少が生じていたと考えられる。さらにいくつかの先行研究ではPCL不全患者の歩行やランニングなどの動作時における大腿四頭筋,下腿三頭筋の代償的な筋活動が報告されているが,本研究においてはGM・GLの活動の増加がみられた。よって腓腹筋がPCL損傷患者の歩行時の代償運動に関与することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,PCL損傷患者では歩行時に膝関節運動の変化が起こり,腓腹筋の活動が増加することが示された。このことはPCL損傷患者の歩行時の代償機構の作用機序を明らかにする一助となりうる。
膝後十字靭帯(Posterior Cruciate Ligament;以下PCL)損傷は,交通事故やスポーツでの接触など大腿に対して下腿が後方へ落ち込むような強い力が作用した場合に引き起こされる。PCLの損傷により後方不安定性が出現し,その評価には主にMRI検査や後方引き出しテストなど静的な評価が用いられる。しかし静的評価による膝関節の不安定性と患者の愁訴との関連は少なく,またPCL損傷患者では降段動作時に膝崩れが起こるといった動的な不安定性が生じるため,動作時の膝関節運動の評価も重要である。Oritaらは三次元動作解析装置を用いてPCL単独損傷患者の歩行解析を行い,健常者と比較して立脚期で脛骨後方移動量が減少し,脛骨がより外旋することを報告した。その要因として,PCL損傷膝では歩行時に代償機構が働くため患者の愁訴が少ないことを示したが,その作用機序については他関節からの影響や筋による代償などを推察するに留まっている。特に代償運動に関しては膝関節周囲の様々な筋の関与が報告されているが一定の見解を得ず,歩行時の三次元動作解析と筋電図学的解析を同時に行った報告は我々が渉猟し得る限りでは見当たらない。そこで本研究ではPCL単独損傷患者の歩行時の膝関節運動と筋活動に着目し,健常者と比較することでPCL損傷が膝関節運動や下肢筋活動に与える影響を検証した。
【方法】
対象は画像所見及び理学的所見によりPCL単独損傷と診断された男性1名とし,また下肢に整形外科的既往のない健常男子大学生4名をControl群とした。課題動作は快適速度での10m歩行とし,測定肢はPCL損傷側,Control群はランダムに決定した下肢側とした。測定には三次元動作解析装置VICON MX(Vicon Motion Systems社)と床反力計(AMTI社),表面筋電計ME6000(Mega Electronics社)を用いた。Point Cluster法を参考に骨盤・両下肢に赤外線反射マーカーを貼付し,歩行時のマーカー座標及び床反力データを記録した。表面筋電図の被験筋は腓腹筋内側頭・外側頭(以下GM・GL),内側・外側ハムストリングス(以下MH・LH),内側・外側広筋(以下VM・VL)とした。解析は各筋から得られた波形を全波整流化後,各筋の最大等尺性収縮(以下MVC)時の値で正規化し%MVC値を算出した。解析区間は測定側の踵接地から同側の次の踵接地までの1歩行周期とし,時系列で100%に正規化後,0~60%を立脚期,61~100%を遊脚期とした。運動学的データは静止立位時からの相対的な膝関節角度の変化量を求め,膝関節屈曲角度,脛骨の回旋角度,前後移動量を算出した。筋電図学的データは1歩行周期中の各筋の活動量を算出した。
【結果】
Control群に比べPCL損傷患者では歩行周期全体を通して膝関節屈曲運動,脛骨後方移動の減少を示した。また立脚終期から遊脚初期を除く各相で脛骨の外旋変位を示した。筋活動量は歩行周期全体を通してGM・GLの著明な増加がみられた。
【考察】
本研究の結果では膝関節屈曲運動,脛骨後方移動の減少,脛骨の外旋変位がみられ,これらはOritaらの報告と類似した結果を示した。一般的にPCLは膝関節屈曲位で緊張するため,PCL損傷患者では膝関節屈曲位で不安定性が生じる可能性がある。このためPCL損傷患者は歩行時に膝関節屈曲角度を減少させ不安定性を減少させるのではないかと考える。また膝関節の伸展に伴い脛骨が外旋し,前方に移動することが知られているため,PCL損傷患者ではControl群に比べ,膝関節屈曲運動が減少し,脛骨の外旋変位,後方移動の減少が生じていたと考えられる。さらにいくつかの先行研究ではPCL不全患者の歩行やランニングなどの動作時における大腿四頭筋,下腿三頭筋の代償的な筋活動が報告されているが,本研究においてはGM・GLの活動の増加がみられた。よって腓腹筋がPCL損傷患者の歩行時の代償運動に関与することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,PCL損傷患者では歩行時に膝関節運動の変化が起こり,腓腹筋の活動が増加することが示された。このことはPCL損傷患者の歩行時の代償機構の作用機序を明らかにする一助となりうる。