[P2-B-0549] 人工膝関節置換術後例の歩行遊脚期における膝関節最大屈曲角度に影響を与える要因
―前遊脚期の膝関節屈曲角度に着目して―
キーワード:人工膝関節置換術, 歩行, 屈曲
【目的】
人工膝関節置換術は安定した術後成績が得られることから,大部分の症例が術後早期に自立歩行が可能となる。しかしながら自立歩行を獲得しても歩行遊脚期に膝関節屈曲角度が低下した歩行パターン(Stiff knee gait:SKG)を呈する症例を経験する。SKGに関しては片麻痺例・脳性麻痺例を対象とした報告が多く散見されるが,人工膝関節置換術後例ではその背景が異なる。我々は第49回日本理学療法学術大会において,人工膝関節置換術後例の1歩行周期中の膝関節運動範囲は狭小化しており,運動範囲には遊脚期における膝関節最大屈曲角度が関連することを報告した。遊脚期における膝関節屈曲運動は足尖と床面との距離を確保する上で重要であり,遊脚期での膝関節屈曲角度低下には前遊脚期(Pre swing:Psw)での膝関節屈曲角度の不足が影響すると示唆されてはいるが,それを実証した研究はない。そこで本研究では,人工膝関節術後例を対象にPswにおける膝関節屈曲角度に着目して,歩行遊脚期における膝関節最大屈曲角度に影響を与える因子を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は退院時に杖歩行が独立して可能な人工膝関節置換術後40例とした。歩行時の膝関節角度測定には大転子,膝関節裂隙,外果をマーキングした後にデジタルカメラを使用して動画撮影し,3歩行周期を記録した。動画データはMotion Analysis Toolsを使用して膝関節角度を測定し,1歩行周期から膝関節最大屈曲角度,Pswにおける屈曲角度を抽出して3歩行周期における平均値を代表値とした。膝関節可動域はゴニオメーターを使用して膝関節屈曲・伸展可動域を測定した。下肢筋力の測定には膝伸展筋力をHand Held Dynamometerを使用し,3回の測定における最大値を代表値とした。膝関節機能評価には日本語版WOMACを使用して術前と退院時に評価を実施し,また疼痛項目を抽出し疼痛評価とした。性別,年齢,体重,身長,BMI,術前・術中可動域,使用機種といった基本的情報はカルテより抽出した。統計学的解析では,はじめに単変量解析を使用して歩行時の術側膝関節最大屈曲角度と調査・測定項目との関連性を検討した。その後に従属変数を術側膝関節最大屈曲角度,単変量解析で術側膝関節最大屈曲角度と有意な関連を認めた項目を独立変数として階層的重回帰分析を行った。階層的重回帰分析に当たっては交絡因子として術後膝関節屈曲可動域を強制投入した後,単変量解析で術側膝関節最大屈曲角度と有意な関連を認めた項目を独立変数としてStepwise法を使用し,交絡因子(術後膝関節屈曲可動域)から独立して従属変数に寄与する項目を抽出した。独立変数の選択に当たっては事前に相関行列表を作成し,独立変数間に高い(r>0.8)相関関係が無いことを確認した。またVIF値を算出し多重共線性に配慮した。統計学的解析にはSPSSver21.0を使用し有意水準は5%未満とした。
【結果】
単変量解析で膝関節最大屈曲角度と有意な関連を認めた項目は,術後膝関節屈曲可動域(ρ=0.36),Psw膝関節屈曲角度(ρ=0.48),術前WOMAC(ρ=-0.38)であった。階層的重回帰分析の結果,術側の膝関節最大屈曲角度に影響を与える要因として,第1にPsw膝関節屈曲角度,第2に術後膝関節屈曲可動域が抽出された。標準偏回帰係数はPsw膝関節屈曲角度で0.517,術後膝関節屈曲可動域で0.361であった。調整済み決定係数R2は0.373で有意であり,VIF値は1.000であった。
【考察】
人工膝関節置換術後例の歩行遊脚期における膝関節最大屈曲角度には,術後の膝関節屈曲可動域とは独立してPswにおける膝関節屈曲角度が重要であることが明らかとなった。Pswにおいては,立脚終期の踵離地から前足部に位置する床反力ベクトルが膝関節後方を通過することで受動的に膝関節屈曲運動を生じる。人工膝関節置換術後例では距骨下関節が回内し,内側縦アーチの低下した症例を経験する。距骨下関節回内は立脚終期における足関節剛性を低下させ,踵離地が遅延するため床反力ベクトルが膝関節後方へ移行できず,Pswにおいて膝関節屈曲運動を生じないことが考えられる。Pswは遊脚期への移行期であり,Pswにおける膝関節屈曲運動の遅延は,その後の遊脚期における膝関節最大屈曲角度の低下を生じると考える。そのため人工膝関節置換術後例におけるSKG改善には膝関節屈曲可動域獲得のみならず,Pswにおける膝関節屈曲運動の学習が重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はSKG改善を目的とした運動療法を展開する上での一助になると考えられ,非常に意義深い理学療法研究であると考える。
