[P2-B-0479] 運動学習における最適な課題難易度の定量的評価
Keywords:運動学習, 課題, 定量的評価
【はじめに,目的】
課題難易度の設定は運動学習の成果を左右する重要な要因であるにもかかわらず,その設定は各セラピストの直感や経験に基づいて行われている。Guadagnoliら(2004)により運動学習にとっての至適課題難易度が概念的に示されてはいるものの,至適課題難易度に難易度を設定するための具体的な方法については示されていない。そこで,我々は課題難易度を定量的に評価できる指標の確立を目指し,これまでに生理学的指標である唾液α-アミラーゼを用いた方法を報告している。そこで,本研究では,唾液α-アミラーゼを用いて運動学習における至適課題難易度を定量化することを試みた。さらに,臨床応用を考慮し,より簡便に課題難易度を測定できる手法として主観的指標であるNational Aeronautics and Space Administration-Task Load Index(以下,NASA-TLX)の有用性を検証した。生理学的指標および主観的指標を用いて運動学習における至適課題難易度を定量化することで,適切な課題難易度設定方法の確立に寄与することを目的とした。
【方法】
健常若年者60名(平均年齢22.5±2.2歳)を対象とした。学習課題はBalance system(Biodex社製)上での閉脚立位保持とした。Balance systemは不安定板の安定レベルを8段階で調整することが可能であることに加え,課題遂行中の身体動揺を安定度として算出することが可能である。本研究では安定レベル1(最も不安定),2,3,4を実験に使用し,各条件にそれぞれ15名の対象者を無作為に振り分けた。唾液α-アミラーゼの測定には唾液アミラーゼモニター(NIPRO社製)を使用した。
実験は2日間行った。実験1日目には,唾液α-アミラーゼの基準値となる対象者の安静時における唾液α-アミラーゼを測定した。その後,全ての対象者は各安定レベルを1試行ずつ無作為な順序で含むプレテストを遂行した。プレテスト終了後,対象者は振り分けられた条件に基づき,合計12試行(3ブロック×4試行)の学習課題を遂行した。1試行は20秒に設定し,試行間間隔は20秒とした。各ブロック間には5分間の休憩を挿入した。各ブロック終了直後に唾液α-アミラーゼを測定した。全てのブロックと唾液α-アミラーゼの測定を終了した後にNASA-TLXの測定を実施した。練習試行終了から約24時間後の実験2日目にはプレテストと同様の内容で転移テストを実施した。転移テスト終了後,練習試行と同様の条件で保持テストを4試行実施した。
データ解析には練習試行時における安定度,ブロック1から保持テストにかけての改善率,プレテストから転移テストにかけての改善率,安静時を基準とした課題遂行後の唾液α-アミラーゼの変化率,NASA-TLXを使用した。統計解析にはIBM SPSS Statistics 20を使用した。
【結果】
練習試行時における安定度には安定レベルの有意な主効果が認められ(p<0.01),課題難易度が上がるにつれて安定度は低下した。安定レベルと保持テストおよび転移テストの改善率は逆U字型の関係を示し,安定レベル2において最も改善率が大きく,安定レベル1と安定レベル4において改善率が小さかった。唾液α-アミラーゼの変化率は練習試行時における安定度と相関し(r=0.815,p<0.01),唾液α-アミラーゼと転移テストの改善率の関係から有意な二次回帰曲線が得られた(R2=0.371,p<0.01)。二次回帰曲線の頂点は85%を示した。さらに,NASA-TLXに含まれる作業成績の項目と姿勢制御課題の成績に有意な相関が認められ(r=0.829,p<0.01),作業成績と転移テストの改善率の関係から有意な二次回帰曲線が得られた(R2=0.218,p<0.01)。二次回帰曲線の頂点は53.0を示した。
【考察】
本研究の結果,安定レベル2が最も至適課題難易度に近似していたと考えられる。至適課題難易度よりも難易度が高くても(安定レベル1),低くても(安定レベル3,4)運動学習の成果は低くなることが明らかとなった。さらに,唾液α-アミラーゼが安静時から85%上昇する,あるいはNASA-TLXに含まれる作業成績の項目が53.0となる課題難易度が至適課題難易度に相当することが示された。また,NASA-TLXは唾液α-アミラーゼと比較すると精度は落ちるものの,その測定の簡便さから臨床上,有用と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は科学的根拠に基づく課題難易度設定方法を提案しており,この方法を用いることによってセラピストの経験年数などに依らずに適切な課題難易度の設定が可能となる。
