第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

肩関節・徒手療法

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0615] 腱板断裂患者の術前および術後自動運動開始時における僧帽筋筋活動の変化

島岡秀奉1, 西本愛2, 宮崎和2, 山崎香織2, 津野良一1, 福島美鈴1, 谷岡博人1, 濱窪隆1, 三宮真紀1, 松木由貴子1, 森澤豊1 (1.高知県立あき総合病院, 2.医療法人仁生会細木病院)

キーワード:肩腱板断裂, 僧帽筋, 筋電図

【はじめに,目的】
腱板断裂術後患者では,自動運動開始時に肩関節挙上に伴い肩甲骨の過剰な挙上運動が出現する,いわゆる「代償運動」を伴う症例をしばしば経験する。治療には,運動時痛の状況や運動機能評価など基に,症状に適した運動課題を選択する必要がある。しかし,術後の自動運動開始時における肩周囲筋の筋活動に関する報告は少なく,肩甲骨の代償運動がどのように生成されているのかについては不明な点が多い。そこでわれわれは,腱板断裂患者における術前後の肩関節挙上運動における断裂側,非断裂側の三角筋,僧帽筋の筋活動を表面筋電図にて比較,検討したので報告する。

【方法】
対象は健常男性7名(両肩14肢,平均年齢22.4±1.8歳 以下,健常群)と腱板断裂患者(男性)11名(両肩22肢,平均年齢66.3±9.2歳 以下,断裂群)である。運動課題は,開始肢位を安楽座位とし肩関節屈曲および外転運動を30°,60°,90°の合計6パターンで各5秒間保持させ,各運動とも2回施行した。表面筋電図の導出は,Neuropack X1(日本光電製)を使用し,被験筋は三角筋中部繊維と僧帽筋上部,中部,下部繊維とした。断裂患者では術前後に計測を行い,計測前に日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下,肩JOA)と他動ROM測定を行い運動課題が可能であるかを判定した。なお術後計測は,90°屈曲,外転が可能となった状態から1週間以上経過を観察し,課題を安全に行えることを確認し計測した。得られた筋電図波形は,各運動とも5秒間の筋電図波形のうち安定した3秒間の積分値を求め,2回試行分の平均筋電図積分値(以下,iEMG値)を算出した。iEMG値の規格化は,健常者では右肩関節の屈曲および外転30°でのiEMG値を100%とし,断裂患者では非断裂側の肩関節の屈曲および外転30°を100%とし各運動における相対値を算出した。統計学的処理は,算出した相対値から健常群では各運動における左右差,断裂群では,術前および術後の各運動における断裂側,非断裂側の筋活動の比較を2元配置分散分析にて求めた。

【結果】
健常群では,屈曲・外転運動とも左右の筋活動に有意差は認められなかった。断裂群の術前計測が可能であった症例は8名で,術後計測が可能であったものは9名,術前後の両方計測が可能であった症例は6名であった。なお手術から術後計測までは平均58.7±20.7日であった。肩JOAは,術前計測が可能であった8名の平均値が70.1±12.4点,術後計測が可能であった9名の平均値が75.8±10.0点であり,術後計測したほぼ全例で疼痛項目の得点が改善していた。術前の肩関節屈曲運動は,断裂側僧帽筋上部繊維,外転では,断裂側僧帽筋中部,下部繊維に筋活動の増加を認めたが有意差はなかった。術後は肩関節屈曲運動において断裂側僧帽筋上部,中部繊維の活動の増加を認め(P<0.05),外転では,断裂側僧帽筋中部,下部繊維の活動の増加を認めた(P<0.05)。

【考察】
今回の研究では,腱板断裂術後の自動運動開始時における肩関節運動の表面筋電図を計測し,健常群と異なり断裂群では,術後の屈曲,外転運動において断裂側僧帽筋の過活動が認められた。木田らは,腱板断裂術後患者の肩関節外転運動における代償運動の定量化を表面筋電図により試み,肩外転時に僧帽筋上部繊維の活動が増加していたことを報告している。また島津らは,広範囲断裂患者の食事動作において,肩甲骨の安定化として僧帽筋を優位に活動させていたと報告している。今回の結果も過去の報告に類似し,修復腱の機能低下もしくは修復腱への過負荷を避けるために,僧帽筋が肩甲骨動態を変化させたことが考えられ,屈曲運動では僧帽筋上部,中部繊維を過活動させることで肩甲骨を過度に挙上・内転させ,外転では,僧帽筋中部,下部繊維を過活動させ,肩甲骨を脊柱に引き寄せ下制させることで下方回旋モーメントを生成したと推察する。さらに術後患者の多くが肩JOAの得点が改善していたことより,腱板の修復過程において修復腱の機能低下を補う肩甲骨の代償運動であることが示唆される。

【理学療法学研究としての意義】
腱板断裂患者の運動療法において,遭遇する機会の多い「肩甲骨の代償運動」に着目し,腱板断裂手術例を対象に,三角筋,僧帽筋筋活動の計測を行った。今回の結果から腱板断裂術後では肩関節屈曲運動時に断裂側僧帽筋上部,中部繊維,外転では,断裂側僧帽筋中部,下部繊維を過活動させることで肩甲骨の代償運動が生成されていることが推察され,術後の運動課題設定の一助となる知見であると考える。