[P2-B-0475] 運動イメージが脊髄運動神経の興奮性と自律神経活動に与える影響―イメージする収縮強度の違いによる比較―
キーワード:運動イメージ, F波, 自律神経
【はじめに,目的】
我々は先行研究にて,最大努力の10%,30%,50%,および70%収縮強度において,運動イメージは脊髄運動神経の興奮性を増大させるものの,運動イメージする筋の収縮強度の違いは,脊髄運動神経の興奮性変化には影響を与えないことを報告した。
本研究では,より強い筋収縮強度を用いた運動イメージが脊髄運動神経の興奮性変化に与える影響をみるために,最大努力の50%および100%収縮強度における運動イメージ時の脊髄運動神経の興奮性をF波にて検討した。さらに,運動イメージが脊髄運動神経以外の末梢神経系へ与える影響を交感神経活動の指標であるLF/HF比を用いて検討した。
【方法】
対象は,健常者10名,平均年齢25.2歳であった。安静試行①とピンチメータセンサーを軽く把持しながら最大収縮の50%収縮強度での母指対立運動イメージした状態(運動イメージ試行①)と運動イメージ直後(安静試行②),運動イメージ試行②,運動イメージ②直後(安静試行③)の各時点でF波出現頻度,振幅F/M比および立ち上がり潜時を測定した。F波測定と同時に交感神経活動の指標であるLF/HF比を測定した。以上の課題を50%条件とし,100%条件についても同様の流れで行った。
【結果】
F波出現頻度,振幅F/M比は,2つの収縮条件の運動イメージ試行①および②において,安静試行①と比較して有意に増加した。LF/HF比は,2つの収縮条件の運動イメージ試行①において,安静試行①と比較して有意に増加した。F波出現頻度,振幅F/M比およびLF/HF比の安静試行①に対する相対値は,2つの収縮条件間に有意差を認めなかった。
【考察】
2つの収縮条件において,運動イメージにより脊髄運動神経の興奮性が増大したことについて,大脳皮質より母指球筋に対応する下行性線維の影響が考えられる。運動イメージは一次運動野(M1),補足運動野(SMA),運動前野(PM),小脳(CRB)および大脳基底核(BG)を賦活させるといわれている。SMA,PM,CRB,BGは運動の準備企画や制御に関与するとされ,これらの部位は,それぞれM1に投射し,皮質脊髄路を介して脊髄運動神経の興奮性を増大させた結果であると考える。加えて,ピンチメータセンサー把持時の触圧覚や固有受容感覚が大脳皮質レベルの興奮性を増大させ,相乗効果として脊髄運動神経の興奮性増大に寄与した可能性が考えられる。次に,運動イメージする筋収縮強度間に有意差を認めなかったことについて考察する。事象関連電位を用いた検討において,運動イメージ時のSMAとPMの活動は力発揮量の増加によって増大するが,M1の活動は力発揮量に依存しないことが報告されている(Romeroら,2000)。さらに,運動イメージする収縮強度の違いが運動誘発電位(MEP)振幅に変化を及ぼさなかったという報告がある(Parkら,2011)。これらの報告より運動イメージする収縮強度の違いが大脳皮質レベルでの興奮性変化に関与しなかった結果,脊髄運動神経の興奮性にも影響を及ぼさなかったと考える。またSMAとPMは,運動の準備に関与すると同時に運動を抑制する機能をもつ。運動イメージは実際の運動を伴わない脳内の心的リハーサルといわれている。SMAとPMが運動準備と同時に収縮強度に応じた筋活動の抑制に関与した結果,M1の活動において運動イメージする収縮強度間に差がみられなかったと考える。
2つの収縮条件において,運動イメージにより交感神経活動が亢進したことについても大脳皮質からの影響を考えた。運動野への磁気・電気刺激により交感神経活動が亢進したという報告がある(Silberら,2000;Clancyら,2014)。運動イメージによる交感神経活動の賦活には皮質脊髄路を介した交感神経線維への何らかの投射による影響が考えられる。さらに,交感神経活動と運動調節の両方に関与する中枢神経領域として,吻側延髄腹内側部(RVMM)があるとの報告(Kermanら,2003)と網様体脊髄路は交感神経線維と運動神経の両方に線維連絡をもち,さらにRVMMはその一部であるとの報告(Allenら,1994)から,運動イメージにより網様体脊髄路を介して交感神経活動を亢進させたことが考えられる。先行研究より,運動イメージによる交感神経活動の亢進には,皮質脊髄路および網様体脊髄路の関与が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
運動イメージは脊髄運動神経の興奮性と交感神経活動を増大させることがわかった。50%および100%収縮強度において,運動イメージする筋収縮強度の違いは脊髄運動神経の興奮性と交感神経活動の変化に関与しないことが示唆された。