人工膝関節置換術は安定した術後成績が得られることから,大部分の症例が術後早期に自立歩行が可能となる。しかしながら自立歩行を獲得しても歩行遊脚期に膝関節屈曲角度が低下した歩行パターン(Stiff knee gait:SKG)を呈する症例を経験する。SKGに関しては片麻痺例・脳性麻痺例を対象とした報告が多く散見されるが,人工膝関節置換術後例ではその背景が異なる。我々は第49回日本理学療法学術大会において,人工膝関節置換術後例の1歩行周期中の膝関節運動範囲は狭小化しており,運動範囲には遊脚期における膝関節最大屈曲角度が関連することを報告した。遊脚期における膝関節屈曲運動は足尖と床面との距離を確保する上で重要であり,遊脚期での膝関節屈曲角度低下には前遊脚期(Pre swing:Psw)での膝関節屈曲角度の不足が影響すると示唆されてはいるが,それを実証した研究はない。そこで本研究では,人工膝関節術後例を対象にPswにおける膝関節屈曲角度に着目して,歩行遊脚期における膝関節最大屈曲角度に影響を与える因子を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は退院時に杖歩行が独立して可能な人工膝関節置換術後40例とした。歩行時の膝関節角度測定には大転子,膝関節裂隙,外果をマーキングした後にデジタルカメラを使用して動画撮影し,3歩行周期を記録した。動画データはMotion Analysis Toolsを使用して膝関節角度を測定し,1歩行周期から膝関節最大屈曲角度,Pswにおける屈曲角度を抽出して3歩行周期における平均値を代表値とした。膝関節可動域はゴニオメーターを使用して膝関節屈曲・伸展可動域を測定した。下肢筋力の測定には膝伸展筋力をHand Held Dynamometerを使用し,3回の測定における最大値を代表値とした。膝関節機能評価には日本語版WOMACを使用して術前と退院時に評価を実施し,また疼痛項目を抽出し疼痛評価とした。性別,年齢,体重,身長,BMI,術前・術中可動域,使用機種といった基本的情報はカルテより抽出した。統計学的解析では,はじめに単変量解析を使用して歩行時の術側膝関節最大屈曲角度と調査・測定項目との関連性を検討した。その後に従属変数を術側膝関節最大屈曲角度,単変量解析で術側膝関節最大屈曲角度と有意な関連を認めた項目を独立変数として階層的重回帰分析を行った。階層的重回帰分析に当たっては交絡因子として術後膝関節屈曲可動域を強制投入した後,単変量解析で術側膝関節最大屈曲角度と有意な関連を認めた項目を独立変数としてStepwise法を使用し,交絡因子(術後膝関節屈曲可動域)から独立して従属変数に寄与する項目を抽出した。独立変数の選択に当たっては事前に相関行列表を作成し,独立変数間に高い(r>0.8)相関関係が無いことを確認した。またVIF値を算出し多重共線性に配慮した。統計学的解析にはSPSSver21.0を使用し有意水準は5%未満とした。
【結果】
単変量解析で膝関節最大屈曲角度と有意な関連を認めた項目は,術後膝関節屈曲可動域(ρ=0.36),Psw膝関節屈曲角度(ρ=0.48),術前WOMAC(ρ=-0.38)であった。階層的重回帰分析の結果,術側の膝関節最大屈曲角度に影響を与える要因として,第1にPsw膝関節屈曲角度,第2に術後膝関節屈曲可動域が抽出された。標準偏回帰係数はPsw膝関節屈曲角度で0.517,術後膝関節屈曲可動域で0.361であった。調整済み決定係数R2は0.373で有意であり,VIF値は1.000であった。
【考察】
人工膝関節置換術後例の歩行遊脚期における膝関節最大屈曲角度には,術後の膝関節屈曲可動域とは独立してPswにおける膝関節屈曲角度が重要であることが明らかとなった。Pswにおいては,立脚終期の踵離地から前足部に位置する床反力ベクトルが膝関節後方を通過することで受動的に膝関節屈曲運動を生じる。人工膝関節置換術後例では距骨下関節が回内し,内側縦アーチの低下した症例を経験する。距骨下関節回内は立脚終期における足関節剛性を低下させ,踵離地が遅延するため床反力ベクトルが膝関節後方へ移行できず,Pswにおいて膝関節屈曲運動を生じないことが考えられる。Pswは遊脚期への移行期であり,Pswにおける膝関節屈曲運動の遅延は,その後の遊脚期における膝関節最大屈曲角度の低下を生じると考える。そのため人工膝関節置換術後例におけるSKG改善には膝関節屈曲可動域獲得のみならず,Pswにおける膝関節屈曲運動の学習が重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はSKG改善を目的とした運動療法を展開する上での一助になると考えられ,非常に意義深い理学療法研究であると考える。