[P2-A-0677] 擬似高齢者の乗車動作の検討
キーワード:擬似高齢者, 乗車動作, 動作パターン
【はじめに,目的】高齢者の社会参加は豊かな生活を過ごすために重要である。社会参加の手段に自家用車の選択が増大傾向と報告されている。この乗車動作は,下肢の運動痛や関節制限,空間認識等の加齢による影響で困難になることがある。そのため,理学療法士が日常生活動作として指導する動作である。しかし,今まで加齢による影響を高齢者で研究した報告は少ない。そこで,今回,助手席への乗車動作を健常健常若年による動作と高齢者体験装具おいたろうKT-27(株式会社 京都科学:高齢者を擬似設定)を装着した2条件で計測し,動作パターンと関節運動について分析した。高齢者体験装具の装着による擬似高齢者について動作を比較し,どのような指導が必要で望ましいか検討し,明らかにする。
【方法】対象は健常若年者20名(男女各10名)である。自動車乗車は,2013年最も多く高齢者に購入された小型自動車FIT(HONDA)の助手席を測定空間とした。この空間を再現した擬似空間を設定した。定位置より乗車動作を,何も装着しない場合(以下健常若年群)と高齢者体験装具を装着した場合(以下擬似高齢群)の2条件とした。この高齢者体験装具は,ゴーグルにより視野を狭くし視覚の識別を低下させ,上下肢と体幹に重りをつけ筋力低下の再現し,膝サポーターで膝関節の動きにくさを再現している。計測は,肩峰や大転子等マーキングポイント24か所とした。条件別に各3回乗車動作を実施し,カメラ2台で撮影した。乗車動作を3フェーズに分け,動作にかかる時間,全体の動作パターンと体幹,股関節,膝関節の関節角度等を測定し,解析は2次元ビデオ動作解析システムFrameDIAS-Vを用いた。分析は,SPSSで統計処理をした。
乗車動作は開始姿位から右下肢を車内に接地するまでのフェーズ1,右下肢接地後から臀部接地までのフェーズ2,臀部接地から左下肢の車内への引き込みまでのフェーズ3と分割した。さらに,動作遂行後に乗り込みにくさに関するアンケートを実施した。
【結果】擬似高齢群は,健常若年群と比較してフェーズ1で動作遂行時間が延長し,最終フェーズ3の膝関節屈曲角度で有意に差があった。そこで,フェーズ3に着目し,膝関節最大屈曲時に他の関節に変化がみられるかどうかを確認するために,同時期の体幹,股関節角度を抽出した。その結果,体幹の屈曲角度が減少した者が20名中10名(男性5名,女性5名)(以下体幹群),股関節屈曲角度が増加した者が20名中5名(男性2名,女性3名)(以下股関節群),さらに体幹屈曲の減少と股関節屈曲の増加が共に起こった者が20名中4名(男性2名,女性2名)(以下混合群)の3つのパターンが得られた。他1名(男性1名)は体幹の屈曲が増加し,股関節は屈曲が減少する結果であった。それぞれの関節角度の変化を健常者群と疑似高齢者群において対応のあるT検定を実施して比較したところ,体幹のみが変化した群と股関節のみが変化した群において角度の変化に有意な差があった。
【考察】フェーズ3における膝関節角度の減少は,高齢者体験装具装着によるサポーターの膝関節屈曲制限が影響したと推察する。
体幹群では,フェーズ3の膝関節最大屈曲は車外に残った外足を引き上げる時期であり,膝関節の屈曲制限と疑似的な下肢の筋力低下により,高齢者にとって大きな力を必要とする困難な動作である。この困難さを代償するために,てこの原理により体幹の質量をCW(Counter Weight)として利用し,下肢を引き上げたと推察する。
股関節群は,高齢者体験装具装着によりドア枠の段差に対する視覚的な識別性が低下し,下肢がドア枠に接触するのを回避するために下肢を高く上げようとした結果,股関節屈曲が増加したと推察する。したがって,体幹群が体幹の質量を利用し下肢を引き上げた戦略に対して,股関節群は股関節屈筋群の力を利用し下肢を引き上げ,下肢,体幹の屈曲の力により身体の固定性をつくり,動作を遂行したのである。この動作は高齢者にとり負荷が大きく,体幹群の方が効率的と考えた。
