第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

卒前教育・臨床実習4

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0757] 臨床実習における指導者と学生間の理想と現実の可視化

木島隆1, 村松秀明1, 小野佳子1, 渥美六英1, 伊藤貴史2 (1.信州リハビリテーション専門学校理学療法学科, 2.苑田第三病院リハビリテーション科)

Keywords:臨床実習, アンケート調査, 理想と現実

【はじめに,目的】
実習期間中に,学生に問題があり実習施設から学院側に連絡が入ることがある。しかし,その時点ではすでに実習継続が困難なケースもあり,実際に実習中止や評価無しとなる学生が出ている。ケースによっては問題になることを学院側が予期できなかったものも含まれる。これは指導者と学生の双方の現状認識不足が1つの要因であると感じている。そこで今回,我々は実習地訪問時に指導者・学生双方に実習に対する理想と現実の意識調査をアンケート法にて実施し,双方を比較することで今後の実習指導に役立てることを研究の目的とした。
【方法】
対象は本校学生の臨床実習指導者30名と本校学生(3学年)30名(男性20名,女性10名)とした。実習施設訪問時に指導者に対してアンケート調査を行う。指導者側のアンケート項目は①理想と思われる睡眠時間,②理想と思われるレポート作成時間,③理想と思われるデイリーノート作成時間,④理想と思われるフィードバック時間の4項目とする。学生側には実習終了後にアンケート調査を行う。学生のアンケート項目は①1日の実際の睡眠時間,②1日の実際のレポート作成時間,③1日の実際のデイリーノート作成時間,④1日の実際のフィードバック時間 ⑤実習の満足度,⑥実習前-実習後の変化度,⑦実習施設の質問しやすい雰囲気度,⑧指導者の熱意度,⑨指導者の学生への理解度,⑩学生にとっての適切な難易度の10項目とする。①~④は30分単位とし,学生に対するアンケート⑤~⑩は5段階のリッカード尺度とする。分析は各項目を平均化し対応する項目間に有意な差はないかt-検定で,各項目間に関連性がないかマンホイットニーu検定で調べた。有意水準は5%とした。
【結果】
指導者の理想とする平均睡眠時間は5.6±0.9時間,レポート作成時間は2.3±0.9時間,デイリーノート作成時間は0.9±0.8時間,フィードバック時間は1.1±0.9時間であった。学生の実際の平均睡眠時間は3.7±1.2時間,レポート作成時間は3.4±1.3時間,デイリーノート作成時間は1.4±0.8時間,フィードバック時間は1.1±0.8時間であった。学生の項目⑤~⑩のリッカードスケールの中央値の結果,実習の満足度は4.0,実習前-実習後の変化は4.0,質問しやすい雰囲気は4.0,指導者の熱意は4.5,指導者の学生への理解は4.0,適切な難易度は4.5であった。指導者の理想と学生の現実においてt-検定にて比較した結果,睡眠時間(t=6.68),レポート作成時間(t=-3.73),デイリーノート作成時間(t=-2.15)に指導者と学生との間に有意差があり(いずれもP<0.05),フィードバック時間には(t=-0.36)には差がなかった。指導者の理想とする①~④の項目と学生に対して行ったアンケートの⑤~⑩との間にはマンホイットニーu検定の結果,関係性は認めなかった。
【考察】
今回のアンケート調査で,睡眠時間,レポートの作成時間,デイリーノートの作成時間に指導者の理想と学生の現実に差があることが明らかになった。この差はコミュニケーション不足か学生の報告不足か不明であるが,この理想と現実の不一致と,指導の熱心さは学生に過負荷を与える要因になると考えられる。しかしながら,適切な難易度や指導者の熱意度は学生に高く評価されており,学生は指導者の期待に応えようとしているのではないかと考えられる。これらのことから,学生は睡眠を削り寝不足のまま実習へ向かい,本来の力を発揮できずストレスを抱える。そしてさらに,期待に応えようと課題を遂行しようとするが,何も考えられないというような悪循環を起こしている可能性がある。レポートに重きを置いた指導は,従来型のマンツーマン型指導が基本となり,指導者・学生ともにストレスや負荷を与える主要因となっていると考えられる。今回の調査で指導者の理想と学生の現実では差があることが分かった。今後の理学療法士育成のため,理想と現実を埋める作業を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
臨床における指導者の理想と学生の現実の差を把握することは,指導者と学生の臨床実習に関する理解を高め,問題点を追求するきっかけになると考える。そして,相互がその差を埋める努力を進めることで,より良い臨床実習教育を模索するきっかけになると考える。また,実習指導における問題点の1つと思われるレポートに重きを置いた指導からクリニカルクラークシップへ移行する一助としたい。