[P2-B-0498] 姿勢変化が一側の握り動作による対側上肢脊髄神経機能への促通効果に及ぼす影響
キーワード:F波, 脊髄神経機能, 姿勢
【目的】両手を組んで強く左右に引く,歯の噛みしめるといった反射増強法を行うと,その運動に関与しない部位の深部反射は増大する。このように遠隔部の筋に促通が生じる際には,運動に関与する筋とは直接関係をもたない脊髄運動ニューロンや大脳皮質運動野の興奮性が高まることが明らかされており,促通効果は運動開始からのタイミング,筋収縮の強度,筋紡錘の数量の影響を受ける。また,深部反射の利得は,姿勢に依存して調節されることが明らかにされている。そこで,本研究では姿勢の変化が一側上肢の運動による対側上肢脊髄神経機能への促通効果に及ぼす影響についてF波を用いて検討した。
【方法】対象は健常成人男性25名(平均年齢25.7±5.1歳)とした。F波はViking Quest(Nicolet)を用いて,背臥位での安静時と運動課題中,立位での安静時と運動課題中に左短母指外転筋より導出した。運動課題は右手での握り動作とし,デジタル握力計(竹井機器工業)を用いて握力を計測する要領にて最大随意努力を20秒間維持した。課題の順序はランダムとし,姿勢や課題の変更ごとに1分間の休息を与えた。F波導出の刺激条件は強度をM波が最大となる刺激強度の120%,頻度を0.5Hz,持続時間を0.2msとして,左手関節部正中神経を連続10回刺激した。記録条件は探査電極を左短母指外転筋の筋腹上,基準電極を左母指基節骨上に配置した。F波の分析項目は振幅F/M比と立ち上がり潜時とし,各姿勢の安静時に差が生じた場合には安静時を基準として運動課題中の相対値を算出した。また,運動課題中には握力の計測に加え,右浅指屈筋と右母指球筋の表面筋電図を記録した。表面筋電図の計測にはテレメトリー筋電計MQ8(キッセイコムテック株式会社)を用いた。測定筋の筋活動は,3秒間の最大随意収縮における単位時間あたりの筋電図積分値を基準とし,各姿勢での運動課題中における単位時間あたりの筋電図積分値を筋電図積分値相対値として示した。各姿勢における安静時と運動課題中の比較,および各姿勢間での比較にはウイルコクソン符号付順位和検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】振幅F/M比は,背臥位の安静時が0.84±0.58%,運動課題中が2.43±1.45%,立位の安静時が1.04±0.68%,運動課題中が2.07±1.08%であり,背臥位に比べ立位において有意に増大し,背臥位,立位とも安静時に比べ運動課題中において有意に増大した。振幅F/M比の相対値は,背臥位で4.89±4.32,立位で2.47±1.26であり,背臥位と比べ立位において有意に低下した。立ち上がり潜時は,背臥位の安静時が26.6±1.1ms,運動課題中が26.0±1.3ms,立位の安静時が26.6±1.1ms,運動課題中が26.0±1.3msであり,有意差を認めなかった。握力は,背臥位が32.9±8.3kg,立位が33.0±8.3kgであり,有意差を認めなかった。筋電図積分値相対値は,右浅指屈筋が背臥位で0.71±0.27,立位で0.71±0.25,右母指球筋が背臥位で0.62±0.28,立位で0.59±0.31であり,有意差を認めなかった。
【考察】F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来し,脊髄運動ニューロンプールの興奮性の指標として利用されている。本結果より,背臥位に比べ立位では短母指外転筋に対応する脊髄神経機能の興奮性は増加するものの,握り動作による対側脊髄神経機能への促通効果は背臥位に比べ立位で減弱することが示唆された。背臥位に比べ立位では,大脳皮質,脳幹レベルでの興奮性の増加に伴い上肢脊髄神経機能の興奮性は増加すると報告されており,本研究においても同様の機序を考えた。また,一側上肢の運動中に対側上肢脊髄神経機能の興奮性が増加する要因としては,上肢の随意運動に伴う固有感覚入力や上位中枢からの促通効果が報告されている。握力および筋電図積分値相対値に差がないことから,促通効果の減弱には姿勢変化に伴う調節機構が関与したと推測した。立位ではH反射が減弱することからシナプス前抑制が増強すると報告されている。本研究においても立位では脊髄レベルで固有感覚入力が抑制され,対側上肢脊髄神経機能への促通効果が減弱したと考えた。
