[P2-A-0594] 当院におけるインプラント周囲骨折の発生状況
―初回骨折時の介入を考える―
Keywords:インプラント周囲骨折, 転倒, 発生状況
【はじめに,目的】
本邦では超高齢社会を受け,大腿骨近位部骨折の発生率が増加傾向にある。同骨折に対する整形外科的治療は,人工骨頭置換術(以下,BHA)や骨接合術により大腿骨にインプラントを挿入する方法が一般的であるが,近年,このインプラント挿入患者が転倒することでインプラントの周囲を骨折するケースも増加傾向にある。この骨折では,骨折部の治療以外にインプラントの固定性も考慮して治療しなければならないため,治療に難渋する(山下ら,2001)。発生予防の観点から,インプラント周囲骨折(以下,周囲骨折)の発生状況を調査することは十分意義があるが,現状では報告は乏しい。またこの情報は初回大腿骨近位部骨折時のリハビリテーション(以下,リハビリ)や退院時指導において重要な情報であると考えられる。そこで本研究は,周囲骨折の発生状況を調査し,要因を分析することで初回骨折時におけるリハビリを再考することを目的とした。
【方法】
対象は2012年9月~2014年8月に当院で手術を施行した大腿骨近位部骨折241例のうち,周囲骨折7例(全例女性で平均年齢74.7±9.3歳)である。患者の内訳はBHA4例,骨接合術(γ-nail)3例であり,初回インプラント挿入の契機は全例転倒による受傷であった。調査項目は小林ら(2006)の転倒状況記載法を参考に,転倒時の時刻・場所・動作・理由について調査した。また改定長谷川式簡易知能評価尺度(以下,HDS-R),周囲骨折受傷前の住居・歩行能力についても同様に調査した。
【結果】
転倒の場所は屋内が5例,屋外が2例であり,屋内のうち自室が2例,玄関・トイレ・風呂がそれぞれ1例ずつであった。HDS-Rは20点以上が4例,20点未満が3例であった。歩行能力は全例歩行可能で,独歩/杖4例,シルバーカー2例,歩行器1例であった。転倒時の動作は歩行中が6例と最も多かった。転倒の理由はよろけたが4例で,めまい・つまずき・滑りがそれぞれ1例ずつであった。受傷前の住居は自宅が5例で,病院と施設が1例ずつであった。転倒した時刻は9~13時までが3例,13時~17時までが2例と日中の時間帯が一番多かった。
【考察】
本研究では当院における周囲骨折の発生状況について調査した。今回の対象者は全例女性であり,女性に起こりやすい骨折であることが示唆されたが,大腿骨近位部骨折自体が女性に多いため,推測にとどまる。転倒場所は自宅内が多かったが,屋内のどの場所で多いかについては不明であった。認知機能に関しても今回の検討からは傾向は見られなかった。今回の対象者は全例歩行可能であったが,転倒時の動作は歩行中が多く,この傾向は大腿骨近位部骨折と同様(黒澤,2007)となった。一方で転倒理由は,大腿骨近位部骨折はつまずく症例が多い(Cumming et al,1994・坪山,2003)とされるが,周囲骨折はよろける症例が多かった。また発生時刻は9~17時の日中の時間帯が多く,深夜から早朝に多い大腿骨近位部骨折(坪山,2003)とは異なった。松井(2006)は日中に転倒する高齢者ほどADLレベルが高いと報告している。このことから今回の対象者は入院前の活動性は高かったと推測される。これらを踏まえ,当院における周囲骨折の発生状況を検討したところ,日中の時間帯を自宅で過ごす方が,歩行中に何らかの理由でバランスを崩した結果,転倒して受傷する傾向にあることが示唆された。この背景には患者の活動レベルが高く,歩行頻度が多いことで自ずと転倒のリスクが高まることが考えられた。今回の結果から,初回骨折の退院時指導では自宅復帰かつ日中を活動的に過ごす方に,歩行中の転倒に十分注意するように指導する必要性が考えられた。また介入内容において,バランス練習等でよろけた際の対処法を身につける必要性が示唆された。現在,大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインでは,入院時のリハビリにおけるバランス練習のエビデンスは認められていない。しかし転倒時の対処法を身に着けておくことは再転倒/再骨折の予防に効果があるのではないかと考えられる。当院での大腿骨近位部骨折に対する周囲骨折の発生率は2.9%とまだ多くはないが,高齢化率の上昇に伴い,発生率も上昇してくると予測される。今後は症例数を蓄積し,初回骨折時との比較を統計学的に行っていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究から周囲骨折の発生状況について,その傾向が示された。この結果は初回骨折時のリハビリ介入や退院時指導の一助となることで,予防理学療法に貢献するものと考えられる。
