[P2-A-0639] 脳性麻痺者の歩行速度の調節能力についての検討
Keywords:最大歩行, ゆっくり歩行, 脳性麻痺
【はじめに,目的】
移動場面における歩行速度の調節能力は段差昇降や耐久性などと共に歩行能力の一つである。実際の歩行場面では,移動速度を速くすることや遅くすることで目的や環境に合わせて歩行速度を変化させている。しかし,脳性麻痺者(以下:CP者)の歩行場面をみると目的に応じて歩行速度を変化させることが難しいように感じられる。そこで,我々は第33回関東甲信越ブロック理学療法士学会にて独歩可能なCP者の歩行速度調節能として快適歩行(以下:normal歩行)とゆっくり歩行(以下:slow歩行)の比較を行った。それらをもとに,本研究では新たに最大歩行(以下:fast歩行)も検討に加え3条件における10m歩行時間を計測し,それぞれの差を比較することで独歩可能なCP者の歩行速度の調節能力について検討したので報告する。
【方法】
対象は独歩可能なCP者12名(平均年齢16.3±5.3歳,GMFCSI群:6名,GMFCSII群:6名)とした。計測は10m歩行時間をnormal歩行,fast歩行,slow歩行の順で行い,疲労に考慮して実施した。各条件で3回ずつ計測し,それぞれの平均値を求めた。歩行速度の調節能力としてnormal歩行と比べfast歩行でどの程度速くできるか(以下:normal-fast差)とnormal歩行と比べslow歩行でどの程度遅くできるか(以下:slow-normal差)を算出した。また,2つの差の合計(以下:合計値)を算出し,歩行速度の調節可能な範囲とした。分析として3条件での歩行時間の比較として一元配置分散分析を行い多重比較としてBonferroniの方法を用いた(p<0.05)。歩行速度の調節能力を検討するため,対象者をGMFCSI群とII群に分け,両群間でのnormal-fast差とslow-normal差について対応のないt検定を用いて比較した(p<0.05)。また,全対象者を合計値の大きい順に順位付けし,歩行速度の調節可能な範囲について検討した。
【結果】
3条件での歩行時間では有意差を認め,多重比較の結果よりそれぞれの条件で有意差を認めた(p<0.05)。歩行速度の調節能力についてはnormal-fast差の平均は2.1±1.19sec,slow-normal差は4.19±2.89sec,合計値は6.29±3.78secであった。normal-fast差ではGMFCSI群とII群で有意差を認めなかった。slow-normal差ではGMFCSII群と比較してI群で有意に速度を遅くすることができていた。また,合計値の大きい順に順位付けした結果,上位7名(GMFCSI群:6名,II群1名)は合計値が5sec以上であったが,下位5名(全てII群)では合計値が5sec以下かつnormal-fast差が2sec以下であった。
【考察】
今回,normal歩行とfast歩行,slow歩行での歩行時間を比較した結果,それぞれで有意差を認めたことから独歩可能なCP者では今回の条件に合わせて歩行速度を変化することができていることが考えられた。また,normal-fast差の結果よりGMFCSI群とII群で歩行速度を速くする調節能力に違いがなく,slow-normal差の結果より両群で歩行速度を遅くする能力に違いがあることが分かった。これより,GMFCSI群とII群の歩行能力の違いについて,速度を遅くする調節能力も要因の一つであることが示唆された。合計値の大きい順に順位付けした結果では,合計値が5sec以下かつnormal-fast差が2sec以下の対象者は全てGMFCSII群であった。このことから,今回の研究では歩行速度の調節可能な範囲における一つの指標として合計値が5sec以上かつnormal-fast差が2sec以上の速度変化を出せることが目安になると考えられた。しかし,GMFCSII群でも今回の指標を上回る速度変化を出せる対象者もいることから,II群の中でも歩行速度の調節能力に差があることが示唆された。このような対象者には歩行速度の調節能力以外の段差昇降や耐久性などの向上を目指していくことで歩行能力の向上に繋がると考えられた。今後は対象者を増やしていくとともに,年齢や麻痺型の影響も考慮した検討を行っていければと考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度の調節能力は独歩可能なCP者の歩行能力を表す一つの指標として有用な情報であると考えられた。そのため,歩行能力の向上を目指していく際は歩行速度の調節能力に着目したプログラムを行っていくことも有効な方法の一つであることが示された。
