[P2-A-0773] 皮膚厚の違いを考慮したホットパックの筋加温効果に関する検討
Keywords:ホットパック, 皮膚厚, 筋加温
【はじめに,目的】
ホットパック(HP)は,臨床的に筋伸張性向上を図る目的で実施されることが多い。しかし,先行研究では,HPの筋加温効果については賛否両論が存在し,未だに統一見解が得られていない。ところで,人の皮膚厚は身体部位によってかなり異なり,伝導性温熱療法であるHPの筋加温効果も皮膚厚の影響を受けるはずである。しかし,皮膚厚の違いを考慮してHPの筋加温効果を検討した研究は皆無である。そこで本研究の目的は,皮膚厚の違いを考慮したHPの筋加温効果について検討することとした。
【方法】
BMIで標準体重となる若年健常男性13名(年齢:21.0±1.5歳,BMI:21.0±1.4kg/m2)を対象とし,以下の2つの実験を実施順序をランダムとして1日以上の間隔を空けて実施した。なお,本研究では,時間経過に伴う温度低下を生じない電熱式HP装置(OGパックスKT-521,OG技研)を使用し,HPの表面温度は42℃とした。〈実験1〉対象者は5分間の安静腹臥位保持(以下,馴化)終了後,同一肢位にて人体の中で皮膚(ただし,表皮から皮下組織)の最も薄い部位である上腕前面(皮膚厚:概ね0.5cm)に位置する両側の上腕二頭筋を標的筋とした20分間のHPを受けた。〈実験2〉対象者は馴化終了後,同一肢位にて人体の中で皮膚の最も厚い部位である腰背部(皮膚厚:概ね1.5cm)に位置する両側の腰部脊柱起立筋を標的筋とした20分間のHPを受けた。測定では,一般に筋温の実測は様々な要因により困難なことから,筋加温効果と関連する指標として筋硬度と筋血流量に注目した。筋硬度(単位:Nm)の測定は,筋硬度計(NEUTONE TDM-NA1,TRY-ALL)を用いて,各実験でのHPの標的筋の筋硬度を馴化終了時およびHP終了時に各筋の筋腹中央部(腰部脊柱起立筋では第三腰椎の高さ)で測定した。筋血流量の測定は,近赤外線分光分析装置(NIRS)(OEG-16,Spectratech,送光-受光プローブ間距離:3 cm)を用いて,各実験中に前述の筋硬度測定部位と同一部位にて酸素化ヘモグロビン量(HbO2,単位:mmol/mm)を測定した。なお,本NIRSの血流量の測定深度は,送光-受光プローブ間距離の50~70%に当たる皮膚表面から1.5~2.1cmとなる。統計学的分析では,筋硬度については,各筋において各実験の馴化終了時とHP終了時の測定値を対応のあるt検定で比較した。HbO2については,各実験の馴化終了時の値を基準値として,HP実施中の5分間隔での測定値の基準値からの経時的変化をDunnett法にて検討した。さらに,実験1と2の間で,HP実施中の5分毎のHbO2をStudentのt検定(Bonferroni補正)で比較した。統計学的検定の有意水準は5%とした。
【結果】
筋硬度(平均値)については,上腕二頭筋では馴化終了時(21.8)とHP終了時(21.9)との間で明らかな変化を認めなかったが,腰部脊柱起立筋では馴化終了時(14.0)と比較したHP終了時(13.3)での有意な低下を認めた。HbO2(平均値)については,両筋ともに基準値と比較してHP開始5分後(両筋ともに0.2),10分後(両筋ともに0.2),15分後(両筋ともに0.3),20分後(両筋ともに0.4)での有意な増加を認めたものの,両筋間での明らかな違いを認めなかった。
【考察】
本研究結果は,筋加温効果の指標の内,筋硬度についてはHPの実施に伴い腰部脊柱起立筋では有意に低下したものの,上腕二頭筋では明らかな変化を認めなかったことを示している。一方,筋血流量については,両筋ともにHPの実施に伴う同程度の有意な増加を認めたことを示している。しかし,前述したNIRSの測定深度と両筋が位置する部位の皮膚厚の違いを考慮すると,腰部脊柱起立筋と比較して上腕二頭筋でより深部の筋血流量が測定されていたことになる。加えて,先行研究では,筋血流量の増加が大きい場合,筋硬度は低下しないことが指摘されている。これらを考慮すると,上腕二頭筋,腰部脊柱起立筋ともにHPにより加温されてはいるものの,その効果は上腕二頭筋でより大きく,より深部まで加温されていたと考えられる。なお,本研究結果は,時間経過に伴う温度低下を生じない電熱式HP装置を使用した場合のものである。今後は,時間経過に伴う温度低下を生じる可能性があるハイドロコレータを使用するHPに関しても,皮膚厚の違いを考慮した筋加温効果について検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は,HPの筋加温効果が皮膚厚に大きく左右される可能性を筋硬度と筋血流量の観点から示しており,表在性温熱療法に分類されるHPを筋加温の目的で使用する際に考慮されるべき問題を客観的に提起し得た点で意義深いと考える。
