[P2-B-0511] 運動観察に用いる動画の差異が運動学習に及ぼす影響について
キーワード:運動学習, 運動観察, 箸操作
【はじめに,目的】
運動観察を用いた学習は,目的とする運動の動画を観察することによって,運動スキルの向上を図る有効な学習方法して注目されている。この運動観察学習は,Rizzolattiら(1988,2001)によって報告されたキャノニカルニューロンやミラーニューロンといった神経基盤が関与していると考えられ,運動そのものやその運動に使用される道具を観察することによって,脳内のミラーニューロンシステム等が活動し,運動を脳内でシミュレーションすることで,運動スキルの向上に貢献していると考えられる。Erteltら(2007,2012)は,脳血管障害患者に対象に介入を行い,上肢機能の向上などの運動観察学習の有効性を報告している。しかし,運動学習を行う際には,対象者に応じた難易度の設定や情報量の決定が重要である。つまり,より効果的な運動観察学習を行うためには,観察する動画を検討する必要性があると考えられる。そこで今回,若年健常成人を対象に,3種類の運動観察動画を用いて,非利き手の箸操作学習に及ぼす影響を明らかにすることが本研究の目的である。
【方法】
対象者は,エジンバラ利き手バッテリーにて70%以上右利きであった若年健常成人47名である。初期評価では,非利き手である左手での箸操作を行う前に,箸操作課題を理解してもらう目的と,利き手の箸操作を観察するために右手で一度行った。この時,利き手での箸操作が拙劣であった5名を除外した42名に対して箸操作能力評価を行った。箸操作能力評価は,非利き手を使用し,発泡スチロール製の約1cmの立方体20個を,20cm離れた皿から皿へ移動する課題とし,課題遂行時間を測定した。観察運動に用いた動画の種類は,左手での箸の把持の仕方および操作方法のポイントを動作を交え説明している動画,左手での箸操作課題遂行中の動画,その両方の動画の3種類である。対象者を3種類の運動観察介入群とコントロール群に無作為に分け,介入群には,初期評価1週間後に各動画を観察させた後,箸操作能力評価を行った。一方,コントロール群には,箸操作能力評価のみを行った。さらに,介入1週間後に全群に対して箸操作能力評価のみ行った。なお,この3回の測定のすべてに参加できなかった,また評価実施が困難であった対象者を除いた結果,31名が最終的な対象者となった。統計処理方法は,二元配置分散分析および多重解析を用いて行い,有意水準は5%未満を有意とした。
【結果】
運動観察介入3群とコントロール群を含めた4群間の間には,初期評価,介入直後,介入1週間後のすべての時期において,有意差を認めなかった。しかし,両方の動画を観察した介入群において,初期評価と介入1週間後との間に有意差を認め,課題遂行時間が有意に短縮した。
【考察】
本結果より,運動観察に用いる動画の差異では,著明な差が認めなかった。しかし,箸の把持の仕方および操作方法のポイントと左手での箸操作課題遂行中の動画を観察した対象者において,介入1週間後では課題遂行時間が短縮し,運動スキルの向上を認めた。これらのことより,1回の運動観察介入では,観察する動画での差異によって,介入直後および介入1週間後での運動学習に大きな影響を与えないことが示唆された。また,箸の把持の仕方および操作方法のポイントのみや箸操作課題遂行中のみの動画より,その両方を観察することが運動学習に効果的な方法ではないかと示唆される。また,介入直後ではなく,介入1週間後で向上した要因として,介入直後に行った箸操作能力評価自体が箸操作練習となり,フィードバック誤差学習を可能にし,運動学習に好影響を及ぼしたのではないかと考えられる。しかし,本研究は1回の運動観察介入であるため,今後も研究を継続することで,適切な介入頻度に関する検討や更なる動画の内容や差異の検討を行う予定である。最後に,この運動観察学習は,身体的な疲労や転倒などのリスクが少なく,どのような場所においても実施可能なことから,多くの施設で導入が可能な治療ツールになると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
近年,運動観察に関する臨床効果の検討が行われ,有効性があるとの報告がされているが,どのような動画を観察することが運動学習に効果的なのかについては,明らかにされているとはいえない。本研究は,運動観察学習を導入するにあたり,使用する運動観察動画の差異にて運動学習効果に与える影響が異なる可能性を示唆している。より効果的な運動観察学習の方法を模索する新たな視点になると考えられる。
