第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習2

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0485] ヒトの二重課題歩行における大脳皮質一次運動野の関与

―筋内・筋間コヒーレンス解析による検証―

三輪美幸1, 高橋真2, 岩政亮平3, 阿南雅也2, 新小田幸一2 (1.浜脇整形外科病院, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院, 3.やすもとクリニック)

Keywords:二重課題, 歩行, 運動制御

【はじめに,目的】
ヒトの歩行は一定の周期で繰り返し行われる高度に自動化された運動である一方で,実際の歩行は,ある目的を果たすための移動手段の一つとして行われるため,様々なことを考えながら,また外部環境に常に注意を向けながら,意識下あるいは無意識下で自身の運動を柔軟に調節しながら歩行する必要がある。このような多重課題条件下の歩行では,歩行速度の低下や1歩行周期時間の変動が増加するなどの報告が数多くなされているが,歩行遂行に関わる中枢神経系への影響については十分に検討がなされていない。
最近では,運動皮質-筋間または筋内・筋間コヒーレンス解析を用いて,ヒトの定常歩行中の運動野の関与が明らかにされつつある。コヒーレンスとは2つの波形信号のある周波数領域における相関の強さを示したもの(0~1の範囲)であり,15~35Hz帯域でのコヒーレンスは運動野における錘体路細胞の律動的な活動が皮質脊髄路を介して末梢に伝搬される遠心性の現象を反映しているとされる。
そこで,本研究では前脛骨筋(Tibialis anterior:TA)の近位部(TA-proximal:TAp)と遠位部(TA-distal:TAd)およびヒラメ筋(Soleus:SOL)と内側腓腹筋(Medial gastrocnemius:MG)の筋内・筋間コヒーレンス解析を行い,二重課題歩行条件下での運動野の関与について明らかにすることを目的として行った。
【方法】
対象者は健常若年者11名であった。課題は定常歩行,計算課題を伴う歩行(二重課題歩行)の2条件であり,いずれもトレッドミル上を4km/hのスピードで5分間歩行した。二重課題歩行条件では,「700」から「7」ずつ減算し,答えのみを口頭で告げるよう指示した。表面筋電計(日本光電,Web-1000)を用い,右測のTAp,TAd,SOL,MGから筋電図を記録した。なお,TAp-TAdの電極間は10 cm以上離した。また,右踵部にテープスイッチ(東京センサ,LS-023)を貼付し,その信号を踵接地のタイミングの指標とした。
踵接地のタイミングから,1歩行周期時間の変動係数を算出した。課題時のTApとTAdの表面筋電図データは,1歩行周期毎に遊脚期の筋活動を,またSOLとMGは立脚期の筋活動を抽出した。抽出したデータから2乗平均平方根を算出し,筋活動量の指標とした。また,抽出したデータは1つの系列ファイルとして連結し,全波整流処理を行い,高速フーリエ変換により周波数解析を行った後,コヒーレンス解析を行った。
【結果】
定常歩行条件と比較して,二重課題歩行条件では1歩行周期時間の変動係数は有意に高くなった。筋活動量は2条件間で有意な差は認められなかった。TAp-Tadにおいて,定常歩行条件と比較して,二重課題歩行条件では15~35 Hzの帯域での筋内コヒーレンスが,僅かではあるが,有意に低下した。一方,SOL-MGの筋間コヒーレンスは2条件間で有意な差は認められなかった。
【考察】
手指や手関節の運動課題において,認知課題を付加した二重課題条件下では注意が分散することによって,筋内・筋間コヒーレンスが低下することが報告されている。本研究においても同様に,運動野が関与する歩行課題が,中枢神経系での処理が必要となる認知課題との同時遂行に干渉を受けることにより,歩行課題に向ける注意資源容量が減少し,前脛骨筋に対する運動野の関与が低下したと考えられる。一方,SOL-MG筋間コヒーレンスには,2条件間で有意な差は認められなかった。同じ下腿の筋であっても,ヒラメ筋などの足関節底屈筋は前脛骨筋と比較して,皮質脊髄路と脊髄α運動ニューロン間の直接結合が弱く,歩行に対する運動野の関与も少ないことが報告されている。したがって,足関節底屈筋群においては歩行に対する運動野の関与が小さいため,二重課題歩行条件下で有意な変化が認められなかったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
これまで二重課題歩行中に機能的近赤外分光法を用いて,脳の賦活を検討した研究が散見されるが,本研究で使用した筋内・筋間コヒーレンスは表面筋電図のみの計測によって解析が可能であり,非常に簡便である。本研究で得られた知見はヒトの歩行の神経制御機構のさらなる解明に繋がるとともに,今後高齢者などの歩行障害の神経学的機序の評価方法の1つとして臨床応用が期待できる。