[P2-A-0753] 歩行時における弾性ストッキングの効果の検証
~医療用弾性ストッキング・スポーツ用弾性ストッキング・コントロールの比較~
キーワード:深部静脈血栓症, 下肢平均血流速度, 弾性ストッキング
【はじめに】従来,弾性ストッキングは下肢静脈溜やリンパ浮腫の治療および術後の深部静脈血栓症予防などの目的に使用されてきた。弾性ストッキングを早期より着用することで,下肢を圧迫して静脈の総断面積を減少し,深部静脈の血流速度を増加させる。また近年では,スポーツ活動中に弾性ストッキングやタイツを着用する場面が急速に増大している。しかし,各々の効果機序に対する研究や比較した研究はあまりされておらず,健常者が運動中に弾性ストッキングを着用した場合の影響についての報告では一定の見解が得られていない。そこで,本研究では臨床場面を想定し,歩行運動時に医療用弾性ストッキング(以下,医療用)とスポーツ用弾性ストッキング(以下,スポーツ用)が身体に与える影響について検証することを目的とした。【方法】研究協力者(以下,協力者)は,健常男子大学生13名とした。カルボーネン法を用い最大心拍数の60%の目標心拍数を算出した上で,シャトルウォーキングテス(以下,SWT)を実施した。SWTは,協力者にパルスオキシメーターを装着し一往復毎に脈拍数を計測しながら行い,個人の目標心拍数に達した歩行速度レベルの1段階前の歩行速度を決定した。尚,SWTは,「シャトルウォーキングテスト日本語版教本」の測定手順に沿って実施した。SWTにて計測した歩行速度における10分間の平地歩行を介入課題とし行った。介入課題中も,パルスオキシメーターを使用し,1分ごとに脈拍数を計測した。介入課題の中止基準は,歩行速度に間に合わなかった場合とした。運動前と運動後に下肢下腿周径,下肢平均血流速度(大伏在静脈),ボルグスケールを用いて下肢疲労度・息切れ感・装着感を聴取し,脈拍数,血圧を計測した。実施する際には,最低一日の間隔を空けて行った。測定順序は,医療用,スポーツ用,コントロール群をランダムにし実施した。測定肢位は,座位姿勢とし,下肢平均血流速度,血圧,ボルグスケール,下肢下腿周径の順に測定した。また,下肢下腿周径の測定は,介入課題前後ともにストッキングの上から行い,脈拍数は介入課題実施中に1分ごとに研究協力者からの報告にて計測した。統計解析はIBM SPSS Statistics Version19を使用し,下肢平均血流速度,脈拍数,下肢最大周径,下肢最小周径,収縮期血圧,拡張期血圧,下肢疲労度ボルグスケール,息切れ感ボルグスケールの介入課題前後の差をコントロール群,医療用群,スポーツ用群の3群間で,反復測定による1元配置分散分析を行った。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】下肢平均血流速度はコントロール群1.1±0.7cm/s,医療用群1.6±0.7cm/s,スポーツ用群1.7±1.8cm/sで,すべての群で介入課題後に上昇し,医療用群とスポーツ用群で顕著な差を認めたが統計学的に有意な差は認めなかった(P値:0.145)。下腿最大周径はコントロール群0.8±0.4cm,医療用群0.7±0.0cm,スポーツ用群0.3±0.3でスポーツ用群で最も少なく(P値:0.074),全ての群で有意な差を認めなかった。その他の検査項目においても統計学的有意差は認められなかった。【考察】下肢平均血流速度において,すべての群で統計学的に有意な差は認められなかった。しかし,すべての群で上昇を示し,コントロール群に比べ医療用群とスポーツ用群はより上昇値の増加が示された。これは,安静時に比べ運動する事で筋ポンプ作用が働き,静脈還流量は増大することを示し,理学療法士が深部静脈血栓症予防に行っている運動療法の有効性を再確認する結果が示された。さらに運動するだけでなく弾性ストッキングを着用したほうがより下肢平均血流速度は上昇することが示唆され,圧迫圧に関わらず弾性ストッキングの着用によって静脈コンプライアンスが上昇し,静脈還流量の増大に有効である可能性が示唆された。また,下腿周径においては,各群において有意な差はみられなかった。アスリートを対象にした同様の研究では,下腿周径に変化はなかったとの報告もあり,本研究では比較的活動性の高い健常若年者を研究協力者としたため,下腿周径に有意な差を認めなかったと考えられる。脈拍数,収縮期血圧,拡張期血圧,下肢疲労度および息切れ感においては,先行研究同様に各群に有意な差は認められなかった。【理学療法学研究としての意義】医療用弾性ストッキングとスポーツ用弾性ストッキングの着用に関わらず,運動時に弾性ストッキングを着用することにより,下肢平均血流速度は上昇することが示唆され,深部静脈血栓症の予防を行う理学療法において有意義な結果であると言える。