[P2-A-0705] 地域在住高齢者における運動機能や生活範囲およびADLがQOLに及ぼす影響
Keywords:QOL, ADL, 地域在住高齢者
【はじめに,目的】
日本における高齢者人口は増加の一途をたどり,高齢者に対するリハビリテーションの重要性が高まってきている。運動機能やActivity of Daily Living(ADL)の改善だけでなく,高齢者が生きることの意味や価値を示すQuality of Life(QOL)をいかに高く保ち支援していくかが課題となってくる。E-SAS(Elderly Status Assessment Set)は,包括的に生活機能面を評価するためのツールで,生活のひろがり(Life-Space Assessment;LSA),ころばない自信,入浴動作,Time up and go test(TUG),休まず歩ける距離,人とのつながりの6つの評価項目からなる。高齢者のADL能力が高ければQOLも向上し,地域における活動範囲や身体活動量も増加すると考えられる。本研究の目的は,通所リハビリテーションを利用者(通所者)と居宅介護施設入所者(入所者)を対象として,運動機能や地域における生活環境,ADLがQOLに及ぼす影響について調査することである。
【方法】
対象は,地域在住高齢者で,認知機能に問題のない通所者11名(82.3±1.9歳,男性3名,女性8名),入所者11名(86.3±1.6歳,男性1名,女性10名)とした。運動機能や地域の生活環境に関する評価はE-SASを用い,ADL評価(文部科学省新体力テスト),QOL評価を実施した。QOLはWHOQOL26を用いて,身体的領域,心理的領域,社会的関係,環境領域の4領域について調査した。統計解析方法は,The GraphPad Prism(San Diego, CA, USA)を用いた。各測定項目における通所者と入所者の比較にはunpaired t testを用いて分析した。また,ADLとWHOQOL26の関連性を検討するためにSpearmanの相関係数を求め,有意水準は5%未満とした。
【結果】
1)E-SASによる評価では,通所者と入所者間で,LSA(通所者61.3±3.1,入所者22.3±6.6,p<0.001),ころばない自信(通所者30.5±1.7,入所者21.6±2.7,p<0.05),入浴動作(通所者9.9±0.1,入所者6.3±1.2,p<0.01),TUG(通所者12.4±1.1秒,入所者19.1±2.8秒,p<0.05)の4つの項目で有意差が認められた。しかし,休まず歩ける距離と人とのつながりの2項目では有意差は認められなかった。2)WHOQOL26の評価では,通所者と入所者間で,社会的関係(通所者3.7±0.2,入所者3.1±0.2,p<0.05)領域で有意差が認められたが,その他の領域では有意差がなかった。3)通所者におけるADLとWHOQOL26では,強い正の相関が認められたが(r=0.77),入所者ではADLとWHOQOL26の相関は認められなかった。
【考察】
1)E-SASの結果から,入所者では通所者と比較して,LSA,ころばない自信,入浴動作の項目で低値を示した。入所者では,入所者自身で活動的に行動する機会が少なく,活動範囲の狭小化が原因であると考えられる。また,ころばない自信や入浴動作では,通所者が自立度の高い生活をしているのに対し,入所者は転倒の危険性を感じながら見守りの生活をしていることが明らかとなった。人とのつながりでは,通所者が親戚や兄弟,近隣の友人も高齢となり関わりを持てる人数が少なくなる一方で,入所者は施設内での友人関係を築くことで他者とのつながりを深めていることが示唆された。2)WHOQOL26は,入所者では通所者と比較して,社会的関係のみで低値を示した。入所者では,限られた生活環境の中での人間関係や友人関係に満足していない可能性が考えられる。その他の領域および全体の平均点では有意差が認められなかったことから,社会的関係以外の領域では両者間の環境や運動機能の違いはQOLに影響していないことが示唆された。通所者では,活動量の大きさがQOLに関与しているのに対し,入所者では,生活範囲や活動量がQOLを決定するのではなく,個々の生活環境や施設での人間関係が大きく関与していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,生活環境が異なる高齢者の運動機能やADLがQOLに及ぼす影響について調査した。今後の超高齢社会を支援する理学療法士の役割は,高齢者が生活している環境や活動範囲,社会参加などのさまざまな要因を考慮しながら介護予防や健康増進に対する取り組みを行う必要性を示唆した。