課題難易度の設定は運動学習の成果を左右する重要な要因であるにもかかわらず,その設定は各セラピストの直感や経験に基づいて行われている。Guadagnoliら(2004)により運動学習にとっての至適課題難易度が概念的に示されてはいるものの,至適課題難易度に難易度を設定するための具体的な方法については示されていない。そこで,我々は課題難易度を定量的に評価できる指標の確立を目指し,これまでに生理学的指標である唾液α-アミラーゼを用いた方法を報告している。そこで,本研究では,唾液α-アミラーゼを用いて運動学習における至適課題難易度を定量化することを試みた。さらに,臨床応用を考慮し,より簡便に課題難易度を測定できる手法として主観的指標であるNational Aeronautics and Space Administration-Task Load Index(以下,NASA-TLX)の有用性を検証した。生理学的指標および主観的指標を用いて運動学習における至適課題難易度を定量化することで,適切な課題難易度設定方法の確立に寄与することを目的とした。
【方法】
健常若年者60名(平均年齢22.5±2.2歳)を対象とした。学習課題はBalance system(Biodex社製)上での閉脚立位保持とした。Balance systemは不安定板の安定レベルを8段階で調整することが可能であることに加え,課題遂行中の身体動揺を安定度として算出することが可能である。本研究では安定レベル1(最も不安定),2,3,4を実験に使用し,各条件にそれぞれ15名の対象者を無作為に振り分けた。唾液α-アミラーゼの測定には唾液アミラーゼモニター(NIPRO社製)を使用した。
実験は2日間行った。実験1日目には,唾液α-アミラーゼの基準値となる対象者の安静時における唾液α-アミラーゼを測定した。その後,全ての対象者は各安定レベルを1試行ずつ無作為な順序で含むプレテストを遂行した。プレテスト終了後,対象者は振り分けられた条件に基づき,合計12試行(3ブロック×4試行)の学習課題を遂行した。1試行は20秒に設定し,試行間間隔は20秒とした。各ブロック間には5分間の休憩を挿入した。各ブロック終了直後に唾液α-アミラーゼを測定した。全てのブロックと唾液α-アミラーゼの測定を終了した後にNASA-TLXの測定を実施した。練習試行終了から約24時間後の実験2日目にはプレテストと同様の内容で転移テストを実施した。転移テスト終了後,練習試行と同様の条件で保持テストを4試行実施した。
データ解析には練習試行時における安定度,ブロック1から保持テストにかけての改善率,プレテストから転移テストにかけての改善率,安静時を基準とした課題遂行後の唾液α-アミラーゼの変化率,NASA-TLXを使用した。統計解析にはIBM SPSS Statistics 20を使用した。
【結果】
練習試行時における安定度には安定レベルの有意な主効果が認められ(p<0.01),課題難易度が上がるにつれて安定度は低下した。安定レベルと保持テストおよび転移テストの改善率は逆U字型の関係を示し,安定レベル2において最も改善率が大きく,安定レベル1と安定レベル4において改善率が小さかった。唾液α-アミラーゼの変化率は練習試行時における安定度と相関し(r=0.815,p<0.01),唾液α-アミラーゼと転移テストの改善率の関係から有意な二次回帰曲線が得られた(R2=0.371,p<0.01)。二次回帰曲線の頂点は85%を示した。さらに,NASA-TLXに含まれる作業成績の項目と姿勢制御課題の成績に有意な相関が認められ(r=0.829,p<0.01),作業成績と転移テストの改善率の関係から有意な二次回帰曲線が得られた(R2=0.218,p<0.01)。二次回帰曲線の頂点は53.0を示した。
【考察】
本研究の結果,安定レベル2が最も至適課題難易度に近似していたと考えられる。至適課題難易度よりも難易度が高くても(安定レベル1),低くても(安定レベル3,4)運動学習の成果は低くなることが明らかとなった。さらに,唾液α-アミラーゼが安静時から85%上昇する,あるいはNASA-TLXに含まれる作業成績の項目が53.0となる課題難易度が至適課題難易度に相当することが示された。また,NASA-TLXは唾液α-アミラーゼと比較すると精度は落ちるものの,その測定の簡便さから臨床上,有用と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は科学的根拠に基づく課題難易度設定方法を提案しており,この方法を用いることによってセラピストの経験年数などに依らずに適切な課題難易度の設定が可能となる。