運動観察を用いた学習は,目的とする運動の動画を観察することによって,運動スキルの向上を図る有効な学習方法して注目されている。この運動観察学習は,Rizzolattiら(1988,2001)によって報告されたキャノニカルニューロンやミラーニューロンといった神経基盤が関与していると考えられ,運動そのものやその運動に使用される道具を観察することによって,脳内のミラーニューロンシステム等が活動し,運動を脳内でシミュレーションすることで,運動スキルの向上に貢献していると考えられる。Erteltら(2007,2012)は,脳血管障害患者に対象に介入を行い,上肢機能の向上などの運動観察学習の有効性を報告している。しかし,運動学習を行う際には,対象者に応じた難易度の設定や情報量の決定が重要である。つまり,より効果的な運動観察学習を行うためには,観察する動画を検討する必要性があると考えられる。そこで今回,若年健常成人を対象に,3種類の運動観察動画を用いて,非利き手の箸操作学習に及ぼす影響を明らかにすることが本研究の目的である。
【方法】
対象者は,エジンバラ利き手バッテリーにて70%以上右利きであった若年健常成人47名である。初期評価では,非利き手である左手での箸操作を行う前に,箸操作課題を理解してもらう目的と,利き手の箸操作を観察するために右手で一度行った。この時,利き手での箸操作が拙劣であった5名を除外した42名に対して箸操作能力評価を行った。箸操作能力評価は,非利き手を使用し,発泡スチロール製の約1cmの立方体20個を,20cm離れた皿から皿へ移動する課題とし,課題遂行時間を測定した。観察運動に用いた動画の種類は,左手での箸の把持の仕方および操作方法のポイントを動作を交え説明している動画,左手での箸操作課題遂行中の動画,その両方の動画の3種類である。対象者を3種類の運動観察介入群とコントロール群に無作為に分け,介入群には,初期評価1週間後に各動画を観察させた後,箸操作能力評価を行った。一方,コントロール群には,箸操作能力評価のみを行った。さらに,介入1週間後に全群に対して箸操作能力評価のみ行った。なお,この3回の測定のすべてに参加できなかった,また評価実施が困難であった対象者を除いた結果,31名が最終的な対象者となった。統計処理方法は,二元配置分散分析および多重解析を用いて行い,有意水準は5%未満を有意とした。
【結果】
運動観察介入3群とコントロール群を含めた4群間の間には,初期評価,介入直後,介入1週間後のすべての時期において,有意差を認めなかった。しかし,両方の動画を観察した介入群において,初期評価と介入1週間後との間に有意差を認め,課題遂行時間が有意に短縮した。
【考察】
本結果より,運動観察に用いる動画の差異では,著明な差が認めなかった。しかし,箸の把持の仕方および操作方法のポイントと左手での箸操作課題遂行中の動画を観察した対象者において,介入1週間後では課題遂行時間が短縮し,運動スキルの向上を認めた。これらのことより,1回の運動観察介入では,観察する動画での差異によって,介入直後および介入1週間後での運動学習に大きな影響を与えないことが示唆された。また,箸の把持の仕方および操作方法のポイントのみや箸操作課題遂行中のみの動画より,その両方を観察することが運動学習に効果的な方法ではないかと示唆される。また,介入直後ではなく,介入1週間後で向上した要因として,介入直後に行った箸操作能力評価自体が箸操作練習となり,フィードバック誤差学習を可能にし,運動学習に好影響を及ぼしたのではないかと考えられる。しかし,本研究は1回の運動観察介入であるため,今後も研究を継続することで,適切な介入頻度に関する検討や更なる動画の内容や差異の検討を行う予定である。最後に,この運動観察学習は,身体的な疲労や転倒などのリスクが少なく,どのような場所においても実施可能なことから,多くの施設で導入が可能な治療ツールになると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
近年,運動観察に関する臨床効果の検討が行われ,有効性があるとの報告がされているが,どのような動画を観察することが運動学習に効果的なのかについては,明らかにされているとはいえない。本研究は,運動観察学習を導入するにあたり,使用する運動観察動画の差異にて運動学習効果に与える影響が異なる可能性を示唆している。より効果的な運動観察学習の方法を模索する新たな視点になると考えられる。