第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター2

体幹・肩関節

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0597] 投動作における運動軌跡を用いた発達的評価

戸栗啓1, 粕山達也2, 武藤郁夫3, 笹本仁3 (1.自宅, 2.健康科学大学健康科学部理学療法学科, 3.富士河口湖町立河口小学校)

キーワード:運動発達, 機能評価, 投球動作

【はじめに,目的】近年,文部科学省が実施している新体力テストにおいて子どもの運動能力の低下が指摘されており,走る・跳ぶ・投げるなどの基本的動作の獲得も1980年代に比べて低い水準にあることが報告されている。幼児期の運動能力低下は高齢期まで影響を及ぼすため,この年代の運動能力を適切に評価することが重要であると考えられている。従来,投動作の運動発達研究において,観察的評価による質的評価が多く報告されていたが,客観的で簡便な評価についての報告はほとんどない。本研究の目的は,投動作の発達に関する客観的評価として,運動軌跡を用いた評価方法の妥当性を検証し,運動発達指標としての臨床的有用性を明らかにすることである。
【方法】対象は2013年に地域小学校に所属する1年生15名(男6名・女9名),2年生17名(男9名・女8名),3年生17名(男6名・女11名)の計49名を対象とした。
全対象者に文部科学省の新体力テストの1項目であるソフトボール投げを2回ずつ行い,矢状面からビデオカメラを用いて投動作を動画撮影した。撮影は高速度カメラ(Gopro Hero3,Gopro製,サンプリング周期120Hz)を用いて,側方3m,高さ1.2mに設置して実施した。運動軌跡の測定は,動画解析ソフトkinoveaを用いて,手関節(橈骨茎状突起部),肘関節(肘頭部)の動作開始から終了までの軌跡を追った。動作開始前から終了までの最大の横径と縦径を計測し,楕円比率(横径÷縦径)を計算した。運動軌跡の形状から単峰性と二峰性に分類し,さらに楕円比率から円型と楕円型に分類した。円型,楕円型の分類は比率2.3以上を楕円型,2.3未満を円型とした(比率2.3は,身長を基にした各骨格の長さ・幅とステップ幅より計算)。測定した運動軌跡を軌跡の峰数と軌跡の縦横比率から4群に分類した。また,ソフトボール投げの投距離を求めて,群間の比較を行った。群間の比較には1元配置分散分析後,Bonfferroniの多重比較検定を行い,楕円比率と投距離の関連はPearsonの積率相関係数にて統計学的解析を行った。
【結果】運動軌跡の分類は,二峰性・円型13名,二峰性・楕円型13名,単峰性・円型13名,単峰性・楕円型10名であった。各群の楕円比率の平均値は二峰性・円型1.9±0.4,二峰性・楕円型2.8±0.4,単峰性・円型1.6±0.3,単峰性・楕円型2.7±0.5であった。各群別のソフトボール投げの平均投距離は,二峰性・円型9.5±3.2m,二峰性・楕円型12.2±5.3m,単峰性・円型5.2±2.1m,単峰性・楕円型9.4±2.5mであり,二峰性・楕円型と単峰性・円型,二峰性・円型と単峰性・円型の間に有意に差が認められた(p<0.05)。二峰性と単峰性の比較では二峰性の投距離が長く,円型と楕円型の比較では楕円型の投距離が有意に長かった(p<0.05)。また,楕円比率と投距離の間には中程度の相関が認められた(r=0.54,p<0.05)。
【考察】投動作の発達経過は一般的に,肘関節伸展のみでの動作から上肢全体を使った動作となり,最終的にテイクバックとステップを用いた動作となる。運動軌跡から考えると肘の伸展や肩の伸展を伴う上肢だけの動作では単峰性の軌跡となり,テイクバックを用いた動作になると二峰性となる。また,動作が成熟するにつれ体幹の回旋やステップ長が増加することで,軌跡は円型から楕円型へと変化する。投動作の発達は,小学校低学年までにテイクバックを使った投動作を獲得することが一般的とされており,二峰性の楕円型は成熟した投動作のフォームを反映している。成熟した二峰性・楕円型の運動軌跡ではテイクバックに加えて,体重移動やステップ幅を増加させた全身運動が行われているため,投距離も長くなったと考えられた。また,本研究では成熟した二峰性・楕円型を示すものは約3割に留まっていた。小学校低学年までに二峰性・楕円型を獲得することが一つの目安と考えられるが,先行研究において指摘されているように,本研究においても投動作の発達が未熟な子どもが多いことが明らかとなった。運動軌跡を用いた評価は投球フォームや投球能力を反映する結果となり,客観的な運動発達の指標として有用であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】運動発達における観察的評価は多く報告されているが,客観的評価についての報告は少ない。本研究により,投動作の運動軌跡を用いた客観的評価指標の妥当性が明らかとなり,運動発達の新しい指標として有用であることが示された。臨床現場や教育現場において,理学療法士が活躍するためのツールとして意義ある研究であると考えられた。