本邦では超高齢社会を受け,大腿骨近位部骨折の発生率が増加傾向にある。同骨折に対する整形外科的治療は,人工骨頭置換術(以下,BHA)や骨接合術により大腿骨にインプラントを挿入する方法が一般的であるが,近年,このインプラント挿入患者が転倒することでインプラントの周囲を骨折するケースも増加傾向にある。この骨折では,骨折部の治療以外にインプラントの固定性も考慮して治療しなければならないため,治療に難渋する(山下ら,2001)。発生予防の観点から,インプラント周囲骨折(以下,周囲骨折)の発生状況を調査することは十分意義があるが,現状では報告は乏しい。またこの情報は初回大腿骨近位部骨折時のリハビリテーション(以下,リハビリ)や退院時指導において重要な情報であると考えられる。そこで本研究は,周囲骨折の発生状況を調査し,要因を分析することで初回骨折時におけるリハビリを再考することを目的とした。
【方法】
対象は2012年9月~2014年8月に当院で手術を施行した大腿骨近位部骨折241例のうち,周囲骨折7例(全例女性で平均年齢74.7±9.3歳)である。患者の内訳はBHA4例,骨接合術(γ-nail)3例であり,初回インプラント挿入の契機は全例転倒による受傷であった。調査項目は小林ら(2006)の転倒状況記載法を参考に,転倒時の時刻・場所・動作・理由について調査した。また改定長谷川式簡易知能評価尺度(以下,HDS-R),周囲骨折受傷前の住居・歩行能力についても同様に調査した。
【結果】
転倒の場所は屋内が5例,屋外が2例であり,屋内のうち自室が2例,玄関・トイレ・風呂がそれぞれ1例ずつであった。HDS-Rは20点以上が4例,20点未満が3例であった。歩行能力は全例歩行可能で,独歩/杖4例,シルバーカー2例,歩行器1例であった。転倒時の動作は歩行中が6例と最も多かった。転倒の理由はよろけたが4例で,めまい・つまずき・滑りがそれぞれ1例ずつであった。受傷前の住居は自宅が5例で,病院と施設が1例ずつであった。転倒した時刻は9~13時までが3例,13時~17時までが2例と日中の時間帯が一番多かった。
【考察】
本研究では当院における周囲骨折の発生状況について調査した。今回の対象者は全例女性であり,女性に起こりやすい骨折であることが示唆されたが,大腿骨近位部骨折自体が女性に多いため,推測にとどまる。転倒場所は自宅内が多かったが,屋内のどの場所で多いかについては不明であった。認知機能に関しても今回の検討からは傾向は見られなかった。今回の対象者は全例歩行可能であったが,転倒時の動作は歩行中が多く,この傾向は大腿骨近位部骨折と同様(黒澤,2007)となった。一方で転倒理由は,大腿骨近位部骨折はつまずく症例が多い(Cumming et al,1994・坪山,2003)とされるが,周囲骨折はよろける症例が多かった。また発生時刻は9~17時の日中の時間帯が多く,深夜から早朝に多い大腿骨近位部骨折(坪山,2003)とは異なった。松井(2006)は日中に転倒する高齢者ほどADLレベルが高いと報告している。このことから今回の対象者は入院前の活動性は高かったと推測される。これらを踏まえ,当院における周囲骨折の発生状況を検討したところ,日中の時間帯を自宅で過ごす方が,歩行中に何らかの理由でバランスを崩した結果,転倒して受傷する傾向にあることが示唆された。この背景には患者の活動レベルが高く,歩行頻度が多いことで自ずと転倒のリスクが高まることが考えられた。今回の結果から,初回骨折の退院時指導では自宅復帰かつ日中を活動的に過ごす方に,歩行中の転倒に十分注意するように指導する必要性が考えられた。また介入内容において,バランス練習等でよろけた際の対処法を身につける必要性が示唆された。現在,大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインでは,入院時のリハビリにおけるバランス練習のエビデンスは認められていない。しかし転倒時の対処法を身に着けておくことは再転倒/再骨折の予防に効果があるのではないかと考えられる。当院での大腿骨近位部骨折に対する周囲骨折の発生率は2.9%とまだ多くはないが,高齢化率の上昇に伴い,発生率も上昇してくると予測される。今後は症例数を蓄積し,初回骨折時との比較を統計学的に行っていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究から周囲骨折の発生状況について,その傾向が示された。この結果は初回骨折時のリハビリ介入や退院時指導の一助となることで,予防理学療法に貢献するものと考えられる。