[P2-A-0668] 統合失調症患者に対する身体認知フィードバックによる転倒予防効果
Keywords:統合失調症, 最大一歩幅, 見積り誤差
【はじめに,目的】統合失調症患者は同年代の健常者に比べて最大一歩幅の見積り誤差が大きく,転倒者でより誤差が大きい事が示唆されている(細井ら,2012)。そこで,注意・学習の障害を持つとされる統合失調症患者に,定期的に自己の身体機能をフィードバックすることで,見積もり誤差という転倒リスクが軽減できるか否かを検証することを目的に介入研究を実施した。
【方法】対象は,精神科入院中の統合失調症患者で,運動療法に継続して参加している26名(男性7名,女性19名)である。最大一歩幅の予測値の測定は,メジャーを貼りつけたマットの端に両足先をそろえて立ち,メジャーを確認した上で,最大努力によって一歩を踏み出した際に,越えられると思う距離を予測してもらった。実測値の測定は,視線を正面に向け,両足先をマットの端に揃えた状態から最も大きく任意の脚を踏み出してもらい,立脚側の足部先端から,遊脚側の踵までの距離を測定した。得られた予測値と実測値の差を最大一歩幅の見積り誤差とし,純粋に距離を比較するために絶対値で分析した。初回測定後,通常の入院生活を26週間継続して,2回目の見積もり誤差を測定し,その後,週1回の身体認知フィードバックを10週間継続した。身体認知フィードバックとは,予測はせずに最大一歩幅を行い,何cmであったかを本人に伝えるというだけの単純なもので,11週目に3回目の見積もり誤差を測定し,さらに26週間後に4回目の見積もり誤差を測定した。また,身体認知フィードバック前後26週間に提出されたアクシデントレポートから転倒件数を調査し,得られた転倒件数を観測日数で除した値に1000を乗じた値を転倒率として分析した。解析には統計解析ソフトSPSS Ver.21を使用し,二群の比較にはウィルコクソンの検定,多群の比較には反復測定分散分析を行い,多重比較はScheffe法を用いた。
【結果】最大一歩幅の見積り誤差は,初回が平均13.7cm,2回目が13.2cm,身体認知フィードバック後の3回目が6.8cm,4回目が11.5cmであった。初回と2回目の見積もり誤差を比較した結果,有意差はなく,通常の入院生活や一般的な運動療法を行っていても,見積もり誤差は変化しなかった。計4回の見積もり誤差測定結果に対して,反復測定分散分析を行った結果,被験者内効果が有意であり(F(3,75)=4.965,p=0.003),多重比較の結果,初回と3回目,2回目と3回目との間に有意差がみられた(p<0.05)。身体認知フィードバック前後26週間の転倒率を比較した結果,平均転倒率が4.4±8.4から3.0±5.0に低下していたが,有意な差はなかった。
【考察】対象者は全員,ストレッチ,筋力強化,バランス練習などの運動療法に継続して参加していたが,初回と2回目の見積もり誤差に有意差はなく,一般的な身体運動を繰り返しても,精神科在院中の統合失調症患者において,身体機能の自己認識の逸脱は改善しないことが示唆された。また,身体認知フィードバックを実施した結果,フィードバック後に最大一歩幅の見積もり誤差が有意に減少したが,フィードバック前後26週間の転倒率の比較では,有意な差はなかった。これらの結果から,身体認知フィードバックを行うと,最大一歩幅の見積もり誤差に現れる身体機能の自己認識の逸脱は一時的に軽減するものの,これが直接的に転倒予防に繋がるとまでは言えないことが示唆された。転倒事故は多要因で発生する事象であるため,身体機能の自己認識の逸脱というリスクのみを軽減しても,著明な効果が得られなかった可能性や,対象者が運動療法の指示が出ている方であり,もともと転倒リスクの高い方が多く,転倒率が有意に減少するほどの効果がなかった可能性もある。また,身体認知フィードバックから26週後には再び誤差が拡大していたため,転倒率が有意に減少しなかったという可能性もあり,今後はフィードバックの頻度や期間を検討する必要がある。転倒は,目的とする課題と身体機能や認知機能を持つ個人,さらには個人が置かれた環境の三者がうまく適合されなかった場合に生じるとされており(星,2002),自分の身体機能を把握して,環境に合わせた無理のない動作や行動を選択することは,転倒予防に必要な能力である。
