第50回日本理学療法学術大会

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生体評価学1

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0521] 股関節屈曲運動と体幹運動時の大腰筋筋張力の比較

―せん断波エラストグラフィーを用いた検討―

近藤勇太1, 建内宏重2, 坪山直生2, 市橋則明2 (1.京都大学医学部人間健康科学科理学療法学専攻, 2.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)

キーワード:大腰筋, 超音波, 股関節

【はじめに,目的】
大腰筋は股関節及び腰椎の運動や安定化に働く筋であり,アスリートや股関節・腰椎の疾患をもつ患者においてその機能改善は重要である。臨床においては,大腰筋は座位での股関節屈曲など股関節の運動でトレーニングを行うことが多いが,大腰筋は腰椎の運動でも活動するため,股関節に障害を有し,股関節運動が困難な患者において,体幹運動を利用することで大腰筋の機能改善を図れる可能性がある。しかし,大腰筋は身体の深部に位置し,針筋電図など侵襲的な方法による調査が必要であるため報告が少なく,股関節運動と体幹運動とでそれぞれどの程度の筋張力発揮があるか明確ではない。
そこで本研究では,筋の弾性率と筋張力が比例するという先行研究に基づき,非侵襲的に生体組織の弾性率を測定できるせん断波エラストグラフィー機能を用いて,大腰筋の弾性率を測定することで,股関節屈曲時と体幹運動時での大腰筋の筋張力の比較を行い,体幹運動で大腰筋がどの程度活動するのかを明らかにすることを目的とした。

【方法】
対象は下肢・腰部に整形外科的疾患を有さない健常男性19名(年齢22.1±1.5歳)とし,右側の大腰筋を測定した。課題は座位での股関節屈曲の等尺性収縮運動と座位保持とした。座位姿勢は足底に厚さ1cmの板を敷いた状態で股関節屈曲角度が45°になるよう座面の高さを設定し,下腿と体幹は床面に対し鉛直となるようにした。骨盤の側方傾斜・後傾を防ぐため,バンドを用いて骨盤を固定した。上肢は腕を胸の前で組んだ姿勢とした。測定前に最大股屈曲筋力を2回測り,その平均値を最大筋力とした。測定課題は,股屈曲運動として,上記の座位で板を外し,足底を床からわずかに離した状態(股屈曲45°位)での保持(股屈曲)と,その肢位で股屈曲最大筋力の10%の負荷での等尺性収縮運動(10%屈曲)を行った。なお,我々の先行研究により,最大筋力の10%負荷までは筋張力と弾性率との線形関係が確認されている。加えて,針筋電図で活動が確認されている体幹の前屈,後屈,側屈の体幹運動を測定した。体幹運動は,座位で腋窩下にバンドを巻き,後・前・左の3方向から,測定者が被験者の体重の10%の負荷をかけ引き,それに対して座位を保持させた。測定は,股屈曲運動と体幹運動の計5種類(全て股屈曲45°位)とした。負荷量については,力センサ(Kistler社製)を股関節屈曲時には膝蓋骨近位5cm,体幹運動時には腋窩下で接続し,リアルタイムで可視化し確認しながら測定を行った。大腰筋の弾性率(kPa)の測定には,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製Aixplorer)のせん断波エラストグラフィー機能を用いた。測定部位は鼠径靭帯の遠位部とし,超音波画像が安定してから記録した。疲労を考慮して,各課題の測定順は無作為とし,各3回ずつ測定を行った。超音波画像での弾性率の測定は,大腰筋内に関心領域を2か所設定し,各領域の弾性率の平均値を求め,さらに3試行を平均した数値を解析に用いた。各条件間の比較を対応のあるt検定およびShaffer法による補正を用いて行った。有意水準は5%とした。

【結果】
大腰筋の弾性率は,股屈曲で13.7±2.5kPa,10%屈曲で15.0±3.3kPaとなり,前屈で15.6±3.4kPa,後屈で14.7±3.1kPa,側屈で16.5±3.7kPaとなった。解析の結果,股屈曲に対して10%屈曲(p=0.03),側屈(p=0.04)で有意に高値となった。しかし,体幹運動の条件間および10%屈曲と体幹運動の間では有意差を認めなかった。

【考察】
本研究の結果,股屈曲角度45°位において,体重の10%の負荷に対して右側屈方向に力を発揮して座位を保持する運動が,負荷を加えない股屈曲運動よりも大腰筋の筋張力を増加させ,またそれは最大筋力の10%の負荷での股屈曲運動と同程度であることが判明した。本研究結果は,股関節での運動が困難な患者で大腰筋の筋張力を得たい場合や,大腰筋以外の股屈筋をできるだけ働かせずに大腰筋の選択的なトレーニングを行うために体幹運動を実施する場合などに,有用な知見であると思われる。

【理学療法学研究としての意義】
本研究は,股関節屈曲と体幹運動時の大腰筋の筋張力の比較を非侵襲的方法により行った初めての報告であり,大腰筋の評価・トレーニングにおいて重要な知見を提供するとともに,臨床応用への可能性を示唆するものである。