第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0732] 心臓外科手術における骨格筋指数と歩行自立日数の関連性について

中島真治1,2, 森下元賀2, 湯口聡1, 齋藤和也1, 松尾知洋1, 吉村香映1, 氏川拓也1, 大塚翔太1, 北条悠1, 石原広大1, 河内友美1, 原田和宏2, 坂口太一3, 吉鷹秀範3 (1.心臓病センター榊原病院リハビリテーション室, 2.吉備国際大学大学院保健科学研究科, 3.心臓病センター榊原病院心臓血管外科)

キーワード:心臓外科手術, 筋肉量, 歩行自立日

【はじめに,目的】
心臓外科手術後は手術侵襲による炎症での代謝亢進と,それに伴う筋蛋白分解の影響から,筋肉量の低下が起こるとされている。筋肉量が低値であれば転倒・動脈硬化のリスクが高まることや,移動能力・生存率を低下させるとの報告は多く散見されるが,心臓外科手術前後の筋肉量の比較・検討を行った報告は少ない。また,心臓外科手術後リハビリテーション進行を遅延する因子として年齢,性別,手術前の腎機能障害の有無,手術後の体重増加など多くの因子が挙げられるが,手術前の筋肉量と手術後リハビリテーション進行との関連性について検討した報告は少ない。よって本研究の目的は心臓外科手術前後の筋肉量の比較と,手術前筋肉量と手術後リハビリテーション進行との関連性について明らかにすることとした。
【方法】
対象は2014年6月から2014年9月までに心臓外科手術を施行し,手術前と退院時に体組成を測定した男性20名(年齢:66.2±14.7歳,術式:CABG 5例,OPCAB 7例,AVR 6例,MVR 1例,MVP 1例)とした。体組成の測定は,筋肉量の測定としてゴールドスタンダードとされる二重エネルギーX線骨塩分法と高い相関を持つ,多周波生体インピーダンス法(In body430,Biospace製)にて測定し,測定時間は食事による影響を考慮するため食後2時間以上の間隔を空けて行った。得られた体組成の結果から体水分,脂肪量を抽出し,筋肉量の指標として四肢の筋量を身長の2乗で除した値である骨格筋指数(SMI:Skeletal Muscle Index)を算出した。これら対象者の手術前と退院時のBMI・体水分量・脂肪量・SMIの比較を対応のあるt検定を用いて行った。また,手術後の歩行自立日数を病棟歩行連続100m自立日とし,年齢の影響を考慮するため,年齢を制御変数とした手術前SMIと歩行自立日数の偏相関分析を行った。統計ソフトはSPSSstatistics22.0を使用し統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
BMIは手術前24.0±4.5kg/m2,退院時23.0±4.2kg/m2と有意な差を認めなかった(p>0.05)。また,体組成の結果から,水分量は手術前36.2±6.3kg,退院時35.0±6.2kgと有意な差を認めなかった(p>0.05)が,SMIは手術前7.4±0.90kg/m2,退院時7.2±0.88kg/m2と有意な低下を認め(p<0.05),脂肪量も手術前15.7±9.6kg,退院時14.7±9.2kgと有意な低下を認めた(p<0.05)。手術後体組成測定日数は16.5±9.9日であった。また,手術前SMIと手術後歩行自立日数(4.7±1.5日)に中等度の有意な負の相関を認めた(r=-0.498,p<0.05)。術中情報として,手術時間は320.4±84.5分,麻酔時間は389.4±86.4分,出血量は1189.6±1272.0ml,手術後水分バランスは1842.3±867.6ml,手術後人工呼吸器抜管時間は833.4±371.2分であった。
【考察】
手術前と比較し,SMIと脂肪量は有意な低下を認めた。これは手術侵襲による体組織の異化亢進により,体内脂肪と蛋白質が減少したことに加え,手術後の食事摂取制限や安静制限によって起きたと考えられた。今後このSMIの低下が退院後のADLや再入院率・生存率にどのような影響を与えているかを検討していく必要があると考えられる。また,手術前SMIと手術後歩行自立日数には中等度の有意な負の相関を認めた。これは術前SMIが高値な症例ほど手術後の歩行自立日数が早くなり,筋量が歩行自立日数に関与していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
心臓外科手術後,BMIだけではなくSMIの評価を行うことが,筋量を把握する上で重要となるが示された。これらを踏まえ,理学療法プログラムにおいて,自転車エルゴメーターやトレッドミルなどの有酸素運動に加え,介入時期を考慮した上で筋力トレーニングを行うなど,介入方法を再考していく必要があることが示された。また,手術前SMIによって手術後歩行自立日数の検討を行うことができ,歩行自立へ向けた理学療法の頻回介入の必要性を判断する際に役立つ可能性が示された。