【理学療法学研究としての意義】統合失調症患者の身体機能の自己認識の逸脱を軽減する試みは初の試みであり,統合失調症患者に理学療法を提供する上で,有益な情報が得られたと考える。
【方法】対象は,精神科入院中の統合失調症患者で,運動療法に継続して参加している26名(男性7名,女性19名)である。最大一歩幅の予測値の測定は,メジャーを貼りつけたマットの端に両足先をそろえて立ち,メジャーを確認した上で,最大努力によって一歩を踏み出した際に,越えられると思う距離を予測してもらった。実測値の測定は,視線を正面に向け,両足先をマットの端に揃えた状態から最も大きく任意の脚を踏み出してもらい,立脚側の足部先端から,遊脚側の踵までの距離を測定した。得られた予測値と実測値の差を最大一歩幅の見積り誤差とし,純粋に距離を比較するために絶対値で分析した。初回測定後,通常の入院生活を26週間継続して,2回目の見積もり誤差を測定し,その後,週1回の身体認知フィードバックを10週間継続した。身体認知フィードバックとは,予測はせずに最大一歩幅を行い,何cmであったかを本人に伝えるというだけの単純なもので,11週目に3回目の見積もり誤差を測定し,さらに26週間後に4回目の見積もり誤差を測定した。また,身体認知フィードバック前後26週間に提出されたアクシデントレポートから転倒件数を調査し,得られた転倒件数を観測日数で除した値に1000を乗じた値を転倒率として分析した。解析には統計解析ソフトSPSS Ver.21を使用し,二群の比較にはウィルコクソンの検定,多群の比較には反復測定分散分析を行い,多重比較はScheffe法を用いた。
【結果】最大一歩幅の見積り誤差は,初回が平均13.7cm,2回目が13.2cm,身体認知フィードバック後の3回目が6.8cm,4回目が11.5cmであった。初回と2回目の見積もり誤差を比較した結果,有意差はなく,通常の入院生活や一般的な運動療法を行っていても,見積もり誤差は変化しなかった。計4回の見積もり誤差測定結果に対して,反復測定分散分析を行った結果,被験者内効果が有意であり(F(3,75)=4.965,p=0.003),多重比較の結果,初回と3回目,2回目と3回目との間に有意差がみられた(p<0.05)。身体認知フィードバック前後26週間の転倒率を比較した結果,平均転倒率が4.4±8.4から3.0±5.0に低下していたが,有意な差はなかった。
【考察】対象者は全員,ストレッチ,筋力強化,バランス練習などの運動療法に継続して参加していたが,初回と2回目の見積もり誤差に有意差はなく,一般的な身体運動を繰り返しても,精神科在院中の統合失調症患者において,身体機能の自己認識の逸脱は改善しないことが示唆された。また,身体認知フィードバックを実施した結果,フィードバック後に最大一歩幅の見積もり誤差が有意に減少したが,フィードバック前後26週間の転倒率の比較では,有意な差はなかった。これらの結果から,身体認知フィードバックを行うと,最大一歩幅の見積もり誤差に現れる身体機能の自己認識の逸脱は一時的に軽減するものの,これが直接的に転倒予防に繋がるとまでは言えないことが示唆された。転倒事故は多要因で発生する事象であるため,身体機能の自己認識の逸脱というリスクのみを軽減しても,著明な効果が得られなかった可能性や,対象者が運動療法の指示が出ている方であり,もともと転倒リスクの高い方が多く,転倒率が有意に減少するほどの効果がなかった可能性もある。また,身体認知フィードバックから26週後には再び誤差が拡大していたため,転倒率が有意に減少しなかったという可能性もあり,今後はフィードバックの頻度や期間を検討する必要がある。転倒は,目的とする課題と身体機能や認知機能を持つ個人,さらには個人が置かれた環境の三者がうまく適合されなかった場合に生じるとされており(星,2002),自分の身体機能を把握して,環境に合わせた無理のない動作や行動を選択することは,転倒予防に必要な能力である。
【理学療法学研究としての意義】統合失調症患者の身体機能の自己認識の逸脱を軽減する試みは初の試みであり,統合失調症患者に理学療法を提供する上で,有益な情報が得られたと考える。