我々は先行研究にて,最大努力の10%,30%,50%,および70%収縮強度において,運動イメージは脊髄運動神経の興奮性を増大させるものの,運動イメージする筋の収縮強度の違いは,脊髄運動神経の興奮性変化には影響を与えないことを報告した。
本研究では,より強い筋収縮強度を用いた運動イメージが脊髄運動神経の興奮性変化に与える影響をみるために,最大努力の50%および100%収縮強度における運動イメージ時の脊髄運動神経の興奮性をF波にて検討した。さらに,運動イメージが脊髄運動神経以外の末梢神経系へ与える影響を交感神経活動の指標であるLF/HF比を用いて検討した。
【方法】
対象は,健常者10名,平均年齢25.2歳であった。安静試行①とピンチメータセンサーを軽く把持しながら最大収縮の50%収縮強度での母指対立運動イメージした状態(運動イメージ試行①)と運動イメージ直後(安静試行②),運動イメージ試行②,運動イメージ②直後(安静試行③)の各時点でF波出現頻度,振幅F/M比および立ち上がり潜時を測定した。F波測定と同時に交感神経活動の指標であるLF/HF比を測定した。以上の課題を50%条件とし,100%条件についても同様の流れで行った。
【結果】
F波出現頻度,振幅F/M比は,2つの収縮条件の運動イメージ試行①および②において,安静試行①と比較して有意に増加した。LF/HF比は,2つの収縮条件の運動イメージ試行①において,安静試行①と比較して有意に増加した。F波出現頻度,振幅F/M比およびLF/HF比の安静試行①に対する相対値は,2つの収縮条件間に有意差を認めなかった。
【考察】
2つの収縮条件において,運動イメージにより脊髄運動神経の興奮性が増大したことについて,大脳皮質より母指球筋に対応する下行性線維の影響が考えられる。運動イメージは一次運動野(M1),補足運動野(SMA),運動前野(PM),小脳(CRB)および大脳基底核(BG)を賦活させるといわれている。SMA,PM,CRB,BGは運動の準備企画や制御に関与するとされ,これらの部位は,それぞれM1に投射し,皮質脊髄路を介して脊髄運動神経の興奮性を増大させた結果であると考える。加えて,ピンチメータセンサー把持時の触圧覚や固有受容感覚が大脳皮質レベルの興奮性を増大させ,相乗効果として脊髄運動神経の興奮性増大に寄与した可能性が考えられる。次に,運動イメージする筋収縮強度間に有意差を認めなかったことについて考察する。事象関連電位を用いた検討において,運動イメージ時のSMAとPMの活動は力発揮量の増加によって増大するが,M1の活動は力発揮量に依存しないことが報告されている(Romeroら,2000)。さらに,運動イメージする収縮強度の違いが運動誘発電位(MEP)振幅に変化を及ぼさなかったという報告がある(Parkら,2011)。これらの報告より運動イメージする収縮強度の違いが大脳皮質レベルでの興奮性変化に関与しなかった結果,脊髄運動神経の興奮性にも影響を及ぼさなかったと考える。またSMAとPMは,運動の準備に関与すると同時に運動を抑制する機能をもつ。運動イメージは実際の運動を伴わない脳内の心的リハーサルといわれている。SMAとPMが運動準備と同時に収縮強度に応じた筋活動の抑制に関与した結果,M1の活動において運動イメージする収縮強度間に差がみられなかったと考える。
2つの収縮条件において,運動イメージにより交感神経活動が亢進したことについても大脳皮質からの影響を考えた。運動野への磁気・電気刺激により交感神経活動が亢進したという報告がある(Silberら,2000;Clancyら,2014)。運動イメージによる交感神経活動の賦活には皮質脊髄路を介した交感神経線維への何らかの投射による影響が考えられる。さらに,交感神経活動と運動調節の両方に関与する中枢神経領域として,吻側延髄腹内側部(RVMM)があるとの報告(Kermanら,2003)と網様体脊髄路は交感神経線維と運動神経の両方に線維連絡をもち,さらにRVMMはその一部であるとの報告(Allenら,1994)から,運動イメージにより網様体脊髄路を介して交感神経活動を亢進させたことが考えられる。先行研究より,運動イメージによる交感神経活動の亢進には,皮質脊髄路および網様体脊髄路の関与が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
運動イメージは脊髄運動神経の興奮性と交感神経活動を増大させることがわかった。50%および100%収縮強度において,運動イメージする筋収縮強度の違いは脊髄運動神経の興奮性と交感神経活動の変化に関与しないことが示唆された。