[P2-A-0711] 基本的日常生活活動動作の自立度と困難感を評価する新たな指標の開発
在宅高齢者における妥当性と天井効果発生率の検討
Keywords:ADL, 妥当性, 高齢者
【はじめに,目的】
基本的日常生活活動動作(Basic Activities of Daily Living;BADL)動作が自立して可能だが「困難感」を訴える在宅高齢者が存在する。「困難感」を訴える高齢者は,訴えない高齢者より生活機能が低下し,将来の入所や死亡のリスクが高いことが報告されている(Gill TM, et al.1998)。この結果は,「自立度」のみならず「困難感」の有無もBADLの評価対象に含めることの必要性を示している。我々は,BADLの「自立度」と「困難感」を評価する新たな指標(Functional Independence and Difficulty scale;FIDs)を開発し,在宅高齢者におけるBADL動作障害の有病率を調査してきた。本研究の目的は,FIDsの妥当性と天井効果の発生率を調査することである。
【方法】
対象は,A村で行われた住民健康診断に自主参加した在宅高齢者263名と,B市で介護保険による訪問看護を利用する在宅高齢者153名,合計416名である。我々は,全対象者に面接調査を実施した。65歳未満の者(17名),コミュニケーション困難な者(42名),全盲の者(3名),調査を拒否した者(5名),欠損データがある者(26名)は解析から除外した。
調査項目は,性別,年齢,Body Mass Index(BMI),Barthle Index(BI),老研式活動能力指標(TMIG),SF-8日本語版(SF-8),FIDsである。
FIDsは,14項目のBADL動作(起き上がり,椅子からの立ち上がり,床からの立ち上がり,更衣(上着,ズボン),食事,排便後の清拭,洗体,歯磨き,ペットボトルのフタを開ける,足の爪を切る,屋内歩行,屋外歩行,階段昇降)で構成される。採点方法は,各動作に介助を要す場合は1点,自立しているが困難を伴う場合は2点,自立し困難も伴わない場合は3点を付与し14項目の合計点を算出した。FIDsは,14点から42点の得点を示し,得点が高いほどBADL能力が高いことを示す指標である。
統計学的手法は,対象者を2群(介護認定を受けていない者(A群),受けている者(B群))に分け,各群において次の解析を行った。まず,FIDsの妥当性を検証するために,FIDsとBMI,BI,TMIG,SF-8のPhysical component summary(PCS)とMental component summary(MCS))の間の偏相関係数(性別と年齢を調整)を算出した。次に,FIDsの比較対照として,TMIGとPCS,MCS,ならびに,BIとPCS,MCSの間の偏相関係数(性別と年齢を調整)を算出した。最後に,A群について,TMIGの得点分類(分類1;0-6点,分類2;7-12点,分類3;13点)ごとに,FIDsとBIが満点を示した対象者の割合(天井効果発生率)を算出した。統計的解析は,IBM SPSS Statistics(Version22)を用い,両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】
分析対象者は,A群が225名(男性99名,女性126名,平均年齢76.2歳),B群が98名(男性43名,女性55名,平均年齢80.7歳)であった。FIDsとBMI,BI,TMIG,PCS,MCSの偏相関係数は,A群で-0.33(p<0.001),0.31(p<0.001),0.25(p<0.001),0.43(p<0.001),0.03(p=0.68),B群で0.05(p=0.61),0.78(p<0.001),0.77(p<0.001),0.27(p<0.01),0.28(p<0.01)であった。TMIGとPCS,MCSの間の偏相関係数は,A群で0.22(p<0.01),-0.02(p=0.82),B群で0.16(p=0.11),0.11(p=0.312)であった。BIとPCS,MCSの間の偏相関係数は,A群で0.06(p=0.37),0.10(p=0.14),B群で0.29(p<0.01),0.15(p=0.16)であった。
TMIGの各得点分類の対象者数は,分類1が3名,分類2が85名,分類3が137名であった。天井効果発生率(%)は,FIDs/BIの順番で,分類1が0/66.7,分類2が55.3/84.7,分類3が67.2/94.9であった。
【考察】
FIDsは,対象者の介護認定の有無に関わらず,BIとの基準関連妥当性,ならびに,TMIGとSF-8のPCSとの併存妥当性を有す指標と考えられた。FIDsとMCSの間の偏相関関係は,B群のみで有意性が認められたことから,FIDsとMCSの間には非線形関係が存在すると考えられた。
FIDs,TMIG,BIをSF-8との関係性から比較した結果,以下のことが示唆された。介護認定を受けていない高齢者において,FIDsはTMIGよりPCSと強い関連を有する。また,介護認定を受けている高齢者において,BIがPCSのみと有意な関連を認めたのに対し,FIDsはPCSとMCSの両面と関連する。
FIDsの天井効果発生率は,TMIGが満点を示した在宅高齢者においても7割弱に留まったことから,本指標は生活機能が高い在宅高齢者においても適応できる可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,介護予防や訪問理学療法など,在宅高齢者に対する理学療法士の臨床活動や臨床研究におけるFIDsの有用性を示したことである。