移動場面における歩行速度の調節能力は段差昇降や耐久性などと共に歩行能力の一つである。実際の歩行場面では,移動速度を速くすることや遅くすることで目的や環境に合わせて歩行速度を変化させている。しかし,脳性麻痺者(以下:CP者)の歩行場面をみると目的に応じて歩行速度を変化させることが難しいように感じられる。そこで,我々は第33回関東甲信越ブロック理学療法士学会にて独歩可能なCP者の歩行速度調節能として快適歩行(以下:normal歩行)とゆっくり歩行(以下:slow歩行)の比較を行った。それらをもとに,本研究では新たに最大歩行(以下:fast歩行)も検討に加え3条件における10m歩行時間を計測し,それぞれの差を比較することで独歩可能なCP者の歩行速度の調節能力について検討したので報告する。
【方法】
対象は独歩可能なCP者12名(平均年齢16.3±5.3歳,GMFCSI群:6名,GMFCSII群:6名)とした。計測は10m歩行時間をnormal歩行,fast歩行,slow歩行の順で行い,疲労に考慮して実施した。各条件で3回ずつ計測し,それぞれの平均値を求めた。歩行速度の調節能力としてnormal歩行と比べfast歩行でどの程度速くできるか(以下:normal-fast差)とnormal歩行と比べslow歩行でどの程度遅くできるか(以下:slow-normal差)を算出した。また,2つの差の合計(以下:合計値)を算出し,歩行速度の調節可能な範囲とした。分析として3条件での歩行時間の比較として一元配置分散分析を行い多重比較としてBonferroniの方法を用いた(p<0.05)。歩行速度の調節能力を検討するため,対象者をGMFCSI群とII群に分け,両群間でのnormal-fast差とslow-normal差について対応のないt検定を用いて比較した(p<0.05)。また,全対象者を合計値の大きい順に順位付けし,歩行速度の調節可能な範囲について検討した。
【結果】
3条件での歩行時間では有意差を認め,多重比較の結果よりそれぞれの条件で有意差を認めた(p<0.05)。歩行速度の調節能力についてはnormal-fast差の平均は2.1±1.19sec,slow-normal差は4.19±2.89sec,合計値は6.29±3.78secであった。normal-fast差ではGMFCSI群とII群で有意差を認めなかった。slow-normal差ではGMFCSII群と比較してI群で有意に速度を遅くすることができていた。また,合計値の大きい順に順位付けした結果,上位7名(GMFCSI群:6名,II群1名)は合計値が5sec以上であったが,下位5名(全てII群)では合計値が5sec以下かつnormal-fast差が2sec以下であった。
【考察】
今回,normal歩行とfast歩行,slow歩行での歩行時間を比較した結果,それぞれで有意差を認めたことから独歩可能なCP者では今回の条件に合わせて歩行速度を変化することができていることが考えられた。また,normal-fast差の結果よりGMFCSI群とII群で歩行速度を速くする調節能力に違いがなく,slow-normal差の結果より両群で歩行速度を遅くする能力に違いがあることが分かった。これより,GMFCSI群とII群の歩行能力の違いについて,速度を遅くする調節能力も要因の一つであることが示唆された。合計値の大きい順に順位付けした結果では,合計値が5sec以下かつnormal-fast差が2sec以下の対象者は全てGMFCSII群であった。このことから,今回の研究では歩行速度の調節可能な範囲における一つの指標として合計値が5sec以上かつnormal-fast差が2sec以上の速度変化を出せることが目安になると考えられた。しかし,GMFCSII群でも今回の指標を上回る速度変化を出せる対象者もいることから,II群の中でも歩行速度の調節能力に差があることが示唆された。このような対象者には歩行速度の調節能力以外の段差昇降や耐久性などの向上を目指していくことで歩行能力の向上に繋がると考えられた。今後は対象者を増やしていくとともに,年齢や麻痺型の影響も考慮した検討を行っていければと考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度の調節能力は独歩可能なCP者の歩行能力を表す一つの指標として有用な情報であると考えられた。そのため,歩行能力の向上を目指していく際は歩行速度の調節能力に着目したプログラムを行っていくことも有効な方法の一つであることが示された。