ホットパック(HP)は,臨床的に筋伸張性向上を図る目的で実施されることが多い。しかし,先行研究では,HPの筋加温効果については賛否両論が存在し,未だに統一見解が得られていない。ところで,人の皮膚厚は身体部位によってかなり異なり,伝導性温熱療法であるHPの筋加温効果も皮膚厚の影響を受けるはずである。しかし,皮膚厚の違いを考慮してHPの筋加温効果を検討した研究は皆無である。そこで本研究の目的は,皮膚厚の違いを考慮したHPの筋加温効果について検討することとした。
【方法】
BMIで標準体重となる若年健常男性13名(年齢:21.0±1.5歳,BMI:21.0±1.4kg/m2)を対象とし,以下の2つの実験を実施順序をランダムとして1日以上の間隔を空けて実施した。なお,本研究では,時間経過に伴う温度低下を生じない電熱式HP装置(OGパックスKT-521,OG技研)を使用し,HPの表面温度は42℃とした。〈実験1〉対象者は5分間の安静腹臥位保持(以下,馴化)終了後,同一肢位にて人体の中で皮膚(ただし,表皮から皮下組織)の最も薄い部位である上腕前面(皮膚厚:概ね0.5cm)に位置する両側の上腕二頭筋を標的筋とした20分間のHPを受けた。〈実験2〉対象者は馴化終了後,同一肢位にて人体の中で皮膚の最も厚い部位である腰背部(皮膚厚:概ね1.5cm)に位置する両側の腰部脊柱起立筋を標的筋とした20分間のHPを受けた。測定では,一般に筋温の実測は様々な要因により困難なことから,筋加温効果と関連する指標として筋硬度と筋血流量に注目した。筋硬度(単位:Nm)の測定は,筋硬度計(NEUTONE TDM-NA1,TRY-ALL)を用いて,各実験でのHPの標的筋の筋硬度を馴化終了時およびHP終了時に各筋の筋腹中央部(腰部脊柱起立筋では第三腰椎の高さ)で測定した。筋血流量の測定は,近赤外線分光分析装置(NIRS)(OEG-16,Spectratech,送光-受光プローブ間距離:3 cm)を用いて,各実験中に前述の筋硬度測定部位と同一部位にて酸素化ヘモグロビン量(HbO2,単位:mmol/mm)を測定した。なお,本NIRSの血流量の測定深度は,送光-受光プローブ間距離の50~70%に当たる皮膚表面から1.5~2.1cmとなる。統計学的分析では,筋硬度については,各筋において各実験の馴化終了時とHP終了時の測定値を対応のあるt検定で比較した。HbO2については,各実験の馴化終了時の値を基準値として,HP実施中の5分間隔での測定値の基準値からの経時的変化をDunnett法にて検討した。さらに,実験1と2の間で,HP実施中の5分毎のHbO2をStudentのt検定(Bonferroni補正)で比較した。統計学的検定の有意水準は5%とした。
【結果】
筋硬度(平均値)については,上腕二頭筋では馴化終了時(21.8)とHP終了時(21.9)との間で明らかな変化を認めなかったが,腰部脊柱起立筋では馴化終了時(14.0)と比較したHP終了時(13.3)での有意な低下を認めた。HbO2(平均値)については,両筋ともに基準値と比較してHP開始5分後(両筋ともに0.2),10分後(両筋ともに0.2),15分後(両筋ともに0.3),20分後(両筋ともに0.4)での有意な増加を認めたものの,両筋間での明らかな違いを認めなかった。
【考察】
本研究結果は,筋加温効果の指標の内,筋硬度についてはHPの実施に伴い腰部脊柱起立筋では有意に低下したものの,上腕二頭筋では明らかな変化を認めなかったことを示している。一方,筋血流量については,両筋ともにHPの実施に伴う同程度の有意な増加を認めたことを示している。しかし,前述したNIRSの測定深度と両筋が位置する部位の皮膚厚の違いを考慮すると,腰部脊柱起立筋と比較して上腕二頭筋でより深部の筋血流量が測定されていたことになる。加えて,先行研究では,筋血流量の増加が大きい場合,筋硬度は低下しないことが指摘されている。これらを考慮すると,上腕二頭筋,腰部脊柱起立筋ともにHPにより加温されてはいるものの,その効果は上腕二頭筋でより大きく,より深部まで加温されていたと考えられる。なお,本研究結果は,時間経過に伴う温度低下を生じない電熱式HP装置を使用した場合のものである。今後は,時間経過に伴う温度低下を生じる可能性があるハイドロコレータを使用するHPに関しても,皮膚厚の違いを考慮した筋加温効果について検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は,HPの筋加温効果が皮膚厚に大きく左右される可能性を筋硬度と筋血流量の観点から示しており,表在性温熱療法に分類されるHPを筋加温の目的で使用する際に考慮されるべき問題を客観的に提起し得た点で意義深いと考える。