[P2-B-0524] 脳卒中患者における全身振動刺激(whole body vibration)実施時の筋活動の特徴
キーワード:全身振動刺激(whole body vibration), 筋電図, 脳卒中患者
【はじめに,目的】
近年,全身振動刺激(Whole Body Vibration;WBV)を用いた運動介入が,さまざまな分野において効果的であるとの報告があり注目されている。脳卒中患者への効果についても報告があるが,長期間の介入効果として筋力の向上や歩行能力の向上,また即時効果として筋緊張の抑制に効果的であると示唆されている。一方で介入効果は低いとの報告もあり,一定したエビデンスは十分得られていないのが現状である。我々はこれまでに健常人を対象とした筋電図学的な研究について報告(第49回)してきたが,今回は脳卒中患者へのWBVの効果を検証するために,実施中の筋電図学的特徴について調査することを目的とした。
【方法】
対象は脳卒中患者5名(年齢58.4±8.8歳,男性)とした。対象の内訳としては,下肢Br.stage4~6(4:2名,5:2名,6:1名),歩行自立度はFIM移動点数が5点:1名,6点1名,7点:2名,深部感覚はすべての対象者で正常レベルであった。運動負荷には,全身振動刺激装置G-Flexを用いて実施した。実施姿勢は,足部を20cm開脚,膝関節軽度屈曲位(約40°)を維持したスクワット肢位とし,出来る限り両足部への荷重が均等となるように配慮した。運動負荷プロトコルは,WBV実施時間1分(30Hz)とした。筋電図測定は,両下肢の内側広筋,大腿二頭筋,前頚骨筋,腓腹筋内側を被験筋とした。使用機器は表面筋電計バイオモニターME6000(MEGA社製)を用いて,電極はブルーセンサー(Ag/AgCl)を使用した。筋電図測定の設定として,サンプリング周波数は1000Hzとした。得られた値については,生データの特徴を把握し,その上でアーチファクトと思われる周波数を確認後,ノッチフィルタおよび10-400Hzのバンドパスフィルタを実施した。その上で1分のデータを10秒毎に6分割しそれぞれのセクションで積分値と高速フーリエ変換を実施し,筋活動量と周波数特性について調査した。筋電図の解析にはMegaWin(MEGA社製)を使用した。
【結果】
WBV実施中の筋電図学的分析として,積分値では全体的に開始10秒で高値を示しその後30秒にかけて低下する傾向があり,また,非麻痺側において前脛骨筋以外は後半の30~60秒にかけて値が上昇する傾向がみられた。加えて,麻痺側において内側広筋以外は全体的に筋活動が低く徐々に低下傾向がみられた。周波数解析では,前頚骨筋において麻痺側・非麻痺側とも高周波成分(80Hz以上)が多く,また内側広筋では45~80Hzの周波数成分を有する特徴を示した。腓腹筋では,開始10秒で高周波数成分がみられ,その後低下する傾向を示した。
【考察】
脳卒中患者を対象としたWBV実施時の筋活動の特徴としては,これまで十分な報告はないため,本研究ではパイロットスタディとして筋電図学的特徴を調査した。筋活動では,麻痺側の内側広筋以外で非麻痺側より筋活動が低い傾向を示したが,これは麻痺の程度に影響や廃用性筋萎縮によるものと推察された。加えて,スクワット肢位保持において出来る限り両下肢均等荷重を配慮したが非麻痺側下肢優位の姿勢となっていること,また麻痺側下肢筋は持続的な筋収縮が容易ではないことが考えられた。これは特に,麻痺側内側広筋以外の筋活動において,時間とともに低下傾向を示していることからも推察される。周波数特性からみれば,麻痺側・非麻痺側下肢筋において全体的に低周波数成分(45Hz以下)での活動が少ないことからも,全身振動刺激による運動中は速筋線維が優位に活動していることが示唆された。ただし,個人レベルで特異的な反応をしている印象もあり,今後さらに対象者数を増やして対象者の特性(麻痺の程度や下肢荷重量など)をより詳細に検証する必要がある。加えて,WBVの即時効果の検証として,誘発筋電図やパフォーマンスへの影響などの検討も重要といえる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者を対象としたWBV実施時の筋電図学的特性を提示できたこと,またWBVが筋機能向上,特に速筋線維への高頻度刺激による瞬発系能力向上へ有効である可能が示唆されたことは臨床上意義があると考えられる。
