[P2-A-0708] 精神科入院患者における30秒椅子立ち上がりテストとベッド高の関係
Keywords:精神科, 30秒椅子立ち上がりテスト, ベッド高
【はじめに,目的】当院の精神科病棟では,ベッド周辺が最も転倒件数が多いが転倒の環境因子の一つと考えられるベッド高が個々の患者に適しているかは不明である。先行研究では,下腿高の120%が最も立ち上がりやすいベッド高(以下,下腿高の120%高)とされている。また,椅子高を変えて実施された立ち上がり動作に関する先行研究では,40cmが最も低い筋出力で立ち上がることができ,高齢者施設用の一般的な椅子高(以下,椅子高)でもあると報告されている。立ち上がり動作で,高齢者の下肢筋力を簡便に評価する方法として30秒間に何回椅子から立ち上れるかを評価する,30秒椅子立ち上がりテスト(以下:CS-30)が考案されている。しかし,高さの違う椅子でCS-30の結果を比較した研究はみられない。本研究の目的は,現状のベッド高を調査し下腿高の何%かを明らかにすることと,CS-30を用いて現状のベッド高,下腿高の120%高,椅子高によって比較し,立ち上がり回数に違いがあるのかを明らかにすることである。
【方法】対象は精神科開放病棟に入院し,歩行が自立している統合失調症患者45名(男性20名,女性25名)。方法は,まず対象者の下腿高(膝蓋骨下端から床面)とベッド高(床面からベッド上端)をメジャーで計測した。CS-30では昇降式の背もたれがある椅子を用いた。椅子の高さは,条件Aは現状のベッド高,条件Bは下腿高の120%高,条件Cは椅子高とし,3条件でCS-30を行った。椅子からの立ち上がり動作の慣れによる影響を除外する為,対象者21名を7名ずつI,II,IIIの3グループに分け,疲労を考え各条件間に一週間空けた上で,Iグループは条件ABC,IIグループは条件BAC,IIIグループは条件CBAの順で実施した。解析は,各条件間のCS-30の結果の比較には一次元配置分析を行った。各条件毎の比較には,Turkeyの多重比較分析を行った。解析には,SPSS21.0を用い有意水準は両側5%とした。
【結果】対象者の下腿高の平均値は43.3±2.9cm,現状のベッド高の平均値は42.6±3.1cmであった。対象者全員が下腿高の120%高よりも低いベッド高であり,さらに,このうちの20名(44.4%)では下腿高よりも低いベッド高であった。CS-30の結果は条件Aが平均16.1±4.6回,条件Bが19.8±6.1回,条件Cが14.4±3.7回であり,一次元配置分析で有意な差が認められた(p<0.05)。また,各条件間に対してTurkeyの多重比較分析の結果,条件Bに対して条件A・C共に有意差が認められ(p<0.05),条件Bが最も立ち上がる回数が多かった。しかし,条件Aと条件C間では有意な差はなかった。
【考察】対象者のベッド高は全員が下腿高の120%高よりも低かった。さらに,下腿高よりもベッド高が低い方が44.4%を占めることから,現状のベッド高は低い傾向にあり,立ち上がり動作効率は低い。また,下腿高よりも低いベッド高では円背などの不良姿勢を作りやすく,ひいては,日常生活に支障をきたす可能性も考えられる。3条件で比較したCS-30では,条件Cの椅子高は最も立ち上がり回数が少なった。これは,現状のベッド高の平均値よりも低いことから,より下肢の筋活動量が必要なことや,頭部,膝部の前方移動増大,体幹前傾角および下肢関節角度変化が増大した為と考える。40cmの椅子高は一般的な高齢者施設に多く使用されているが,立ち上がり動作に関して,体格の違いにより個人差が生じる為,全ての患者に適した椅子の高さではないと考える。条件Bの下腿高120%高が最も立ち上がり回数が向上したが,これは,他の2条件と比較して最も高さがあり,筋活動量が少なく,頭部,膝部の前方移動減少,体幹前傾角および下肢関節角度変化が減少した為と考える。よって,立ち上がり動作や移乗動作に介助が必要な患者に対しては,下腿高120%に設定することにより,介助量軽減に繋がるものと考える。しかし,精神科入院中の統合失調症患者は,長時間ベッドに腰掛けて過ごしていることや,靴の着脱時に転落する危険性を考えると,一概に下腿高120%高にすることが患者の利益には繋がるとは言えない。だが,下腿高よりも低いベッド高では前述したように,不良姿勢を助長する可能性がある為,少なくとも下腿高と同じ高さに調整すべきと考える。入院生活におけるベッドは,患者にとって長時間過ごす場所である。そのため,個々の患者の身体機能や体格に合ったベッド高を検討する必要があると思われた。
