[P2-A-0687] 農村部在住高齢者の草取り作業が身体機能面・社会心理面に及ぼす経年的影響について
キーワード:縦断的調査, 活動, QOL
【はじめに,目的】
“草取り作業”は農村部在住高齢者の生活時間の中で占める割合が大きく,身体面への悪影響が危惧される反面,“生活の質”という点では重要な意味を持つ。理学療法士の立場から,こうした農村部の高齢者の草取り作業を考える場合,身体的影響を考慮して作業中止を勧めるべきか,心理的効果に価値を置いて継続を見守るべきか迷うところである。そこで我々は,農村部在住高齢者の草取り作業の
実態について調査を行い,身体機能の衰えや膝の変形の程度にかかわらず日常的に作業が行なわれていること,草取りによって痛みが生じても,症状が緩らげば作業を継続する高齢者が多いこと,草取りの作業量と膝変形の程度は密接に関係していることなどについて,第49回理学療法士学術大会において報告した。今回,1年後の変化を明らかにするため,前回と同様の調査を行い,草取り作業が身体機能面・社会心理面に及ぼす経年的影響について検討した。
【方法】
対象は,同一地域在住の日頃草取り作業を行っている女性高齢者で2013年と2014年に全調査を実施できた29名とした。内訳は,通所リハビリテーションを利用する要介護・要支援者9名(平均年齢83.3±5.1才,以下デイケア群),地域支援事業に参加する一般高齢者11名(81.5±4.0才,以下地域支援群),地域の老人クラブに所属する活動的な元気高齢者9名(76.6±4.0才,以下老人クラブ群)であった。
調査項目は,①家屋環境,②草取り作業実態調査(頻度,時間,草取り姿勢),③身体計測(体格,膝関節可動域,両膝顆間距離,両果間距離,円背度,骨密度),④活動・心理面評価(老研式活動能力指標;以下老研式,K-I式高齢者向け生きがい感スケール;以下K-I式)とした。調査は,両年とも7~8月に行った。統計処理にはFreeJSTATを使用し有意水準を5%として解析を行った。
【結果】
家屋環境では全員が一軒家の持ち家に居住し,畑仕事を行っていないのは3名であった。
草取り作業実態では2013年から2014年の1年間で,1週間あたりの作業日数の全体平均は3.3±1.6日から3.9±1.7日へと有意に増加し,1回あたりの作業時間の全体平均は3.1±1.1時間から3.0±1.3時間と著変なかった。草取り作業姿勢ではかがみ位を選択した人数は両年とも21人であり,しゃがみ位は12人から13人と著変ないものの,それぞれの姿勢を1位とした人数は減少していた。一方,低い腰掛座位は11人から17人,膝立ち位は4人から8人へ増加していた。
身体面において内側上顆間距離,内果間距離の全体平均の経年変化ではそれぞれ4.1±3.7cmから5.3±3.8cm,0.4±0.7cmから0.9±0.8cmと有意に増加していた。群ごとの平均においても地域支援群と老人クラブ群で有意に増加していた。また3群間の比較では両年ともデイケア群が最も大きい値を示した。膝関節伸展可動域の経年変化では,全体平均では著変ないもデイケア群で-10.6±9.2°から-15.0±9.7°と有意に減少していた。
活動面の評価において老研式合計点平均の群別経年変化では,デイケア群は7.8±2.7点から7.0±2.8点へと減少傾向を示したが,他の2群は経年変化を認めなかった。3群間の比較では両年ともデイケア群が老人クラブ群より有意に低かった。一方心理面の評価において,K-I式の合計点数平均の経年変化ではデイケア群と地域支援群で上昇傾向を認め,3群間の比較では両年ともに有意な差を認めなかった。
【考察】
当地域は農業が盛んな土地柄で対象全員が畑を所有していた。畑仕事をしなくなった人でも草取り作業は継続しており,身体機能が低下しても作業姿勢を変化させながら一定の日数・時間を草取りに費やしていることが明らかになった。また心理面への影響について特にデイケア群では,身体機能や活動度が低下しているにもかかわらずK-I式の合計点数平均は他の2群と同程度な上,1年後には上昇傾向を示した。このことは,デイケアを利用しながらも草取り作業を継続する高齢者にとって草取り作業は自分の役割・やれることであり,生活の質の向上に寄与していることを示唆している。
一方身体面への影響では,3群ともO脚変形の進行を認めた。元々O脚変形の大きかったデイケア群では膝関節伸展制限も有意に増大していた。草取り作業が下肢の変形進行に与える影響は少なからずあると考えるが,その検証のためには農村部以外で同様の調査を行い比較検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は理学療法士が,高齢者の草取り作業実態を把握しその身体的・心理的影響を知る上で有意義と思われる。
