[P2-A-0703] 水深の違いが水中吸気負荷呼吸後の吸気筋疲労に及ぼす影響
Keywords:水中運動, 吸気筋筋力, 健康増進
【はじめに,目的】
高齢者の死因として肺炎は大きな割合を占めており,その原因の一つとして咳嗽能力の低下が指摘されている。咳嗽能力は呼吸筋力と相関があるとされ,健康増進において呼吸筋力の維持・向上は不可欠である。また,近年水中運動は水の性質により関節にかかる負担を軽減できることや,筋力の向上を促すことができることから,中高年者をはじめ各世代で健康増進の手段として注目されている。水中運動は,水深によっては吸気時には抵抗が加わり吸気筋筋力を増強させる有効な手段となる可能性が考えられるが,呼吸筋に対する影響についての報告はほとんどない。
そこで今回,水深(鎖骨部・第4肋間・臍部)の違いが吸気筋に与える影響について検討したので報告する。
【方法】
対象は,健常成人男性11名(年齢24.4±4.2歳,身長170.1±4.3cm,体重66.1±6.3kg)とし,測定は3条件の水深レベル(鎖骨部・第4肋間部・臍部)にて実施した。測定項目として,吸気筋筋力(Maximum inspiratory pressure;PImax)を下記プロトコールに従って測定した。
プロトコール:各水深条件ともに,まず被験者は臍レベルの水深で安静座位5分後にPImaxを測定し,これをbaseline(BL)とした。次に,各水位レベル(鎖骨部・第4肋間部・臍部)で安静座位5分後にBLの30%に設定した吸気負荷装置(Threshold IMT)を使用し,吸気負荷呼吸を1分間15回の頻度で15分間実施した。そして負荷終了直後のPImaxを各水位条件ともに臍レベルの水深にて測定した。そしてBLを基準として負荷呼吸後の吸気筋筋力の変化率(PImax変化率)を算出した。尚,各条件は少なくても3日以上間隔をあけて実施した。
実験機器および環境については,水槽は(HOKKODENKI水中トレッドミルKRT-2500P)を利用し,水温は32±1℃とした。PImaxはチェスト社製スパイロメーターHI-801にて各2回測定し,最大値を採用した。
統計学的処理として,ベースラインと負荷呼吸終了直後のPImaxは対応のあるt検定にて比較し,条件間におけるPImax変化率は一元配置分散分析後,多重比較検定にて比較した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
PImaxは,各条件でベースラインと比べて負荷呼吸後は有意に低下(p<0.05)を示し,またPImax変化率においては,水位が臍および第4肋間レベルと比べて鎖骨レベルでは有意にPImaxの低下率(臍部;4.2±3.2%,第4肋間部;3.8±2.2%,鎖骨部;12.8±3.4,p<0.05)が高かった。臍レベルと第4肋間レベルのPImax変化率には有意な差を認めなかった。
【考察】
一般的に,水中では水深が増すことによって静水圧により胸郭が圧迫・圧縮され肺容量が減少するとされている。今回の結果より鎖骨部レベルのPImaxは臍部・第4肋間レベルと比べて有意に低下を示したことから,水深が鎖骨レベルになると全胸壁に水圧がかかり,圧迫された胸郭を広げるためには吸気時により筋力が必要となり,呼吸を繰り返すことで吸気筋により疲労を生じさせていると考えられた。また,臍部と第4肋間部では,PImaxの低下に有意な差を認めなかったことから,今回の運動負荷においては,これらの水深において吸気筋への負荷に差はないものと思われた。これらのことから,鎖骨レベルの水深における水中運動は吸気筋筋力に影響を与え,吸気筋筋力を増強させる有効的な手段となり得ると考えられた。
今回は水中において吸気筋のみに負荷をかけたが,今後は水中での全身運動時における吸気筋への水深の影響も検討する必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
健康増進において中高齢者の水中運動がよく実施されており,水中運動の効果における報告は多数認められている。しかし,水中運動における呼吸筋力に対する影響を調べたものは少ない。今回の研究で水中での運動は吸気筋に影響を与えることが確認され,水中運動における吸気筋力向上の有効的な手段となる可能性が示唆された。我々の研究はそれを裏付けるデータになると思われる。