近年,全身振動刺激(Whole Body Vibration;WBV)を用いた運動介入が,さまざまな分野において効果的であるとの報告があり注目されている。脳卒中患者への効果についても報告があるが,長期間の介入効果として筋力の向上や歩行能力の向上,また即時効果として筋緊張の抑制に効果的であると示唆されている。一方で介入効果は低いとの報告もあり,一定したエビデンスは十分得られていないのが現状である。我々はこれまでに健常人を対象とした筋電図学的な研究について報告(第49回)してきたが,今回は脳卒中患者へのWBVの効果を検証するために,実施中の筋電図学的特徴について調査することを目的とした。
【方法】
対象は脳卒中患者5名(年齢58.4±8.8歳,男性)とした。対象の内訳としては,下肢Br.stage4~6(4:2名,5:2名,6:1名),歩行自立度はFIM移動点数が5点:1名,6点1名,7点:2名,深部感覚はすべての対象者で正常レベルであった。運動負荷には,全身振動刺激装置G-Flexを用いて実施した。実施姿勢は,足部を20cm開脚,膝関節軽度屈曲位(約40°)を維持したスクワット肢位とし,出来る限り両足部への荷重が均等となるように配慮した。運動負荷プロトコルは,WBV実施時間1分(30Hz)とした。筋電図測定は,両下肢の内側広筋,大腿二頭筋,前頚骨筋,腓腹筋内側を被験筋とした。使用機器は表面筋電計バイオモニターME6000(MEGA社製)を用いて,電極はブルーセンサー(Ag/AgCl)を使用した。筋電図測定の設定として,サンプリング周波数は1000Hzとした。得られた値については,生データの特徴を把握し,その上でアーチファクトと思われる周波数を確認後,ノッチフィルタおよび10-400Hzのバンドパスフィルタを実施した。その上で1分のデータを10秒毎に6分割しそれぞれのセクションで積分値と高速フーリエ変換を実施し,筋活動量と周波数特性について調査した。筋電図の解析にはMegaWin(MEGA社製)を使用した。
【結果】
WBV実施中の筋電図学的分析として,積分値では全体的に開始10秒で高値を示しその後30秒にかけて低下する傾向があり,また,非麻痺側において前脛骨筋以外は後半の30~60秒にかけて値が上昇する傾向がみられた。加えて,麻痺側において内側広筋以外は全体的に筋活動が低く徐々に低下傾向がみられた。周波数解析では,前頚骨筋において麻痺側・非麻痺側とも高周波成分(80Hz以上)が多く,また内側広筋では45~80Hzの周波数成分を有する特徴を示した。腓腹筋では,開始10秒で高周波数成分がみられ,その後低下する傾向を示した。
【考察】
脳卒中患者を対象としたWBV実施時の筋活動の特徴としては,これまで十分な報告はないため,本研究ではパイロットスタディとして筋電図学的特徴を調査した。筋活動では,麻痺側の内側広筋以外で非麻痺側より筋活動が低い傾向を示したが,これは麻痺の程度に影響や廃用性筋萎縮によるものと推察された。加えて,スクワット肢位保持において出来る限り両下肢均等荷重を配慮したが非麻痺側下肢優位の姿勢となっていること,また麻痺側下肢筋は持続的な筋収縮が容易ではないことが考えられた。これは特に,麻痺側内側広筋以外の筋活動において,時間とともに低下傾向を示していることからも推察される。周波数特性からみれば,麻痺側・非麻痺側下肢筋において全体的に低周波数成分(45Hz以下)での活動が少ないことからも,全身振動刺激による運動中は速筋線維が優位に活動していることが示唆された。ただし,個人レベルで特異的な反応をしている印象もあり,今後さらに対象者数を増やして対象者の特性(麻痺の程度や下肢荷重量など)をより詳細に検証する必要がある。加えて,WBVの即時効果の検証として,誘発筋電図やパフォーマンスへの影響などの検討も重要といえる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者を対象としたWBV実施時の筋電図学的特性を提示できたこと,またWBVが筋機能向上,特に速筋線維への高頻度刺激による瞬発系能力向上へ有効である可能が示唆されたことは臨床上意義があると考えられる。