“草取り作業”は農村部在住高齢者の生活時間の中で占める割合が大きく,身体面への悪影響が危惧される反面,“生活の質”という点では重要な意味を持つ。理学療法士の立場から,こうした農村部の高齢者の草取り作業を考える場合,身体的影響を考慮して作業中止を勧めるべきか,心理的効果に価値を置いて継続を見守るべきか迷うところである。そこで我々は,農村部在住高齢者の草取り作業の
実態について調査を行い,身体機能の衰えや膝の変形の程度にかかわらず日常的に作業が行なわれていること,草取りによって痛みが生じても,症状が緩らげば作業を継続する高齢者が多いこと,草取りの作業量と膝変形の程度は密接に関係していることなどについて,第49回理学療法士学術大会において報告した。今回,1年後の変化を明らかにするため,前回と同様の調査を行い,草取り作業が身体機能面・社会心理面に及ぼす経年的影響について検討した。
【方法】
対象は,同一地域在住の日頃草取り作業を行っている女性高齢者で2013年と2014年に全調査を実施できた29名とした。内訳は,通所リハビリテーションを利用する要介護・要支援者9名(平均年齢83.3±5.1才,以下デイケア群),地域支援事業に参加する一般高齢者11名(81.5±4.0才,以下地域支援群),地域の老人クラブに所属する活動的な元気高齢者9名(76.6±4.0才,以下老人クラブ群)であった。
調査項目は,①家屋環境,②草取り作業実態調査(頻度,時間,草取り姿勢),③身体計測(体格,膝関節可動域,両膝顆間距離,両果間距離,円背度,骨密度),④活動・心理面評価(老研式活動能力指標;以下老研式,K-I式高齢者向け生きがい感スケール;以下K-I式)とした。調査は,両年とも7~8月に行った。統計処理にはFreeJSTATを使用し有意水準を5%として解析を行った。
【結果】
家屋環境では全員が一軒家の持ち家に居住し,畑仕事を行っていないのは3名であった。
草取り作業実態では2013年から2014年の1年間で,1週間あたりの作業日数の全体平均は3.3±1.6日から3.9±1.7日へと有意に増加し,1回あたりの作業時間の全体平均は3.1±1.1時間から3.0±1.3時間と著変なかった。草取り作業姿勢ではかがみ位を選択した人数は両年とも21人であり,しゃがみ位は12人から13人と著変ないものの,それぞれの姿勢を1位とした人数は減少していた。一方,低い腰掛座位は11人から17人,膝立ち位は4人から8人へ増加していた。
身体面において内側上顆間距離,内果間距離の全体平均の経年変化ではそれぞれ4.1±3.7cmから5.3±3.8cm,0.4±0.7cmから0.9±0.8cmと有意に増加していた。群ごとの平均においても地域支援群と老人クラブ群で有意に増加していた。また3群間の比較では両年ともデイケア群が最も大きい値を示した。膝関節伸展可動域の経年変化では,全体平均では著変ないもデイケア群で-10.6±9.2°から-15.0±9.7°と有意に減少していた。
活動面の評価において老研式合計点平均の群別経年変化では,デイケア群は7.8±2.7点から7.0±2.8点へと減少傾向を示したが,他の2群は経年変化を認めなかった。3群間の比較では両年ともデイケア群が老人クラブ群より有意に低かった。一方心理面の評価において,K-I式の合計点数平均の経年変化ではデイケア群と地域支援群で上昇傾向を認め,3群間の比較では両年ともに有意な差を認めなかった。
【考察】
当地域は農業が盛んな土地柄で対象全員が畑を所有していた。畑仕事をしなくなった人でも草取り作業は継続しており,身体機能が低下しても作業姿勢を変化させながら一定の日数・時間を草取りに費やしていることが明らかになった。また心理面への影響について特にデイケア群では,身体機能や活動度が低下しているにもかかわらずK-I式の合計点数平均は他の2群と同程度な上,1年後には上昇傾向を示した。このことは,デイケアを利用しながらも草取り作業を継続する高齢者にとって草取り作業は自分の役割・やれることであり,生活の質の向上に寄与していることを示唆している。
一方身体面への影響では,3群ともO脚変形の進行を認めた。元々O脚変形の大きかったデイケア群では膝関節伸展制限も有意に増大していた。草取り作業が下肢の変形進行に与える影響は少なからずあると考えるが,その検証のためには農村部以外で同様の調査を行い比較検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は理学療法士が,高齢者の草取り作業実態を把握しその身体的・心理的影響を知る上で有意義と思われる。