[P2-A-0729] 肺切除術に対する短期間の術前呼吸リハビリテーションの有効性
咳嗽力に着目した呼吸機能に与える影響
キーワード:呼吸リハビリテーション, 咳嗽, 呼気筋
【はじめに,目的】肺切除術の術前呼吸リハビリテーション(以下術前呼吸リハ)は,術後の呼吸器合併症の発生率を低下させると以前から報告されており,広く実施されている。無気肺や肺炎などの呼吸器合併症の予防には咳嗽による気道内分泌物の喀出が重要な役割を担い,咳嗽の強さ(咳嗽力)は,気道クリアランスの成否や自己排痰の可否を規定する。近年は1-2週間の短期間の術前呼吸リハの有効性を示唆する報告も散見されるが,咳嗽力について検討したものはない。そこで本研究では,咳嗽力に着目した呼吸機能をアウトカムとして,肺切除術に対する短期間の術前呼吸リハの有効性について明らかにすることを目的とする。
【方法】対象は平成26年2月から9月に肺切除術目的で当院に入院し,術前呼吸リハを実施した14名(男性8名,女性6名),平均年齢64.1±9.6歳とした。術前呼吸リハの内容は,①呼吸練習(Threshold PEP,Coach2,腹式呼吸),②咳嗽練習,③運動療法(胸郭ストレッチ,自転車エルゴメータ)であり,理学療法士の指導のもと平均6.3±1.6日実施した。咳嗽力の評価は,先行研究に従い咳嗽時の最大呼気流量(Cough Peak Flow:CPF)を用いた。測定器具はピークフローメータにフェイスマスクを接続したものを使用し,最大努力の咳嗽を3回行わせ,最大値を採用した。その他の呼吸機能は,呼吸筋力の指標である最大呼気圧(PEmax),最大吸気圧(PImax)およびFVC,FEV1.0をスパイロメータ(チェスト,電子スパイロメータHI801)にて術前呼吸リハ前およびリハ後に測定した。術前呼吸リハ前後の呼吸機能の比較にはデータの正規性を確認した後に,対応のあるt検定またはWilcoxonの符号付順位検定を使用した。なおリハ前後の比較に当たっては効果量(r)を算出した。また有意な変化が認められた項目の関連性についてはSpearmanの順位相関係数を用いた。統計解析にはSPSS(ver11.5)を使用し,有意水準を5%未満とした。
【結果】CPFはリハ前333.6±109.5L/min,リハ後383.6±117.4L/min,PEmaxはリハ前60.9±20.9cmH2O,リハ後68.9±21.7cmH2O,PImaxはリハ前60.0±28.8cmH2O,リハ後65.6±25.8cmH2O,FVCはリハ前2.99±0.71L,リハ後3.05±0.66L,FEV1.0はリハ前2.14±0.41L,リハ後2.17±0.44Lであった。術前呼吸リハ後,CPFおよびPEmaxのみ有意に増加した(p<0.01,p<0.05)。効果量はCPFでr=0.81と大きく,PEmaxでもr=0.46と中等度を示した。CPFとPEmaxの変化量に有意な相関は認められなかった。また対象者全員に術後呼吸器合併症は認められなかった。
【考察】術前呼吸リハによりCPFが増加した要因として,まず咳嗽力に寄与する呼気筋が増強した可能性が考えられる。実際に呼吸筋が低下する有疾患患者に対して呼気筋トレーニングを行い,呼気筋力が強化された結果,咳嗽力が増加したという先行研究がある。しかし,いずれも4週間以上のトレーニングであり,本研究のように約1週間という短期間のトレーニングの有効性を示したものではない。今回,CPFとPEmaxが有意に改善したものの,有意な相関関係は認められなかったことから,短期間の術前呼吸リハにおけるCPFの増加は呼気筋力の増強以外にも要因があると推察される。咳嗽は4相に分かれており,第1相の咳の誘発から第4相の早い呼気いわゆる爆発的な呼気流速が生じるまで,各相で呼気筋群,吸気筋群がタイミングよく協調して働くことが必要となる。このような呼吸筋の協調性や巧妙性がThreshold PEPによる呼気筋トレーニングや咳嗽練習によって向上したこともCPFが増加した一因と考えられる。またFVC,FEV1.0は有意な改善を認めず,これらに対する効果を期待するには,より長期間の術前呼吸リハが必要であることが考えられる。本研究では術前呼吸リハが術後の呼吸機能に及ぼす効果についてまで言及することができず,今後の課題となった。