高齢者の死因として肺炎は大きな割合を占めており,その原因の一つとして咳嗽能力の低下が指摘されている。咳嗽能力は呼吸筋力と相関があるとされ,健康増進において呼吸筋力の維持・向上は不可欠である。また,近年水中運動は水の性質により関節にかかる負担を軽減できることや,筋力の向上を促すことができることから,中高年者をはじめ各世代で健康増進の手段として注目されている。水中運動は,水深によっては吸気時には抵抗が加わり吸気筋筋力を増強させる有効な手段となる可能性が考えられるが,呼吸筋に対する影響についての報告はほとんどない。
そこで今回,水深(鎖骨部・第4肋間・臍部)の違いが吸気筋に与える影響について検討したので報告する。
【方法】
対象は,健常成人男性11名(年齢24.4±4.2歳,身長170.1±4.3cm,体重66.1±6.3kg)とし,測定は3条件の水深レベル(鎖骨部・第4肋間部・臍部)にて実施した。測定項目として,吸気筋筋力(Maximum inspiratory pressure;PImax)を下記プロトコールに従って測定した。
プロトコール:各水深条件ともに,まず被験者は臍レベルの水深で安静座位5分後にPImaxを測定し,これをbaseline(BL)とした。次に,各水位レベル(鎖骨部・第4肋間部・臍部)で安静座位5分後にBLの30%に設定した吸気負荷装置(Threshold IMT)を使用し,吸気負荷呼吸を1分間15回の頻度で15分間実施した。そして負荷終了直後のPImaxを各水位条件ともに臍レベルの水深にて測定した。そしてBLを基準として負荷呼吸後の吸気筋筋力の変化率(PImax変化率)を算出した。尚,各条件は少なくても3日以上間隔をあけて実施した。
実験機器および環境については,水槽は(HOKKODENKI水中トレッドミルKRT-2500P)を利用し,水温は32±1℃とした。PImaxはチェスト社製スパイロメーターHI-801にて各2回測定し,最大値を採用した。
統計学的処理として,ベースラインと負荷呼吸終了直後のPImaxは対応のあるt検定にて比較し,条件間におけるPImax変化率は一元配置分散分析後,多重比較検定にて比較した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
PImaxは,各条件でベースラインと比べて負荷呼吸後は有意に低下(p<0.05)を示し,またPImax変化率においては,水位が臍および第4肋間レベルと比べて鎖骨レベルでは有意にPImaxの低下率(臍部;4.2±3.2%,第4肋間部;3.8±2.2%,鎖骨部;12.8±3.4,p<0.05)が高かった。臍レベルと第4肋間レベルのPImax変化率には有意な差を認めなかった。
【考察】
一般的に,水中では水深が増すことによって静水圧により胸郭が圧迫・圧縮され肺容量が減少するとされている。今回の結果より鎖骨部レベルのPImaxは臍部・第4肋間レベルと比べて有意に低下を示したことから,水深が鎖骨レベルになると全胸壁に水圧がかかり,圧迫された胸郭を広げるためには吸気時により筋力が必要となり,呼吸を繰り返すことで吸気筋により疲労を生じさせていると考えられた。また,臍部と第4肋間部では,PImaxの低下に有意な差を認めなかったことから,今回の運動負荷においては,これらの水深において吸気筋への負荷に差はないものと思われた。これらのことから,鎖骨レベルの水深における水中運動は吸気筋筋力に影響を与え,吸気筋筋力を増強させる有効的な手段となり得ると考えられた。
今回は水中において吸気筋のみに負荷をかけたが,今後は水中での全身運動時における吸気筋への水深の影響も検討する必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
健康増進において中高齢者の水中運動がよく実施されており,水中運動の効果における報告は多数認められている。しかし,水中運動における呼吸筋力に対する影響を調べたものは少ない。今回の研究で水中での運動は吸気筋に影響を与えることが確認され,水中運動における吸気筋力向上の有効的な手段となる可能性が示唆された。我々の研究はそれを裏付けるデータになると思われる。