第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

生体評価学3

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0537] 歩行時における股関節疾患患者の下肢力学的エネルギーの流れの定量的解析

加藤浩1, 阿南雅也2, 森口晃一1, 羽田清貴1, 嶋村剛史1, 岡澤和哉1 (1.九州看護福祉大学大学院看護福祉学研究科健康支援科学専攻, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院)

Keywords:体節間浸透力パワー, 力学的エネルギー, 歩行

【目的】
変形性股関節疾患患者(OA患者)の跛行に関する研究として,運動力学的視点から,股関節に作用する内部関節モーメントの特性について検討した研究は多い。しかし,股関節への力学的負担の増大の原因が,隣接関節からどのような力学的エネルギーの流れ込みの結果,生じているのか十分解明されていない。そこで本研究の目的は,OA患者の歩行時の下肢体節間の力学的エネルギーの流れをについて詳細に定量化する方法を構築することである。
【対象】
対象は健常成人(健常者)1名(女性,年齢:39歳,身長:168.0 cm,体重:53 kg)及び,両側OA患者1名(女性,年齢:49歳,身長:157.0 cm,体重:59 kg)。日整会点数は,疼痛20点,可動域(屈曲:11点,外転:4点),歩行能力15点,日常生活動作18点であった。病期分類は両側進行期レベルであった。
【方法】
計測はカメラ10台を用いた三次元動作解析装置Vicon MX-T40S(Vicon-Peak社製)と6枚の床反力計(AMTI社製)を用いた。直径9mmの反射マーカーを使用し身体33カ所に貼付した。得られたマーカ座標から7剛体リンクモデルを作成し,各セグメント間の連結部を関節中心点と定義した。次に関節モーメント及び体節間浸透力を算出し,歩行周期が100%となるよう正規化した。解析側は右下肢とし,床反力垂直成分が増大する荷重応答期(歩行周期0%~12%)における関節モーメント,関節パワー,そして体節間浸透力の積分値を算出した。力学的エネルギーは上記の体節間浸透力によるエネルギー変化(体節間浸透力パワー)と関節モーメントによるエネルギー変化(関節パワー)と定義した。
【結果】
1.内部関節モーメント(Nms/kg):健常者の股関節モーメントは,伸展(0.465),外転(0.685),内旋(0.016)であった。膝関節モーメントは,伸展(0.104),外反(0.747),外旋(0.019)であった。足関節(足部)モーメントは,背屈(0.106),外転(0.388),回外(0.040)であった。OA患者の股関節モーメントは,伸展(0.243),外転(0.359),外旋(0.012)であった。膝関節モーメントは,伸展(0.172),外反(0.429),外旋(0.031)であった。足関節(足部)モーメントは,底屈(0.017),外転(0.138),回外(0.003)であった。
2.関節パワー(w/kg):健常者の関節パワーは,股関節(-0.154),膝関節(-0.252),足関節(-0.008)であった。OA患者の関節パワーは,股関節(-0.470),膝関節(-0.055),足関節(-0.066)であった。
3.体節間浸透力パワー(w/kg):健常者の体節間浸透力パワーは,骨盤遠位(0.135),大腿近位(0.007),大腿遠位(0.662),下腿近位(-0.473),下腿遠位(0.199),足部近位(-0.117)であった。OA患者の体節間浸透力パワーは,骨盤遠位(0.169),大腿近位(-0.291),大腿遠位(0.759),下腿近位(-0.580),下腿遠位(-0.019),足部近位(0.054)であった。
【考察】
股関節パワーは,OA患者が負のパワー,健常者が正のパワーを示した。そのためOA患者では股関節伸展モーメントを発揮している筋は遠心性収縮(骨盤前傾運動)であることが分かる。さらにこの時の体節間浸透力パワーをみるとOA患者の場合,骨盤遠位は正のパワー,大腿近位は負のパワーであることから,大腿から骨盤への力学的エネルギーの流れが生じたと考えられる。これに対して健常者の場合,大腿近位の体節間浸透力パワーは,極めて低値を示しており,大腿部からの力学的エネルギーの流れは殆ど生じていないと考えられる。つまり,本OA患者の場合,骨盤前傾運動により大腿から骨盤への力学的エネルギーの流れを得ることで股関節伸展モーメントを作り出していることが示唆された。同様に膝関節においては,健常者,OA患者共に下腿から大腿への力学的エネルギーの流れが生じていることが示された。足関節においては,健常者の場合,足部から下腿への力学的エネルギーの流れが認められたのに対し,OA患者では逆の流れが認められた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,各体節間での力学的エネルギーの流れを明確化することが可能であり,臨床において有用な評価手段になり得ると考える。
本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C課題番号25350655)の採択を受けて実施した。