【理学療法学研究としての意義】肺切除術に対する短期間の術前呼吸リハでも呼吸器合併症の予防に重要となる咳嗽力や呼気筋力が増強する可能性が示唆された。今回の結果は効果的な術前呼吸リハの確立とそのメカニズムを明らかにするための一助になると考える。
【方法】対象は平成26年2月から9月に肺切除術目的で当院に入院し,術前呼吸リハを実施した14名(男性8名,女性6名),平均年齢64.1±9.6歳とした。術前呼吸リハの内容は,①呼吸練習(Threshold PEP,Coach2,腹式呼吸),②咳嗽練習,③運動療法(胸郭ストレッチ,自転車エルゴメータ)であり,理学療法士の指導のもと平均6.3±1.6日実施した。咳嗽力の評価は,先行研究に従い咳嗽時の最大呼気流量(Cough Peak Flow:CPF)を用いた。測定器具はピークフローメータにフェイスマスクを接続したものを使用し,最大努力の咳嗽を3回行わせ,最大値を採用した。その他の呼吸機能は,呼吸筋力の指標である最大呼気圧(PEmax),最大吸気圧(PImax)およびFVC,FEV1.0をスパイロメータ(チェスト,電子スパイロメータHI801)にて術前呼吸リハ前およびリハ後に測定した。術前呼吸リハ前後の呼吸機能の比較にはデータの正規性を確認した後に,対応のあるt検定またはWilcoxonの符号付順位検定を使用した。なおリハ前後の比較に当たっては効果量(r)を算出した。また有意な変化が認められた項目の関連性についてはSpearmanの順位相関係数を用いた。統計解析にはSPSS(ver11.5)を使用し,有意水準を5%未満とした。
【結果】CPFはリハ前333.6±109.5L/min,リハ後383.6±117.4L/min,PEmaxはリハ前60.9±20.9cmH2O,リハ後68.9±21.7cmH2O,PImaxはリハ前60.0±28.8cmH2O,リハ後65.6±25.8cmH2O,FVCはリハ前2.99±0.71L,リハ後3.05±0.66L,FEV1.0はリハ前2.14±0.41L,リハ後2.17±0.44Lであった。術前呼吸リハ後,CPFおよびPEmaxのみ有意に増加した(p<0.01,p<0.05)。効果量はCPFでr=0.81と大きく,PEmaxでもr=0.46と中等度を示した。CPFとPEmaxの変化量に有意な相関は認められなかった。また対象者全員に術後呼吸器合併症は認められなかった。
【考察】術前呼吸リハによりCPFが増加した要因として,まず咳嗽力に寄与する呼気筋が増強した可能性が考えられる。実際に呼吸筋が低下する有疾患患者に対して呼気筋トレーニングを行い,呼気筋力が強化された結果,咳嗽力が増加したという先行研究がある。しかし,いずれも4週間以上のトレーニングであり,本研究のように約1週間という短期間のトレーニングの有効性を示したものではない。今回,CPFとPEmaxが有意に改善したものの,有意な相関関係は認められなかったことから,短期間の術前呼吸リハにおけるCPFの増加は呼気筋力の増強以外にも要因があると推察される。咳嗽は4相に分かれており,第1相の咳の誘発から第4相の早い呼気いわゆる爆発的な呼気流速が生じるまで,各相で呼気筋群,吸気筋群がタイミングよく協調して働くことが必要となる。このような呼吸筋の協調性や巧妙性がThreshold PEPによる呼気筋トレーニングや咳嗽練習によって向上したこともCPFが増加した一因と考えられる。またFVC,FEV1.0は有意な改善を認めず,これらに対する効果を期待するには,より長期間の術前呼吸リハが必要であることが考えられる。本研究では術前呼吸リハが術後の呼吸機能に及ぼす効果についてまで言及することができず,今後の課題となった。
【理学療法学研究としての意義】肺切除術に対する短期間の術前呼吸リハでも呼吸器合併症の予防に重要となる咳嗽力や呼気筋力が増強する可能性が示唆された。今回の結果は効果的な術前呼吸リハの確立とそのメカニズムを明らかにするための一助になると考える。