[P2-A-0661] 精神疾患合併者に対する身体的リハビリテーションの効果
~精神疾患の有無でFIMの回復に違いが生じるか?~
Keywords:精神疾患, 機能的自立度評価法(FIM), 実施期間
【はじめに,目的】
当院は身体疾患と精神疾患を合わせ持った患者に対して治療を行う身体合併症病棟がある。当然ながら身体的リハビリテーション(以下,身体リハ)の対象となる患者も多く存在する。諸家の報告では精神疾患,特に認知症を合併している場合は理学療法実施の阻害因子となりアウトカムを不良にするとされている。一方,精神疾患罹患者を対象に運動療法を実施した研究では精神症状を含め体力向上,転倒予防など効果が得られたとの報告がある。また,精神疾患を有した運動器疾患者に対しての理学療法の効果についての報告も散見される。当院でも精神疾患を合併した患者に対して介入を行っているが,精神症状に難渋するケースがありそれに伴い回復の時間や程度に精神疾患がない対象者に比べて違いが生じている印象がある。先行研究では精神疾患の有無で介入の効果等を比較した報告は少ない。そこで,精神疾患の有無でFIMの回復や実施期間に違いが生じるのか明らかにする目的にて調査を実施した。若干の考察を加えて報告する。
【方法】
平成22年6月~26年9月の期間に当院にて身体リハを行った137名を対象とした。方法は精神科受診歴があり,診断があるものを抽出し精神疾患あり(以下,A群)なし(以下,B群)に分類。身体疾患名,年齢,性別,実施期間を調査。身体疾患名を元に脳血管疾患等,廃用症候群,運動器,呼吸器疾患に分類した。機能的自立度評価法(以下,FIM)にて身体リハ開始時と終了時に評価を実施。FIM総得点を運動項目,認知項目に分けそれぞれ終了時から開始時の点数を差し引いた点を利得点(以下,FIM利得点)として算出した。群間で年齢,実施期間,FIM得点,FIM利得点は対応のないt検定を実施。開始時,終了時のFIM得点は対応のあるt検定を実施し,5%未満の危険率を有意とした。
【結果】
A群が75名(男性32名,女性43名,年齢67.6±16.8歳),B群が62名(男性31名,女性31名,年齢80.7±9.3歳)。実施期間:A群77.7±62.7日,B群64.2±58.2日。A群が有意に若く(p<0.000),実施期間では有意差はみられなかった。身体疾患の内訳は,脳血管疾患等:A群7名,B群14名,廃用症候群:A群46名,B群20名,運動器:A群20名,B群28名,呼吸器:A群2名,B群0名。精神疾患名としては認知症:42名,うつ病(双極性障害含む):17名,統合失調症:15名,その他:11名であった。開始時FIM総得点:A群49.8±30.4点,B群63.4±29.2点。運動項目:A群30.4±22.5点,B群36.5±23.1点。認知項目:A群19.4±9.8点,B群26.8±8.3点。終了時FIM総得点:A群67.2±41.2点,B群80.2±36.0点。運動項目:A群47.6±31.2点,B群53.9±27.9点。認知項目:A群19.6±10.9点,B群26.2±9.6点となり,精神疾患の有無に関わらず開始時FIMより終了時FIMの運動項目および総得点が有意に高い結果となった(p<0.000)。群間の比較では開始時FIMの認知項目,総得点,終了時FIMの認知項目に有意差がみられた(p<0.01)。FIM利得点はFIM総得点:A群17.4±26.3点,B群16.8±23.2点で有意差はみられなかった。
【考察】
今調査では精神疾患の有無に関わらず開始時FIMに比べ終了時FIMの運動項目,総得点が高い結果となった。また,群間では運動項目,FIM利得点に有意差が無かった。これらの結果から精神疾患を有していたとしても身体リハの効果はあると言えるのではないだろうか。要因としては個別に応じた介入・対応方法の工夫などが考えられるが,当院身体合併症病棟では精神科医が主治医となるため精神症状に対しての相談が容易に可能で対応が迅速であることは大きい要因の一つと推察される。当初の予想に反して実施期間では有意差はなかった。先行研究と比較すると,うつ病を有した対象者では同程度ではあるが統合失調症では今調査の方が短い傾向であった。今回の調査では,精神疾患の診断の有無で分類したため精神症状が安定し身体リハ実施にそれほど影響を及ぼしていない場合,良好な結果に傾く可能性は否定できない。今後は症例数を増やし身体疾患,精神疾患ごとでの比較や精神症状の評価も含めた詳細な検討をしていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,結果が望めないと思われがちな精神疾患罹患者でも介入を実施することで日常生活動作に改善がみられる事を示した点である。精神疾患の一つである認知症患者が増えていくと言われている状況を踏まえると理学療法士の介入による効果を示すため更なるデータ蓄積が必要である。
