第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

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がん

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0726] 原発性肺癌に対する肺切除術後の6分間歩行試験における歩行距離,息切れ,最低SpO2の経時的変化

蓬原春樹1, 吉永龍史2, 渕香緒里1, 山本さおり1, 本田真之輔1, 坪口政美1, 臼間康博3 (1.独立行政法人国立病院機構宮崎東病院リハビリテーション科, 2.独立行政法人国立病院機構熊本医療センターリハビリテーション科, 3.独立行政法人国立病院機構宮崎東病院外科)

Keywords:肺切除, 6分間歩行試験, 運動耐容能

【はじめに,目的】
原発性肺癌に施行される肺切除術は,肺の容量が減少するため運動耐容能が低下すると言われている。当院では,術後合併症の予防や運動耐容能の改善を目的として術前より呼吸理学療法を実施している。臨床で経過を追う際は,術前と比較した運動耐容能の一般的な回復過程の基準値が必要である。例を挙げると,術後7日目の運動耐用能が術前の70%であった際,現在の経過が良好なのか,遅延しているのかの判断がし難い。つまり,一般的な経過指標は,今後の治療プログラムの検討や呼吸理学療法の介入方法を変えるといった治療戦略に有用である。当院では,2013年1月より術後1日目に歩行練習を開始するようにクリティカルパスを改正し,早期離床を積極的に行っている。そのため,運動耐容能の回復もこれまでの報告と比べ早くなっている可能性がある。そこで,本研究は,肺切除術後の運動耐容能,息切れおよびSpO2の経時的変化についての検討を目的に行なった。
【方法】

対象は,2013年1月から2014年9月までに当院で原発性肺癌に対する肺切除術が施行され,手術前から呼吸理学療法を実施した27例(男性12名,女性15名,年齢70.9±10.1歳,体重54.8±12.8kg,身長154.6±10.3cm,BMI 22.8±3.9kg/m2)とした。除外基準は,肺炎,無気肺,遷延性肺といった術後呼吸器合併症とした。術式は,胸腔鏡補助下肺切除術25例,標準開胸術2例であった。また,切除部位は,右上葉11例,右中葉3例,右下葉5例,左上葉5例,左下葉3例であった。当院で行われている呼吸理学療法は,術前は術後の呼吸理学療法のオリエンテーションと腹式呼吸法や咳嗽方法の練習,術後は1日目が歩行練習(室内~100m歩行ができる)や排痰,2~3日目が歩行練習(300m目標),4日目以降は歩行練習(300m以上目標)や自転車エルゴメーターを実施している。
方法は,運動耐容能の評価として6分間歩行試験を実施し,6分間歩行距離(6MWD),歩行後息切れ,歩行中の最低SpO2を計測した。これらの評価の測定時期は,術前,術後4日目(POD4),術後7日目(POD7)および術後14日目(POD14)であった。息切れは,修正Borgスケールを用い,6分間歩行試験終了直後に計測した。SpO2の測定は,6分間歩行開始から30秒毎にSpO2を記録し,その最低値を採用した。
統計処理は,6MWD,歩行後息切れ,最低SpO2の3項目について経時的変化である術前,POD4,POD7およびPOD14の間で正規性の有無を確認後,反復測定分散分析あるいはFriedman検定を行った。そして,反復測定分散分析はMauchlyの球面性の検定を実施し,仮説が棄却されたときはGreenhouse-Geisserのε修正による検定の有意確率を採用した。さらに,経時的変化に有意差を認めた場合,多重比較法を行った。なお,いずれも有意水準は両側5%とした。
【結果】
6MWDは,術前が364.1±93.9m,POD4が281.9±89.2m(80.9±19.4%),POD7が337.8±97.8m(92.9±19.3%),POD14が353.2±93.1m(99.0±18.4%)であり,有意差を認めた。そのため,多重比較を行ったところ,術前の6MWDと比較して,POD4に有意な低下(p<0.001)を認めたが,POD7とPOD14では有意差を認めなかった。歩行後息切れの中央値(四分位範囲)は,術前が2.0(0.25-3.5),POD4が3.5(2-5),POD7が3.0(1-5),POD14が3.0(0.5-4.25)であり,有意差を認めた。多重比較の結果,術前と比較しPOD4にのみ有意な低下(p<0.05)を認めた。最低SpO2の中央値(四分位範囲)は,術前が95(94-96)%,POD4が94(92-96)%,POD7が94(91-96)%,POD14が94(92-96)%であり,有意差を認めなかった。
【考察】
本研究結果より,肺切除後の6分間歩行距離と歩行後息切れは,POD4では有意に低下するものの,POD7ではほぼ術前値まで回復していた。これは従来の先行研究と比べ6MWDの術前値までの回復が早くなっているものと思われた。一方,POD4の時点で最低SpO2が低下していなかったことから,術後は最低SpO2よりも6MWDや息切れに着目し経過を追っていく必要があると考えられる。以上のことから,肺切除術後では6MWDと歩行後息切れは有意に低下するものの,POD7には術前値と同程度になることが一般的な呼吸理学療法の経過指標となることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
肺切除患者に対する呼吸理学療法において,運動耐容能の一般的な経過指標を把握することは,治療プログラムの検討や呼吸理学療法の介入方法を変えるといった治療戦略に有用である。