【理学療法研究としての意義】理学療法を行う際に一側上肢の随意運動が対側の上肢脊髄神経機能へ及ぼす影響を把握することは重要である。本研究より,一側上肢の随意運動による対側上肢脊髄神経機能への促通効果は,姿勢の変化に伴う調節機構の影響を受けることが示唆された。
【方法】対象は健常成人男性25名(平均年齢25.7±5.1歳)とした。F波はViking Quest(Nicolet)を用いて,背臥位での安静時と運動課題中,立位での安静時と運動課題中に左短母指外転筋より導出した。運動課題は右手での握り動作とし,デジタル握力計(竹井機器工業)を用いて握力を計測する要領にて最大随意努力を20秒間維持した。課題の順序はランダムとし,姿勢や課題の変更ごとに1分間の休息を与えた。F波導出の刺激条件は強度をM波が最大となる刺激強度の120%,頻度を0.5Hz,持続時間を0.2msとして,左手関節部正中神経を連続10回刺激した。記録条件は探査電極を左短母指外転筋の筋腹上,基準電極を左母指基節骨上に配置した。F波の分析項目は振幅F/M比と立ち上がり潜時とし,各姿勢の安静時に差が生じた場合には安静時を基準として運動課題中の相対値を算出した。また,運動課題中には握力の計測に加え,右浅指屈筋と右母指球筋の表面筋電図を記録した。表面筋電図の計測にはテレメトリー筋電計MQ8(キッセイコムテック株式会社)を用いた。測定筋の筋活動は,3秒間の最大随意収縮における単位時間あたりの筋電図積分値を基準とし,各姿勢での運動課題中における単位時間あたりの筋電図積分値を筋電図積分値相対値として示した。各姿勢における安静時と運動課題中の比較,および各姿勢間での比較にはウイルコクソン符号付順位和検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】振幅F/M比は,背臥位の安静時が0.84±0.58%,運動課題中が2.43±1.45%,立位の安静時が1.04±0.68%,運動課題中が2.07±1.08%であり,背臥位に比べ立位において有意に増大し,背臥位,立位とも安静時に比べ運動課題中において有意に増大した。振幅F/M比の相対値は,背臥位で4.89±4.32,立位で2.47±1.26であり,背臥位と比べ立位において有意に低下した。立ち上がり潜時は,背臥位の安静時が26.6±1.1ms,運動課題中が26.0±1.3ms,立位の安静時が26.6±1.1ms,運動課題中が26.0±1.3msであり,有意差を認めなかった。握力は,背臥位が32.9±8.3kg,立位が33.0±8.3kgであり,有意差を認めなかった。筋電図積分値相対値は,右浅指屈筋が背臥位で0.71±0.27,立位で0.71±0.25,右母指球筋が背臥位で0.62±0.28,立位で0.59±0.31であり,有意差を認めなかった。
【考察】F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来し,脊髄運動ニューロンプールの興奮性の指標として利用されている。本結果より,背臥位に比べ立位では短母指外転筋に対応する脊髄神経機能の興奮性は増加するものの,握り動作による対側脊髄神経機能への促通効果は背臥位に比べ立位で減弱することが示唆された。背臥位に比べ立位では,大脳皮質,脳幹レベルでの興奮性の増加に伴い上肢脊髄神経機能の興奮性は増加すると報告されており,本研究においても同様の機序を考えた。また,一側上肢の運動中に対側上肢脊髄神経機能の興奮性が増加する要因としては,上肢の随意運動に伴う固有感覚入力や上位中枢からの促通効果が報告されている。握力および筋電図積分値相対値に差がないことから,促通効果の減弱には姿勢変化に伴う調節機構が関与したと推測した。立位ではH反射が減弱することからシナプス前抑制が増強すると報告されている。本研究においても立位では脊髄レベルで固有感覚入力が抑制され,対側上肢脊髄神経機能への促通効果が減弱したと考えた。
【理学療法研究としての意義】理学療法を行う際に一側上肢の随意運動が対側の上肢脊髄神経機能へ及ぼす影響を把握することは重要である。本研究より,一側上肢の随意運動による対側上肢脊髄神経機能への促通効果は,姿勢の変化に伴う調節機構の影響を受けることが示唆された。