[P2-A-0779] 下肢筋に対する経皮的電気刺激が成長ホルモン分泌に及ぼす影響
Keywords:経皮的電気刺激, 成長ホルモン, 下肢筋
【はじめに】近年,電極を腰や脚に巻き付けるベルト電極を使用することにより,大腿四頭筋・ハムストリングス・前脛骨筋・下腿三頭筋などを同時収縮させることができるベルト電極式骨格筋電気刺激が注目されている。従来の経皮的電気刺激法とは異なり,全身筋肉量の70%を占める下肢筋すべてを同時に刺激できることから,ベッド上で長期の臥床を強いられる方,過度の肥満の方や関節痛により運動が困難な方などに有効とされ,種々の効果が期待されている。現在,この経皮的電気刺激によって,筋厚,筋力,歩行距離の増加や酸素摂取量,血中乳酸などの上昇などの報告が散見されている。しかし,これまでに経皮的電気刺激が筋肉の成長を促す内分泌物質である成長ホルモン分泌に及ぼす影響についての報告はない。したがって,本研究では下肢筋に対する経皮的電気刺激が成長ホルモン分泌に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は健常者である男子大学生25名(21.1±1.0歳)とした。経皮的電気刺激にはベルト電極式骨格筋電気刺激装置(AUTO Tens PRO;HOMER ION社製)を使用した。電気刺激は午前9時から11時までの2時間内に実施した。電気刺激方法は腰部と大腿部および足部にベルト電極を装着し,大腿四頭筋・ハムストリングス・下腿三頭筋・前脛骨筋を20分間同時収縮させた。刺激周波数は20Hz,duty cycle5秒on・2秒offとし,刺激強度は各被験者が耐えられる最大刺激強度とした。電気刺激前後の成長ホルモン分泌の測定回数は,電気刺激前,刺激10分後,刺激終了直後,刺激終了30分後,60分後の計5回とし,成長ホルモンの採取は被験者自身にて指尖部より穿刺具と穿刺針を用いて,指頭血を乾燥ろ紙に塗布した。その後,ろ紙血を乾燥させ4℃で保存後,後日分析を実施した。また,同時に血中乳酸濃度も測定した。統計学解析は,SPSS.21 for Windowsを用いてFriedman検定,多重比較法にて成長ホルモン分泌の変化を検討した。なお,5%未満を有意差判定の基準とした。
【結果】電気刺激前後の血中乳酸濃度について,刺激前,刺激10分後,刺激終了直後,刺激終了後30分後,60分後の全体において有意差を認め(p<0.01),多重比較では刺激前と刺激10分後,刺激前と刺激終了直後間で有意な増加を認めた(p<0.01)。刺激終了直後と刺激終了60分後間では有意な低下を認めた(p<0.01)。成長ホルモン分泌は,刺激前,刺激10分後,刺激終了直後,刺激終了30分後,60分後の全体において有意差を認め(p<0.01),多重比較では刺激前と刺激終了直後(p<0.01),刺激前と刺激終了30分後(p<0.05),刺激前と刺激終了60分後(p<0.05)で有意な増加を認めた。刺激終了直後と刺激終了60分後間では有意差は認めなかった。
【考察】森谷は,ベルト電極式骨格筋電気刺激装置の有用性について,電気刺激が主に神経の太い速筋線維を動員し,筋グリコーゲンを利用することから血中乳酸濃度が上昇したと報告している。本研究においても,血中乳酸濃度は電気刺激開始後に有意に増加し,先行研究と同様の変化を確認できた。また,電気刺激後の成長ホルモン分泌については刺激終了直後から有意に増加し,60分後も有意な低下を認めなかった。成長ホルモンが電気刺激後に増大することは,ストレスを受けた筋組織内でのIGF-1(Insulin-like growth factor-1)の分泌を介し,筋の蛋白合成に寄与すると考えられ,筋肉量増加や筋肥大を得ることができることを示唆している。したがって,ベルト電極式骨格筋電気刺激装置を用いた経皮的電気刺激は多くの下肢筋を同時収縮させ,筋力トレーニング直後の成長ホルモン分泌と同様の効果を得ることができる可能性がある。今後の課題として,刺激強度別による成長ホルモン分泌の影響や実際の臨床現場では多くの対象者が高齢であることから,高齢者に対する経皮的電気刺激の影響についても検討することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】本研究から,下肢筋に対して経皮的電気刺激を実施することで筋肉量増加や筋肥大を促す内分泌因子である成長ホルモンが増大することが明らかとなった。
