[P2-A-0609] 筋・筋膜モビライゼーションとストレッチングの効果の違い
2つの手技がハムストリングスに与える影響の比較
Keywords:モビライゼーション, ストレッチ, ハムストリングス
ROM向上にPNF(hold relaxなど)は一般的な方法であり,効果に関する論文も多い。しかし,筋・筋膜モビライゼーション(以降,MFMと記載)の効果に関する論文は少ない。本研究では2つの異なる方法でハムストリングスに介入を行い,ポプリティールアングル測定と筋硬度計を使い筋硬度値を測定した。測定結果のデータを介入前後で比較し,筋・筋膜モビライゼーションとhold relax(以後,HRと記載)を比較した。
対象者は健常な本学ボランティア学生20~22歳の男性19名と女性5名の計24名に協力してもらった。除外規定は,腰痛や股関節・膝関節に整形外科的・神経学的な既往あり,日常習慣的にストレッチングを行っている,ポプリティールアングルが20°未満とした。対象を無作為にMFM群,HR群,コントロール群に分けた。MFM群とHR群は介入前後に,ゴニオメーターを使いポプリティールアングル測定と筋硬度計でハムストリングスの硬さを測定した。コントロール群もMFM群とHR群同様の測定を行い5分後にもう一度測定を行った。
各グループの平均変動数値は,MFM群のポプリティールアングルは4°の向上,筋硬度は2/100toneの向上。HR群は14°の向上,-2/100toneの変化,コントロール群は3°と1/100toneの向上があった。MFM群は筋硬度の向上には有意差があり,HR群はポプリティールアングルの向上に有意差があった。コントロール群はポプリティールアングルと筋硬度共に変化に有意差はなかった。
HR群でポプリティールアングルの向上に有意差があったのは,ハムストリングスの等尺性収縮により,ゴルジ腱器官が反応しIb線維の興奮を引き起こしα運動ニューロンの興奮を抑制した事で筋の弛緩が起きたと考えられる。これを自原抑制という。MFM群で変化がないのは,対象が筋腱ではなく筋腹だったのでゴルジ腱器官に刺激を与えられなかった為と考えられる。よって,自原抑制が起きなかったと考えられるが,4°の可動域の向上は臨床的に意味があるとされている。筋硬度計を使った筋硬度値測定は信頼性と妥当性が低く,筋硬度値も生理的な要因で大きく左右され易い。しかし,ある先行研究ではストレッチとマッサージを比較し,マッサージの方が筋硬度値を向上させる結果を出した。その原因が血管内に蓄積された疲労物質が循環機能改善により排出され,筋の粘稠度が改善し筋弾性が向上した可能性があるとしている。本研究結果でも同様の傾向が見られた。よって,MFMは筋へのリラクゼーション効果があるのではないかと考えられる。本研究では健常者を対象に行った為,高齢者や既往歴のある方で行った場合のHRやMFMの効果や問題点はどうか,信頼性や妥当性のある筋硬度測定をする為に筋硬度計をどのように扱えば良いかなどの対応策を,今後様々な検証をしていく必要がある。
MFMとHRには,それぞれ臨床での適応に違いがあると示唆される。HRは検査者からの口頭指示を理解でき,それに反応する能力を必要とする。よって,認知症や高次脳機能障害,意識障害などの意思疎通や言語理解が出来ない人に対して,HRは不適応である。しかし,MFMは受動的方法である。対象者は腹臥位になるだけで,検査者からの口頭指示を理解する必要はなく,HRが不適応の人でもMFMの場合は適応する。MFMに筋の伸張性を向上させる効果がストレッチ同様又はそれ以上の効果が得られるのならば,筋の伸張性を向上させる方法の選択肢が広がる可能性があると考えられる。