第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習5

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0514] 動作課題がスマートフォン操作の正確性に与える影響

多治比淳, 吉田光希, 玉造翔悟, 小林聖美 (つくば国際大学)

キーワード:二重課題, スマートフォン, 注意

【はじめに,目的】
二重課題歩行については,高齢者を対象として転倒との関連性を検討しているものや,加齢の影響を検討したものが報告されている。二重課題歩行において,トレイ上の物を運ぶ運動課題,言語想起や減算の認知課題と歩行の関係性は報告されているが,携帯電話・スマートフォンを使用した二重課題と歩行の関係性の報告は少ない。近年日本では,携帯電話,スマートフォン・タブレットが高い普及率を示している。また,歩き又は自転車に乗りながらスマホを操作する「ながらスマホ」による交通事故件数も年々増加傾向にある。したがって,姿勢保持や歩行課題とスマートフォン操作を同時に行う二重課題条件において,動作課題がスマートフォン操作の正確性へ及ぼす影響を明らかにすること,また二重課題遂行中の歩行速度の変化が注意需要に与える影響を明らかにすることを研究目的とした。
【方法】
対象者は健常若年成人19名(21.1±0.6歳 男性14名 女性5名)であった。ただし,スマートフォンの使用経験のない者と神経・筋疾患の既往のある者は除外した。被験者には立位・座位・快適速度歩行中・最速歩行速度歩行中にスマートフォンにて文字入力課題を行ってもらった。入力課題はスマートフォンの上部に課題を貼付し,その課題を複写してもらうこととした。スマートフォンは被験者が日常で使用しているものとし,入力方法については,被験者が日常で行っている方法とした。入力後,検者が入力結果を確認し,誤入力を除外した文字数を入力文字数とした。歩行中の文字入力条件は26mの通路上での歩行中に測定を行った。歩行開始後3mと終了前3mは助走路として測定は行わず,助走路を除いた20mを測定対象区間とした。被験者には助走路では入力課題は見ないように指示し,測定対象区間に足部が接地した時点で文字入力開始を,測定対象区間の終了時に文字入力の中止を指示した。測定対象区間の歩行所要時間をストップウォッチにて測定した。実施順番は測定前にランダムに順番が記載されたクジを引き,記載してある順番に実施した。歩行所要時間から歩行速度を算出した。入力文字数はすべての条件において10秒当たりの入力文字数を算出した。また座位での文字入力に対する他の条件での文字入力数の変化率を算出した。統計処理にはspss ver.19を使用し,条件による変化をみるため,条件を要因とした反復測定一元配置の分散分析を行った。主効果がみとめられた場合,多重比較検定を行った。歩行速度の違いを検討するため,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
入力文字数は座位では16.2±6.0文字,立位では15.2±5.5文字,快適歩行中では15.2±4.8文字,最速歩行中では13.7±4.6文字であり,条件による有意差は認められなかった。座位での文字入力に対する他の条件での文字入力数の変化率は立位で3.3±44.9%,快適歩行中で8.3±58.5%,最速歩行中で-8.3±43.0%であり,条件によって有意差は認められなかった。歩行速度については,快適歩行速度は1.2±0.2m/s,最速歩行速度は1.7±0.3m/sであり,有意差が認められた。
【考察】
本研究においては,条件を変更しても文字入力数に有意差が認められず,座位での文字入力数に対する変化率においても有意差が認められなかったことから,姿勢保持や歩行への注意需要は健常若年成人では低いことが示唆された。また,歩行速度については文字入力中でも快適歩行と最速歩行で有意差が認められたことから,注意を必要とせずに,歩行速度を調整できていること,その際に文字入力の正確性には変化がないことが示唆された。今回の結果から,現状で問題となっている「ながらスマホ」中の事故の発生は,スマートフォン中の歩行について,健常若年成人では注意を向ける必要性が低く,注意をスマートフォンに集中させていることが一要因ではないかと考えられる。しかしながら,実際の場面では他の歩行者を回避することなど他の課題も含まれること,被験者によって文字入力を行う際の歩行調整に差があることも考えられるため,更に被験者を増やして検討する必要もあると考えている。
【理学療法学研究としての意義】
今回は健常若年者成人での検討であったが,他の年代での検討を行うことで,二重課題時の歩行への注意需要の変化を明らかにすることが出来ると考えている。日常生活の中で行われる二重課題条件下での歩行への注意需要の変化が明らかになることで,転倒の発生要因の解明や,転倒予防のための方略の考案に寄与できると考えている。