[P2-A-0667] 反復性経頭蓋磁気刺激の低頻度と高頻度の違いが健常者の動作に与える効果
Keywords:反復性経頭蓋磁気刺激, 高・低頻度, 上肢運動機能
【はじめに,目的】
近年,非侵襲的な局所への刺激が可能な反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)が検査のみならず治療にも応用されている。rTMSの設定には,頻度や回数,強度,部位があり,先行研究の多くは頻度に着目している。rTMSの頻度が大脳皮質の興奮性に与える影響については,低頻度(LF)は低下させ,高頻度(HF)は亢進させると考えられているが,そのメカニズムは十分に解明されていない。また,頻度の違いに関わらず,rTMSによる健常者の動作への影響を調査したものは少ない。さらに,rTMSの刺激効果が動作に与える影響をLFとHFで比較した報告は渉猟しうる限りみられない。そのため,rTMSの設定は先行研究や検者の経験則に委ねられているのが現状である。本研究の目的は,rTMSの刺激頻度の相違による上肢運動機能への影響を比較検討することである。
【方法】
対象は右利き健常男性30名で,平均年齢24±3歳,平均身長167.2±4.8cm,平均体重64.2±3.2kgであった。これらをLF群10名とHF群10名,Sham群10名にわけた。測定項目は,指腹つまみ用ペグボードの遂行時間(ペグ遂行時間)と数取器を用いた10秒間のカウント回数(カウント回数),握力とした。測定は全て左手で実施し,運動学習の効果を考慮して疲労の起きない程度で事前練習した。rTMSには,MAG PRO R100(MagVenture社製)を用い,背臥位で頭部を固定し,LF群は左一次運動野(M1)にHF群は右M1にそれぞれ刺激した。rTMSの設定は,LF群を1Hzで90%rMTにて600発刺激し,HF群を5Hzで90%rMTにて10秒刺激と50秒休憩で計600発刺激した。Sham刺激は,右M1に8の字コイルを90°回転させ,HF群と同様の実施時間で実施した。手順は,1)rTMS前の測定,2)医師によるrTMSを実施,3)rTMS直後の測定,4)rTMSから20分後に測定という4工程で実施した。統計解析には,群間比較に1元配置分散分析を,効果の比較にTukey法を用いた。
【結果】
LF群では,ペグ遂行時間は刺激前24.7±4.3(Mean±SD)秒,刺激直後22.3±3.4秒,刺激後20分22.5±3.2秒であった。カウント回数は,刺激前58±3回,刺激直後63±2回,刺激後20分64±3回であった。ペグ遂行時間とカウント回数では,刺激直後と刺激後20分は刺激前より有意に動作が速くなっていた(p<0.05)。HF群では,ペグ遂行時間は刺激前25.6±2.0秒,刺激直後22.0±2.0秒,刺激後20分22.1±1.9秒であった。カウント回数は,刺激前57±3回,刺激直後63±2回,刺激後20分64±2回であった。ペグ遂行時間とカウント回数では,刺激直後と刺激後20分は刺激前より有意に動作が速くなっていた(p<0.05)。Sham群では,いずれの測定においても刺激前,刺激後,刺激後20分に有意差は認められなかった。握力は全群で有意差はみられなかった。
【考察】
ペグ遂行時間とカウント回数において,LF群とHF群で刺激前よりも刺激直後において上肢運動機能の向上がみられたが,20分後のcarry-over effectはHF群にのみ認められた。LF群ではM1の興奮性を低下させることで,半球間抑制の減少により左上肢の運動機能が向上した可能性がある。健常者のLF-rTMSに関しては,見解が一致していない。しかし,本研究は上肢課題遂行時間の短縮がみられたという報告を支持する結果であった。健常者のHF-rTMSに関しては,MEPの最大振幅が増大したという報告やfMRIにて刺激部位の脳活動が活性化したなどの報告がある。そのため,健常者であっても同側のM1の興奮を誘発することで上肢運動機能を向上させ得る可能性がある。握力において,LF群およびHF群の両群で握力の向上がみられなかった原因は,対象が健常者であったことが考えられる。rTMS後に握力が向上したという報告があるが,いずれも上位運動ニューロン障害により手指の円滑な把握が困難な例であった。rTMSによりMEPの増大が認められたという報告もあることから,動作への反応速度に影響を及ぼすが,筋力には直接的な影響を及ぼさないと推測される。本研究結果より,疾患に対する刺激目的にもよるが,慢性期脳卒中などにおいてはHF-rTMSを行う方がより短時間で高い効果を得られる可能性がある。また,rTMSのみでは運動機能の向上は定着しないが,LF-rTMSと運動療法との併用により運動機能が長期的に改善することが報告されている。そのため,今後はHF-rTMSと運動療法の併用による効果について解明されることが期待される。
【理学療法学研究としての意義】