当院は身体疾患と精神疾患を合わせ持った患者に対して治療を行う身体合併症病棟がある。当然ながら身体的リハビリテーション(以下,身体リハ)の対象となる患者も多く存在する。諸家の報告では精神疾患,特に認知症を合併している場合は理学療法実施の阻害因子となりアウトカムを不良にするとされている。一方,精神疾患罹患者を対象に運動療法を実施した研究では精神症状を含め体力向上,転倒予防など効果が得られたとの報告がある。また,精神疾患を有した運動器疾患者に対しての理学療法の効果についての報告も散見される。当院でも精神疾患を合併した患者に対して介入を行っているが,精神症状に難渋するケースがありそれに伴い回復の時間や程度に精神疾患がない対象者に比べて違いが生じている印象がある。先行研究では精神疾患の有無で介入の効果等を比較した報告は少ない。そこで,精神疾患の有無でFIMの回復や実施期間に違いが生じるのか明らかにする目的にて調査を実施した。若干の考察を加えて報告する。
【方法】
平成22年6月~26年9月の期間に当院にて身体リハを行った137名を対象とした。方法は精神科受診歴があり,診断があるものを抽出し精神疾患あり(以下,A群)なし(以下,B群)に分類。身体疾患名,年齢,性別,実施期間を調査。身体疾患名を元に脳血管疾患等,廃用症候群,運動器,呼吸器疾患に分類した。機能的自立度評価法(以下,FIM)にて身体リハ開始時と終了時に評価を実施。FIM総得点を運動項目,認知項目に分けそれぞれ終了時から開始時の点数を差し引いた点を利得点(以下,FIM利得点)として算出した。群間で年齢,実施期間,FIM得点,FIM利得点は対応のないt検定を実施。開始時,終了時のFIM得点は対応のあるt検定を実施し,5%未満の危険率を有意とした。
【結果】
A群が75名(男性32名,女性43名,年齢67.6±16.8歳),B群が62名(男性31名,女性31名,年齢80.7±9.3歳)。実施期間:A群77.7±62.7日,B群64.2±58.2日。A群が有意に若く(p<0.000),実施期間では有意差はみられなかった。身体疾患の内訳は,脳血管疾患等:A群7名,B群14名,廃用症候群:A群46名,B群20名,運動器:A群20名,B群28名,呼吸器:A群2名,B群0名。精神疾患名としては認知症:42名,うつ病(双極性障害含む):17名,統合失調症:15名,その他:11名であった。開始時FIM総得点:A群49.8±30.4点,B群63.4±29.2点。運動項目:A群30.4±22.5点,B群36.5±23.1点。認知項目:A群19.4±9.8点,B群26.8±8.3点。終了時FIM総得点:A群67.2±41.2点,B群80.2±36.0点。運動項目:A群47.6±31.2点,B群53.9±27.9点。認知項目:A群19.6±10.9点,B群26.2±9.6点となり,精神疾患の有無に関わらず開始時FIMより終了時FIMの運動項目および総得点が有意に高い結果となった(p<0.000)。群間の比較では開始時FIMの認知項目,総得点,終了時FIMの認知項目に有意差がみられた(p<0.01)。FIM利得点はFIM総得点:A群17.4±26.3点,B群16.8±23.2点で有意差はみられなかった。
【考察】
今調査では精神疾患の有無に関わらず開始時FIMに比べ終了時FIMの運動項目,総得点が高い結果となった。また,群間では運動項目,FIM利得点に有意差が無かった。これらの結果から精神疾患を有していたとしても身体リハの効果はあると言えるのではないだろうか。要因としては個別に応じた介入・対応方法の工夫などが考えられるが,当院身体合併症病棟では精神科医が主治医となるため精神症状に対しての相談が容易に可能で対応が迅速であることは大きい要因の一つと推察される。当初の予想に反して実施期間では有意差はなかった。先行研究と比較すると,うつ病を有した対象者では同程度ではあるが統合失調症では今調査の方が短い傾向であった。今回の調査では,精神疾患の診断の有無で分類したため精神症状が安定し身体リハ実施にそれほど影響を及ぼしていない場合,良好な結果に傾く可能性は否定できない。今後は症例数を増やし身体疾患,精神疾患ごとでの比較や精神症状の評価も含めた詳細な検討をしていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,結果が望めないと思われがちな精神疾患罹患者でも介入を実施することで日常生活動作に改善がみられる事を示した点である。精神疾患の一つである認知症患者が増えていくと言われている状況を踏まえると理学療法士の介入による効果を示すため更なるデータ蓄積が必要である。