【理学療法学研究としての意義】転倒リスクの環境因子であるベッド高に対し,最も立ち上がりやすいベッド高を明らかにすることで,患者に適したベッド高を検討する一因になる。
【方法】対象は精神科開放病棟に入院し,歩行が自立している統合失調症患者45名(男性20名,女性25名)。方法は,まず対象者の下腿高(膝蓋骨下端から床面)とベッド高(床面からベッド上端)をメジャーで計測した。CS-30では昇降式の背もたれがある椅子を用いた。椅子の高さは,条件Aは現状のベッド高,条件Bは下腿高の120%高,条件Cは椅子高とし,3条件でCS-30を行った。椅子からの立ち上がり動作の慣れによる影響を除外する為,対象者21名を7名ずつI,II,IIIの3グループに分け,疲労を考え各条件間に一週間空けた上で,Iグループは条件ABC,IIグループは条件BAC,IIIグループは条件CBAの順で実施した。解析は,各条件間のCS-30の結果の比較には一次元配置分析を行った。各条件毎の比較には,Turkeyの多重比較分析を行った。解析には,SPSS21.0を用い有意水準は両側5%とした。
【結果】対象者の下腿高の平均値は43.3±2.9cm,現状のベッド高の平均値は42.6±3.1cmであった。対象者全員が下腿高の120%高よりも低いベッド高であり,さらに,このうちの20名(44.4%)では下腿高よりも低いベッド高であった。CS-30の結果は条件Aが平均16.1±4.6回,条件Bが19.8±6.1回,条件Cが14.4±3.7回であり,一次元配置分析で有意な差が認められた(p<0.05)。また,各条件間に対してTurkeyの多重比較分析の結果,条件Bに対して条件A・C共に有意差が認められ(p<0.05),条件Bが最も立ち上がる回数が多かった。しかし,条件Aと条件C間では有意な差はなかった。
【考察】対象者のベッド高は全員が下腿高の120%高よりも低かった。さらに,下腿高よりもベッド高が低い方が44.4%を占めることから,現状のベッド高は低い傾向にあり,立ち上がり動作効率は低い。また,下腿高よりも低いベッド高では円背などの不良姿勢を作りやすく,ひいては,日常生活に支障をきたす可能性も考えられる。3条件で比較したCS-30では,条件Cの椅子高は最も立ち上がり回数が少なった。これは,現状のベッド高の平均値よりも低いことから,より下肢の筋活動量が必要なことや,頭部,膝部の前方移動増大,体幹前傾角および下肢関節角度変化が増大した為と考える。40cmの椅子高は一般的な高齢者施設に多く使用されているが,立ち上がり動作に関して,体格の違いにより個人差が生じる為,全ての患者に適した椅子の高さではないと考える。条件Bの下腿高120%高が最も立ち上がり回数が向上したが,これは,他の2条件と比較して最も高さがあり,筋活動量が少なく,頭部,膝部の前方移動減少,体幹前傾角および下肢関節角度変化が減少した為と考える。よって,立ち上がり動作や移乗動作に介助が必要な患者に対しては,下腿高120%に設定することにより,介助量軽減に繋がるものと考える。しかし,精神科入院中の統合失調症患者は,長時間ベッドに腰掛けて過ごしていることや,靴の着脱時に転落する危険性を考えると,一概に下腿高120%高にすることが患者の利益には繋がるとは言えない。だが,下腿高よりも低いベッド高では前述したように,不良姿勢を助長する可能性がある為,少なくとも下腿高と同じ高さに調整すべきと考える。入院生活におけるベッドは,患者にとって長時間過ごす場所である。そのため,個々の患者の身体機能や体格に合ったベッド高を検討する必要があると思われた。
【理学療法学研究としての意義】転倒リスクの環境因子であるベッド高に対し,最も立ち上がりやすいベッド高を明らかにすることで,患者に適したベッド高を検討する一因になる。