これまで,rTMSの設定は不明瞭であったが,本研究により今後の上肢運動機能改善を目的としたrTMSの治療における刺激頻度決定の一助となる可能性がある。
近年,非侵襲的な局所への刺激が可能な反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)が検査のみならず治療にも応用されている。rTMSの設定には,頻度や回数,強度,部位があり,先行研究の多くは頻度に着目している。rTMSの頻度が大脳皮質の興奮性に与える影響については,低頻度(LF)は低下させ,高頻度(HF)は亢進させると考えられているが,そのメカニズムは十分に解明されていない。また,頻度の違いに関わらず,rTMSによる健常者の動作への影響を調査したものは少ない。さらに,rTMSの刺激効果が動作に与える影響をLFとHFで比較した報告は渉猟しうる限りみられない。そのため,rTMSの設定は先行研究や検者の経験則に委ねられているのが現状である。本研究の目的は,rTMSの刺激頻度の相違による上肢運動機能への影響を比較検討することである。
【方法】
対象は右利き健常男性30名で,平均年齢24±3歳,平均身長167.2±4.8cm,平均体重64.2±3.2kgであった。これらをLF群10名とHF群10名,Sham群10名にわけた。測定項目は,指腹つまみ用ペグボードの遂行時間(ペグ遂行時間)と数取器を用いた10秒間のカウント回数(カウント回数),握力とした。測定は全て左手で実施し,運動学習の効果を考慮して疲労の起きない程度で事前練習した。rTMSには,MAG PRO R100(MagVenture社製)を用い,背臥位で頭部を固定し,LF群は左一次運動野(M1)にHF群は右M1にそれぞれ刺激した。rTMSの設定は,LF群を1Hzで90%rMTにて600発刺激し,HF群を5Hzで90%rMTにて10秒刺激と50秒休憩で計600発刺激した。Sham刺激は,右M1に8の字コイルを90°回転させ,HF群と同様の実施時間で実施した。手順は,1)rTMS前の測定,2)医師によるrTMSを実施,3)rTMS直後の測定,4)rTMSから20分後に測定という4工程で実施した。統計解析には,群間比較に1元配置分散分析を,効果の比較にTukey法を用いた。
【結果】
LF群では,ペグ遂行時間は刺激前24.7±4.3(Mean±SD)秒,刺激直後22.3±3.4秒,刺激後20分22.5±3.2秒であった。カウント回数は,刺激前58±3回,刺激直後63±2回,刺激後20分64±3回であった。ペグ遂行時間とカウント回数では,刺激直後と刺激後20分は刺激前より有意に動作が速くなっていた(p<0.05)。HF群では,ペグ遂行時間は刺激前25.6±2.0秒,刺激直後22.0±2.0秒,刺激後20分22.1±1.9秒であった。カウント回数は,刺激前57±3回,刺激直後63±2回,刺激後20分64±2回であった。ペグ遂行時間とカウント回数では,刺激直後と刺激後20分は刺激前より有意に動作が速くなっていた(p<0.05)。Sham群では,いずれの測定においても刺激前,刺激後,刺激後20分に有意差は認められなかった。握力は全群で有意差はみられなかった。
【考察】
ペグ遂行時間とカウント回数において,LF群とHF群で刺激前よりも刺激直後において上肢運動機能の向上がみられたが,20分後のcarry-over effectはHF群にのみ認められた。LF群ではM1の興奮性を低下させることで,半球間抑制の減少により左上肢の運動機能が向上した可能性がある。健常者のLF-rTMSに関しては,見解が一致していない。しかし,本研究は上肢課題遂行時間の短縮がみられたという報告を支持する結果であった。健常者のHF-rTMSに関しては,MEPの最大振幅が増大したという報告やfMRIにて刺激部位の脳活動が活性化したなどの報告がある。そのため,健常者であっても同側のM1の興奮を誘発することで上肢運動機能を向上させ得る可能性がある。握力において,LF群およびHF群の両群で握力の向上がみられなかった原因は,対象が健常者であったことが考えられる。rTMS後に握力が向上したという報告があるが,いずれも上位運動ニューロン障害により手指の円滑な把握が困難な例であった。rTMSによりMEPの増大が認められたという報告もあることから,動作への反応速度に影響を及ぼすが,筋力には直接的な影響を及ぼさないと推測される。本研究結果より,疾患に対する刺激目的にもよるが,慢性期脳卒中などにおいてはHF-rTMSを行う方がより短時間で高い効果を得られる可能性がある。また,rTMSのみでは運動機能の向上は定着しないが,LF-rTMSと運動療法との併用により運動機能が長期的に改善することが報告されている。そのため,今後はHF-rTMSと運動療法の併用による効果について解明されることが期待される。
【理学療法学研究としての意義】
これまで,rTMSの設定は不明瞭であったが,本研究により今後の上肢運動機能改善を目的としたrTMSの治療における刺激頻度決定の一助となる可能性がある。