[P2-A-0759] 新卒理学療法士が初年度に獲得すべき臨床技能に関する意識調査
キーワード:卒後教育, 臨床技能, アンケート
【はじめに,目的】
理学療法士数の急増により医療現場での卒後教育の重要性は増しており,到達目標や質の担保を目的とした指導指針の策定は喫緊の課題である。資格取得後の到達目標等については芳野らの報告など散見されるが,臨床技能面に特化して必要項目等を調査した報告は少ない。また臨床技能は理学療法士職務の根幹となる指導項目だが,現状では獲得すべき技能や優先度は明確化されていない。そこで本研究では,理学療法士が初年度に獲得すべき臨床技能について,新卒者および指導経験者の意向を調査し,かつ双方が獲得の必要性が高いと合意する項目を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は急性期および回復期病棟,生活期施設を有する当法人に所属する臨床経験5年以上の理学療法士(以下,経験群)および新卒理学療法士(以下,新卒群;2013年度入職)とした。調査形式は質問紙を用いた留置調査法とし,新卒理学療法士が初年度に獲得すべき臨床技能について無記名回答で調査した。質問紙は複数の理学療法士養成校等の教育機関で用いられている技能指針および学習項目を統合・抽出し,新たに臨床技能面に特化した調査票(検査技術84項目,治療技術38項目,計122項目)を作成し用いた。各項目の回答は選択式で「1年目では不要」,「いくぶんか必要である」,「ほどほどに必要である」,「おおいに必要である」,「きわめて必要である」,の5件法とし,1点から5点の得点を付した。解析方法は,回答者の回答傾向の差を表す指標として全122項目でWilcoxonの順位和検定による群間比較,群内ではkendallの一致係数を算出して検証した。獲得の必要性の高さを表す指標として中央値を算出し,両群で中央値4点以上の項目を抽出した。抽出された項目の内,両群ともに同条件を満たす項目の割合を同意率とした。調査時期は2014年5月,回答期間は2週間とした。統計解析ソフトはDr.SPSSII for Windowsを用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
回収数は28,回収率および有効回答率は100%であった。回答者属性は経験群22名(平均年齢32.1±4.0歳,平均臨床経験9.2±3.7年),新卒群6名(平均年齢23.8±2.0歳)であった。全122項目で新卒群および経験群のそれぞれの回答割合は1点:8.3%,4.4%,2点:10.7%,6.9%,3点:15.0%,18.7%,4点:25.5%,27.1%,5点:40.4%,42.9%であった。両群間の回答傾向の差はWilcoxonの順位和検定により検査技術1項目,治療技術1項目に有意差を認めた。各群内における回答者間の一致係数は検査技術で新卒群0.543(p<0.01),経験群0.409(p<0.01),治療技術で新卒群0.641(p<0.01),経験群0.504(p<0.01)であった。中央値4点以上の項目数は検査技術で新卒群55項目,経験群66項目,両群ともに同条件を満たす項目は55項目(同意率83.3%),治療技術で新卒群23項目,経験群29項目,両群ともに同条件を満たす項目は23項目(同意率76.7%)であった。検査技術ではvital測定,触診,ROM測定,四肢計測,感覚検査,姿勢・基本動作評価等は両群で獲得の必要性が高かったが,画像診断やADL(食事・整容・更衣)は新卒群では低い結果となった。治療技術はROM-ex,筋力強化練習,基本動作練習,バランス練習,協調性練習等は両群で獲得の必要性が高かったが,物理療法(寒冷・電気)やADL(更衣・入浴)は新卒群では低い結果となった。
【考察】
全122項目の回答傾向は,全般的に経験群より新卒群で獲得必要性が低い傾向があったが,群間で有意差が認められた項目は2項目のみであった。これは両群の回答傾向に著しい差は生じていないが,新卒群では臨床現場における実地経験数の不足や検査・治療知識の不足により必要性が得られにくい項目が多いものと推察された。一方,両群内での一致係数は新卒群より経験群で低下している傾向があり,経験者は経験年数や所属病期等により獲得必要性の思考に差が生じていることが示唆された。両群で合意が得られた項目はいずれも汎用性が高い検査・治療項目であり,疾患や病期を問わず施行する可能性の高い技能であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士が初年度に獲得すべき臨床技能について調査することは,理学療法士の臨床能力の根幹を形成してゆく過程で有効と考える。新卒者と経験者の双方が合意する項目を抽出することは,指導する側とされる側で共通する具体的な到達目標を設定することが可能となり,かつ効果的・効率的な指導が行える可能性がある。
