第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

予防理学療法3

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0717] 看護業務従事者における腰痛実態調査

中道博 (笠岡第一病院リハビリテーション科)

Keywords:職業性腰痛, 看護業務, 産業理学療法

【はじめに,目的】
4日以上の休業が必要な職業性疾病の約6割が腰痛である。保健衛生業(病院,社会福祉施設)においては約8割を占めており,腰痛発生件数は他の産業分野とは対照的に顕著に増加している。このような状況を受け,厚生労働省は19年振りに「職場における腰痛予防対策指針」の改定を行い,福祉・医療分野等における介護・看護作業には腰痛発生が多いため,職場における腰痛予防対策を強く奨めている。そこで,当院・関連施設における看護業務従事者の腰痛予防対策実施率と腰痛予防対策に対する理学療法士への期待を明らかにすることを目的に調査を行ったので報告する。
【方法】
対象は当院・関連施設に勤務する22歳から61歳までの看護師・看護アシスタント男女134名とし,質問紙(自作アンケート用紙,QOL評価尺度EQ-5D)による調査を実施した。自作アンケート用紙の質問項目は年齢,性別,BMI,仕事の日と休みの日の腰痛強度(NRS),腰痛による業務への影響度(腰痛なし・影響なし:なし群,少しでも影響している:あり群),腰部に負担のかかると思われる業務内容,現在行っている腰痛予防対策(コルセットの着用,運動をしている,介助方法の工夫をしている,福祉用具を使用している,作業姿勢の工夫をしている),理学療法士に期待する腰痛予防対策(運動療法,介助方法の指導,福祉用具の紹介と使い方の指導,自分に合った作業姿勢の指導)を調査した。なし群・あり群の2群での各腰痛予防対策実施率についてChi-squared test,EQ-5Dについてt検定を行った,有意水準は5%とした。
【結果】
質問紙の回収率99%,年齢41.4±8.4歳,女性131名,BMI21.7±3.5であった。腰痛強度は仕事の日4±2.3,休みの日2.1±2であり,腰痛による業務への影響度はなし群48名(36%),あり群84名(64%)であった。あり群での腰部に負担のかかる業務内容は移乗動作,オムツ交換,体位変換の順に多かった。腰痛予防対策としてコルセットを着用している者はなし群7名(15%),あり群37名(44%),運動をしている者はなし群5名(10%),あり群15名(18%),介助方法の工夫をしている者はなし群18名(38%),あり群43名(54%),福祉用具を使用している者はなし群2名(4%),あり群8名(10%),作業姿勢の工夫をしている者はなし群8名(17%),あり群31名(38%),特にしていない者はなし群21名(44%),あり群13名(15%)であった。腰痛予防対策実施率はなし群に比べてあり群でコルセットの着用,作業姿勢の工夫が有意に高かった。あり群84名のうち理学療法士に期待する腰痛予防対策は運動療法40名(48%)そのうち予防対策実施者7名(18%),介助方法の指導は33名(39%)そのうち予防対策実施者19名(58%),福祉用具の紹介は10名(12%)そのうち予防対策実施者2名(20%),作業姿勢の指導は23名(27%)そのうち予防対策実施者10名(44%)であった。EQ-5Dスコアはなし群0.94±0.11,あり群0.85±0.74であり有意差を認めた。
【考察】
当院・関連施設における看護業務従事者のうち,腰痛による仕事への影響がある者は64%と高値であった。仕事の日は休みの日より腰痛強度が強く,看護業務や職場環境が腰痛を増強させる一因であり,その中でも特に移乗動作やベッド上での作業は腰部に対する負担が強く,業務内容に特化した専門的な介入が必要であると考えられる。腰痛による仕事への影響度が低いほど,腰痛予防対策に対する意識も低く,意識改善・啓蒙を行う必要がある。また,腰痛による仕事への影響度が高いほど腰痛予防対策に対する意識は高いが,運動療法や介助方法の工夫は看護業務従事者が独力で判断することが難しく,コルセットの着用や作業姿勢の工夫といった各個人で対応できる対処・予防を優先して行っているのではないかと考えられる。理学療法士による専門的な運動療法や介助方法の指導への期待は高く,腰痛による業務への影響度の軽減を図る事が出来ればQOLが改善される可能性がある。今後,理学療法士による腰痛予防対策を希望する者に対して介入する予定である。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士に対する専門的な腰痛予防対策への期待は高く,産業保健分野における腰痛予防に対して有益である可能性がある。