日本における高齢者人口は増加の一途をたどり,高齢者に対するリハビリテーションの重要性が高まってきている。運動機能やActivity of Daily Living(ADL)の改善だけでなく,高齢者が生きることの意味や価値を示すQuality of Life(QOL)をいかに高く保ち支援していくかが課題となってくる。E-SAS(Elderly Status Assessment Set)は,包括的に生活機能面を評価するためのツールで,生活のひろがり(Life-Space Assessment;LSA),ころばない自信,入浴動作,Time up and go test(TUG),休まず歩ける距離,人とのつながりの6つの評価項目からなる。高齢者のADL能力が高ければQOLも向上し,地域における活動範囲や身体活動量も増加すると考えられる。本研究の目的は,通所リハビリテーションを利用者(通所者)と居宅介護施設入所者(入所者)を対象として,運動機能や地域における生活環境,ADLがQOLに及ぼす影響について調査することである。
【方法】
対象は,地域在住高齢者で,認知機能に問題のない通所者11名(82.3±1.9歳,男性3名,女性8名),入所者11名(86.3±1.6歳,男性1名,女性10名)とした。運動機能や地域の生活環境に関する評価はE-SASを用い,ADL評価(文部科学省新体力テスト),QOL評価を実施した。QOLはWHOQOL26を用いて,身体的領域,心理的領域,社会的関係,環境領域の4領域について調査した。統計解析方法は,The GraphPad Prism(San Diego, CA, USA)を用いた。各測定項目における通所者と入所者の比較にはunpaired t testを用いて分析した。また,ADLとWHOQOL26の関連性を検討するためにSpearmanの相関係数を求め,有意水準は5%未満とした。
【結果】
1)E-SASによる評価では,通所者と入所者間で,LSA(通所者61.3±3.1,入所者22.3±6.6,p<0.001),ころばない自信(通所者30.5±1.7,入所者21.6±2.7,p<0.05),入浴動作(通所者9.9±0.1,入所者6.3±1.2,p<0.01),TUG(通所者12.4±1.1秒,入所者19.1±2.8秒,p<0.05)の4つの項目で有意差が認められた。しかし,休まず歩ける距離と人とのつながりの2項目では有意差は認められなかった。2)WHOQOL26の評価では,通所者と入所者間で,社会的関係(通所者3.7±0.2,入所者3.1±0.2,p<0.05)領域で有意差が認められたが,その他の領域では有意差がなかった。3)通所者におけるADLとWHOQOL26では,強い正の相関が認められたが(r=0.77),入所者ではADLとWHOQOL26の相関は認められなかった。
【考察】
1)E-SASの結果から,入所者では通所者と比較して,LSA,ころばない自信,入浴動作の項目で低値を示した。入所者では,入所者自身で活動的に行動する機会が少なく,活動範囲の狭小化が原因であると考えられる。また,ころばない自信や入浴動作では,通所者が自立度の高い生活をしているのに対し,入所者は転倒の危険性を感じながら見守りの生活をしていることが明らかとなった。人とのつながりでは,通所者が親戚や兄弟,近隣の友人も高齢となり関わりを持てる人数が少なくなる一方で,入所者は施設内での友人関係を築くことで他者とのつながりを深めていることが示唆された。2)WHOQOL26は,入所者では通所者と比較して,社会的関係のみで低値を示した。入所者では,限られた生活環境の中での人間関係や友人関係に満足していない可能性が考えられる。その他の領域および全体の平均点では有意差が認められなかったことから,社会的関係以外の領域では両者間の環境や運動機能の違いはQOLに影響していないことが示唆された。通所者では,活動量の大きさがQOLに関与しているのに対し,入所者では,生活範囲や活動量がQOLを決定するのではなく,個々の生活環境や施設での人間関係が大きく関与していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,生活環境が異なる高齢者の運動機能やADLがQOLに及ぼす影響について調査した。今後の超高齢社会を支援する理学療法士の役割は,高齢者が生活している環境や活動範囲,社会参加などのさまざまな要因を考慮しながら介護予防や健康増進に対する取り組みを行う必要性を示唆した。