【方法】対象は健常者である男子大学生25名(21.1±1.0歳)とした。経皮的電気刺激にはベルト電極式骨格筋電気刺激装置(AUTO Tens PRO;HOMER ION社製)を使用した。電気刺激は午前9時から11時までの2時間内に実施した。電気刺激方法は腰部と大腿部および足部にベルト電極を装着し,大腿四頭筋・ハムストリングス・下腿三頭筋・前脛骨筋を20分間同時収縮させた。刺激周波数は20Hz,duty cycle5秒on・2秒offとし,刺激強度は各被験者が耐えられる最大刺激強度とした。電気刺激前後の成長ホルモン分泌の測定回数は,電気刺激前,刺激10分後,刺激終了直後,刺激終了30分後,60分後の計5回とし,成長ホルモンの採取は被験者自身にて指尖部より穿刺具と穿刺針を用いて,指頭血を乾燥ろ紙に塗布した。その後,ろ紙血を乾燥させ4℃で保存後,後日分析を実施した。また,同時に血中乳酸濃度も測定した。統計学解析は,SPSS.21 for Windowsを用いてFriedman検定,多重比較法にて成長ホルモン分泌の変化を検討した。なお,5%未満を有意差判定の基準とした。
【結果】電気刺激前後の血中乳酸濃度について,刺激前,刺激10分後,刺激終了直後,刺激終了後30分後,60分後の全体において有意差を認め(p<0.01),多重比較では刺激前と刺激10分後,刺激前と刺激終了直後間で有意な増加を認めた(p<0.01)。刺激終了直後と刺激終了60分後間では有意な低下を認めた(p<0.01)。成長ホルモン分泌は,刺激前,刺激10分後,刺激終了直後,刺激終了30分後,60分後の全体において有意差を認め(p<0.01),多重比較では刺激前と刺激終了直後(p<0.01),刺激前と刺激終了30分後(p<0.05),刺激前と刺激終了60分後(p<0.05)で有意な増加を認めた。刺激終了直後と刺激終了60分後間では有意差は認めなかった。
【考察】森谷は,ベルト電極式骨格筋電気刺激装置の有用性について,電気刺激が主に神経の太い速筋線維を動員し,筋グリコーゲンを利用することから血中乳酸濃度が上昇したと報告している。本研究においても,血中乳酸濃度は電気刺激開始後に有意に増加し,先行研究と同様の変化を確認できた。また,電気刺激後の成長ホルモン分泌については刺激終了直後から有意に増加し,60分後も有意な低下を認めなかった。成長ホルモンが電気刺激後に増大することは,ストレスを受けた筋組織内でのIGF-1(Insulin-like growth factor-1)の分泌を介し,筋の蛋白合成に寄与すると考えられ,筋肉量増加や筋肥大を得ることができることを示唆している。したがって,ベルト電極式骨格筋電気刺激装置を用いた経皮的電気刺激は多くの下肢筋を同時収縮させ,筋力トレーニング直後の成長ホルモン分泌と同様の効果を得ることができる可能性がある。今後の課題として,刺激強度別による成長ホルモン分泌の影響や実際の臨床現場では多くの対象者が高齢であることから,高齢者に対する経皮的電気刺激の影響についても検討することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】本研究から,下肢筋に対して経皮的電気刺激を実施することで筋肉量増加や筋肥大を促す内分泌因子である成長ホルモンが増大することが明らかとなった。