第50回日本理学療法学術大会

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ポスター2

発達障害理学療法2

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0627] カーター基準の検者間信頼性の調査

上杉雅之, 前田友樹, 田路寛行, 太田優美子, 瀧本京 (神戸国際大学)

キーワード:カーター基準, 検者間信頼性, 調査

【はじめに,目的】ダウン症等が有する低緊張による発達への影響として姿勢保持の困難,立ち直り・平衡反応の困難,協応動作の困難が認められている。そのため低緊張が児の発達に影響を及ぼしていると考えられる場合低緊張の評価が求められる。しかし,関節弛緩性を含む低緊張の検査法は極めて少ない。本研究は関節弛緩性検査カーター基準の検者間信頼性を調査することを目的とした。
【方法】対象はカーター基準を行ったことがなく,過去1年以内に検査対象となる個所に大きな怪我や手術を行っていない健常な学生15名を対象とした。検者はカーター基準を行ったことがない学生3名とした。被験者に対し検者3名が個別にカーター基準を行い,その結果を記録者が記録した。検者が行うカーター基準は,以下の方法で統一し,5項目の角度を測定した。検者3名には事前にカーター基準について30分間説明し,検査方法を事前に確認した。検査室は個室にて検者が被験者に対しカーター基準を調査した。記録には記録者を設け,検者及び被験者が値を見ないようにした。①肘関節伸展の項目は被験者を座位で肩関節90°屈曲・手関節背屈位で肘関節を自動的に最大まで伸展した。計測は上腕骨を基本軸とし,移動軸とする橈骨の肘関節屈曲角度とした。②母指橈側外転の項目は,被験者は座位で手関節掌屈位にて母指を前腕方向に他動的に誘導した。検者は被験者の前腕遠位部を把持し,手関節掌屈させ母指が前腕に方向に誘導した。計測は橈骨を基本軸とし橈骨茎状突起と拇指先端を結ぶ線を移動軸とする手関節掌屈角度とした。③手指伸展の項目は被験者を座位で,手関節背屈位で手指を他動的に過伸展する。検者は被験者の前腕遠位部を把持し固定する。肘関節屈曲位で,他方の手で手指を把持し前腕と平行となるようにした。計測は尺骨を基本軸とし,尺骨茎状突起と小指先端を結ぶ線を移動軸とする手関節背屈角度とした。④足関節背屈の項目は被験者を背臥位で足関節を他動的に背屈する。検者は被験者の踵部を把持し前腕を被験者の足底面に当て被験者の足関節を背屈させた。計測は腓骨への垂直線を基本軸とし第5中足骨を移動軸とする足関節背屈角度とした。⑤膝関節伸展の項目は被験者を立位で,股関節軽度伸展位で膝関節を自動的に最大まで伸展する。計測は検者は大腿骨を基準とし,腓骨頭と外果を結ぶ線を移動軸とする膝関節伸展角度とした。カーター基準とは関節弛緩性の有無を調べるために,5項目中3項目が陽性(関節可動域の拡大)で,上下肢共に陽性であれば全身の関節弛緩性があると判断される。結果は各角度を級内相関係数intraclass correlation coefficient(以下,ICC)を求めることによって検者間信頼性を検討した。統計ソフトはR-2.8.1を使用した。
【結果】ICC・SEMは肘関節伸展の項目で0.64と3.64,母指橈側外転の項目で0.70と13.53,手指伸展の項目で0.35と12.42,足関節背屈の項目で0.58と4,80,膝関節伸展の項目で0.25と4.14であった。
【考察】Landisによると,ICCが0.0-0.20で「slight」,0.21-0.40で「fair」,0.41-0.60で「moderate」,0.61-0.80で「substantial」,0.81-1.00で「almost perfect」とされている。本研究において,肘関節伸展はICC:0.641であり「substantial」,母指橈側外転はICC:0.704であり「substantial」,手指伸展はICC:0.352であり「fair」,足関節背屈はICC:0.584であり「moderate」,膝関節伸展はICC:0.257であり「fair」であった。手指伸展の項目の低値であった原因として,関節可動域が広いことに加え,検査者の他動的に伸展させた時の程度に差が生じたためと考える。膝関節伸展の項目の低値であった原因として膝関節伸展の関節可動域が小さいため,5°の差が生じると大きく影響が表れたからではないかと考える。本研究の限界として,調査を3日間に分けて測定を行ったため検者の測定技術に影響があり数値に影響が生じたと考える。また,被験者1人に対し,3名の検者が同一日に測定を行ったため,ストレッチ効果によって測定結果に差が生じたと考える。また,同基準は肘関節伸展と膝関節伸展以外は視診による判断で行うが,結果を統計により求めたために角度を計測したことが挙げられる。

【理学療法学研究としての意義】小児疾患は低緊張を有することが多く,また,それは運動発達を阻害する因子の一つである。しかし,関節弛緩性をはじめとする低緊張を評価する検査法は少ない,それゆえ,本研究は理学療法研究において意義が高いと考える。