基本的日常生活活動動作(Basic Activities of Daily Living;BADL)動作が自立して可能だが「困難感」を訴える在宅高齢者が存在する。「困難感」を訴える高齢者は,訴えない高齢者より生活機能が低下し,将来の入所や死亡のリスクが高いことが報告されている(Gill TM, et al.1998)。この結果は,「自立度」のみならず「困難感」の有無もBADLの評価対象に含めることの必要性を示している。我々は,BADLの「自立度」と「困難感」を評価する新たな指標(Functional Independence and Difficulty scale;FIDs)を開発し,在宅高齢者におけるBADL動作障害の有病率を調査してきた。本研究の目的は,FIDsの妥当性と天井効果の発生率を調査することである。
【方法】
対象は,A村で行われた住民健康診断に自主参加した在宅高齢者263名と,B市で介護保険による訪問看護を利用する在宅高齢者153名,合計416名である。我々は,全対象者に面接調査を実施した。65歳未満の者(17名),コミュニケーション困難な者(42名),全盲の者(3名),調査を拒否した者(5名),欠損データがある者(26名)は解析から除外した。
調査項目は,性別,年齢,Body Mass Index(BMI),Barthle Index(BI),老研式活動能力指標(TMIG),SF-8日本語版(SF-8),FIDsである。
FIDsは,14項目のBADL動作(起き上がり,椅子からの立ち上がり,床からの立ち上がり,更衣(上着,ズボン),食事,排便後の清拭,洗体,歯磨き,ペットボトルのフタを開ける,足の爪を切る,屋内歩行,屋外歩行,階段昇降)で構成される。採点方法は,各動作に介助を要す場合は1点,自立しているが困難を伴う場合は2点,自立し困難も伴わない場合は3点を付与し14項目の合計点を算出した。FIDsは,14点から42点の得点を示し,得点が高いほどBADL能力が高いことを示す指標である。
統計学的手法は,対象者を2群(介護認定を受けていない者(A群),受けている者(B群))に分け,各群において次の解析を行った。まず,FIDsの妥当性を検証するために,FIDsとBMI,BI,TMIG,SF-8のPhysical component summary(PCS)とMental component summary(MCS))の間の偏相関係数(性別と年齢を調整)を算出した。次に,FIDsの比較対照として,TMIGとPCS,MCS,ならびに,BIとPCS,MCSの間の偏相関係数(性別と年齢を調整)を算出した。最後に,A群について,TMIGの得点分類(分類1;0-6点,分類2;7-12点,分類3;13点)ごとに,FIDsとBIが満点を示した対象者の割合(天井効果発生率)を算出した。統計的解析は,IBM SPSS Statistics(Version22)を用い,両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】
分析対象者は,A群が225名(男性99名,女性126名,平均年齢76.2歳),B群が98名(男性43名,女性55名,平均年齢80.7歳)であった。FIDsとBMI,BI,TMIG,PCS,MCSの偏相関係数は,A群で-0.33(p<0.001),0.31(p<0.001),0.25(p<0.001),0.43(p<0.001),0.03(p=0.68),B群で0.05(p=0.61),0.78(p<0.001),0.77(p<0.001),0.27(p<0.01),0.28(p<0.01)であった。TMIGとPCS,MCSの間の偏相関係数は,A群で0.22(p<0.01),-0.02(p=0.82),B群で0.16(p=0.11),0.11(p=0.312)であった。BIとPCS,MCSの間の偏相関係数は,A群で0.06(p=0.37),0.10(p=0.14),B群で0.29(p<0.01),0.15(p=0.16)であった。
TMIGの各得点分類の対象者数は,分類1が3名,分類2が85名,分類3が137名であった。天井効果発生率(%)は,FIDs/BIの順番で,分類1が0/66.7,分類2が55.3/84.7,分類3が67.2/94.9であった。
【考察】
FIDsは,対象者の介護認定の有無に関わらず,BIとの基準関連妥当性,ならびに,TMIGとSF-8のPCSとの併存妥当性を有す指標と考えられた。FIDsとMCSの間の偏相関関係は,B群のみで有意性が認められたことから,FIDsとMCSの間には非線形関係が存在すると考えられた。
FIDs,TMIG,BIをSF-8との関係性から比較した結果,以下のことが示唆された。介護認定を受けていない高齢者において,FIDsはTMIGよりPCSと強い関連を有する。また,介護認定を受けている高齢者において,BIがPCSのみと有意な関連を認めたのに対し,FIDsはPCSとMCSの両面と関連する。
FIDsの天井効果発生率は,TMIGが満点を示した在宅高齢者においても7割弱に留まったことから,本指標は生活機能が高い在宅高齢者においても適応できる可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,介護予防や訪問理学療法など,在宅高齢者に対する理学療法士の臨床活動や臨床研究におけるFIDsの有用性を示したことである。