また,混合群については,体幹群と股関節群の反応が複合的に起こったのではないかと考えた。つまり下肢を高く上げようとした結果,股関節屈曲が増加したが,股関節群のような下肢,体幹の屈曲による身体の固定ではなく,体幹群と同様に体幹の質量を利用して下肢の質量と釣り合いを得る戦略をとったのである。この混合群に関してはさらに検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
乗車動作で得られた内容は,高齢者に対する指導の指標として意義あるものだった。今後は3次元動作解析により新たな分析が必要と考える。
【方法】対象は健常若年者20名(男女各10名)である。自動車乗車は,2013年最も多く高齢者に購入された小型自動車FIT(HONDA)の助手席を測定空間とした。この空間を再現した擬似空間を設定した。定位置より乗車動作を,何も装着しない場合(以下健常若年群)と高齢者体験装具を装着した場合(以下擬似高齢群)の2条件とした。この高齢者体験装具は,ゴーグルにより視野を狭くし視覚の識別を低下させ,上下肢と体幹に重りをつけ筋力低下の再現し,膝サポーターで膝関節の動きにくさを再現している。計測は,肩峰や大転子等マーキングポイント24か所とした。条件別に各3回乗車動作を実施し,カメラ2台で撮影した。乗車動作を3フェーズに分け,動作にかかる時間,全体の動作パターンと体幹,股関節,膝関節の関節角度等を測定し,解析は2次元ビデオ動作解析システムFrameDIAS-Vを用いた。分析は,SPSSで統計処理をした。
乗車動作は開始姿位から右下肢を車内に接地するまでのフェーズ1,右下肢接地後から臀部接地までのフェーズ2,臀部接地から左下肢の車内への引き込みまでのフェーズ3と分割した。さらに,動作遂行後に乗り込みにくさに関するアンケートを実施した。
【結果】擬似高齢群は,健常若年群と比較してフェーズ1で動作遂行時間が延長し,最終フェーズ3の膝関節屈曲角度で有意に差があった。そこで,フェーズ3に着目し,膝関節最大屈曲時に他の関節に変化がみられるかどうかを確認するために,同時期の体幹,股関節角度を抽出した。その結果,体幹の屈曲角度が減少した者が20名中10名(男性5名,女性5名)(以下体幹群),股関節屈曲角度が増加した者が20名中5名(男性2名,女性3名)(以下股関節群),さらに体幹屈曲の減少と股関節屈曲の増加が共に起こった者が20名中4名(男性2名,女性2名)(以下混合群)の3つのパターンが得られた。他1名(男性1名)は体幹の屈曲が増加し,股関節は屈曲が減少する結果であった。それぞれの関節角度の変化を健常者群と疑似高齢者群において対応のあるT検定を実施して比較したところ,体幹のみが変化した群と股関節のみが変化した群において角度の変化に有意な差があった。
【考察】フェーズ3における膝関節角度の減少は,高齢者体験装具装着によるサポーターの膝関節屈曲制限が影響したと推察する。
体幹群では,フェーズ3の膝関節最大屈曲は車外に残った外足を引き上げる時期であり,膝関節の屈曲制限と疑似的な下肢の筋力低下により,高齢者にとって大きな力を必要とする困難な動作である。この困難さを代償するために,てこの原理により体幹の質量をCW(Counter Weight)として利用し,下肢を引き上げたと推察する。
股関節群は,高齢者体験装具装着によりドア枠の段差に対する視覚的な識別性が低下し,下肢がドア枠に接触するのを回避するために下肢を高く上げようとした結果,股関節屈曲が増加したと推察する。したがって,体幹群が体幹の質量を利用し下肢を引き上げた戦略に対して,股関節群は股関節屈筋群の力を利用し下肢を引き上げ,下肢,体幹の屈曲の力により身体の固定性をつくり,動作を遂行したのである。この動作は高齢者にとり負荷が大きく,体幹群の方が効率的と考えた。
また,混合群については,体幹群と股関節群の反応が複合的に起こったのではないかと考えた。つまり下肢を高く上げようとした結果,股関節屈曲が増加したが,股関節群のような下肢,体幹の屈曲による身体の固定ではなく,体幹群と同様に体幹の質量を利用して下肢の質量と釣り合いを得る戦略をとったのである。この混合群に関してはさらに検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
乗車動作で得られた内容は,高齢者に対する指導の指標として意義あるものだった。今後は3次元動作解析により新たな分析が必要と考える。