理学療法士数の急増により医療現場での卒後教育の重要性は増しており,到達目標や質の担保を目的とした指導指針の策定は喫緊の課題である。資格取得後の到達目標等については芳野らの報告など散見されるが,臨床技能面に特化して必要項目等を調査した報告は少ない。また臨床技能は理学療法士職務の根幹となる指導項目だが,現状では獲得すべき技能や優先度は明確化されていない。そこで本研究では,理学療法士が初年度に獲得すべき臨床技能について,新卒者および指導経験者の意向を調査し,かつ双方が獲得の必要性が高いと合意する項目を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は急性期および回復期病棟,生活期施設を有する当法人に所属する臨床経験5年以上の理学療法士(以下,経験群)および新卒理学療法士(以下,新卒群;2013年度入職)とした。調査形式は質問紙を用いた留置調査法とし,新卒理学療法士が初年度に獲得すべき臨床技能について無記名回答で調査した。質問紙は複数の理学療法士養成校等の教育機関で用いられている技能指針および学習項目を統合・抽出し,新たに臨床技能面に特化した調査票(検査技術84項目,治療技術38項目,計122項目)を作成し用いた。各項目の回答は選択式で「1年目では不要」,「いくぶんか必要である」,「ほどほどに必要である」,「おおいに必要である」,「きわめて必要である」,の5件法とし,1点から5点の得点を付した。解析方法は,回答者の回答傾向の差を表す指標として全122項目でWilcoxonの順位和検定による群間比較,群内ではkendallの一致係数を算出して検証した。獲得の必要性の高さを表す指標として中央値を算出し,両群で中央値4点以上の項目を抽出した。抽出された項目の内,両群ともに同条件を満たす項目の割合を同意率とした。調査時期は2014年5月,回答期間は2週間とした。統計解析ソフトはDr.SPSSII for Windowsを用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
回収数は28,回収率および有効回答率は100%であった。回答者属性は経験群22名(平均年齢32.1±4.0歳,平均臨床経験9.2±3.7年),新卒群6名(平均年齢23.8±2.0歳)であった。全122項目で新卒群および経験群のそれぞれの回答割合は1点:8.3%,4.4%,2点:10.7%,6.9%,3点:15.0%,18.7%,4点:25.5%,27.1%,5点:40.4%,42.9%であった。両群間の回答傾向の差はWilcoxonの順位和検定により検査技術1項目,治療技術1項目に有意差を認めた。各群内における回答者間の一致係数は検査技術で新卒群0.543(p<0.01),経験群0.409(p<0.01),治療技術で新卒群0.641(p<0.01),経験群0.504(p<0.01)であった。中央値4点以上の項目数は検査技術で新卒群55項目,経験群66項目,両群ともに同条件を満たす項目は55項目(同意率83.3%),治療技術で新卒群23項目,経験群29項目,両群ともに同条件を満たす項目は23項目(同意率76.7%)であった。検査技術ではvital測定,触診,ROM測定,四肢計測,感覚検査,姿勢・基本動作評価等は両群で獲得の必要性が高かったが,画像診断やADL(食事・整容・更衣)は新卒群では低い結果となった。治療技術はROM-ex,筋力強化練習,基本動作練習,バランス練習,協調性練習等は両群で獲得の必要性が高かったが,物理療法(寒冷・電気)やADL(更衣・入浴)は新卒群では低い結果となった。
【考察】
全122項目の回答傾向は,全般的に経験群より新卒群で獲得必要性が低い傾向があったが,群間で有意差が認められた項目は2項目のみであった。これは両群の回答傾向に著しい差は生じていないが,新卒群では臨床現場における実地経験数の不足や検査・治療知識の不足により必要性が得られにくい項目が多いものと推察された。一方,両群内での一致係数は新卒群より経験群で低下している傾向があり,経験者は経験年数や所属病期等により獲得必要性の思考に差が生じていることが示唆された。両群で合意が得られた項目はいずれも汎用性が高い検査・治療項目であり,疾患や病期を問わず施行する可能性の高い技能であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士が初年度に獲得すべき臨床技能について調査することは,理学療法士の臨床能力の根幹を形成してゆく過程で有効と考える。新卒者と経験者の双方が合意する項目を抽出することは,指導する側とされる側で共通する具体的な到達目標を設定することが可能となり,かつ効果的・効率的な指導が行える可能性がある。