[P2-B-0555] 非術側下肢の人工膝関節全置換術施行歴の有無が術前の運動機能及び術後在院日数に及ぼす影響について
Keywords:人工膝関節全置換術, 在院日数, 膝屈曲ROM
【はじめに,目的】
2014年の総務省の発表では65歳以上の高齢者人口は3,296万人,総人口に占める割合は25.9%と共に過去最高で,8人に1人は75歳以上といわれている。我が国において,要支援・要介護となった原因疾患の23%が骨・関節疾患であり,変形性膝関節症(以下,膝OA)の有病者数は2,500万人以上,有症者数で800万人以上と推計されており,社会問題化している。それに伴い人工膝関節全置換術(以下,TKA)の件数は年々増加傾向で,2012年には75,600件であり,医療費削減のために術後在院日数(以下,在院日数)の短縮は急務である。平均寿命の延長・膝OA患者の増加・TKA件数増加に伴い,片側TKAを実施し,その後対側膝もTKAを施行する症例が増加している。初回片側TKAと,片側TKA後に対側TKAを施行する症例では,術後の支持脚が生体膝と人工関節とで異なるが,術後の支持脚の違いが在院日数に及ぼす影響についての報告はなく不明である。我々は,術後の支持脚が膝OAである症例(以下,支持脚OA)に対し,支持脚がTKAを施行している症例(以下,支持脚TKA)は,術後早期に術側下肢への負担が軽減し,早期離床が可能となり,在院日数の短縮が図れるのではないかと考えた。本研究の目的は,非術側下肢のTKA施行歴の有無が術前の運動機能及び術後の在院日数に及ぼす影響について検討することである。
【方法】
対象は多施設研究の参加施設において,両膝OAと診断された支持脚OA群92例(平均年齢75.4±7.2歳)と,支持脚TKA群38例(平均年齢76.9±8.0歳)とした。測定項目は年齢,BMI,TUG最大速度(以下,TUG最大),5m最大歩行速度,非術側膝関節屈曲・伸展可動域(以下,非術側膝屈曲・伸展ROM),術側膝関節屈曲・伸展可動域(以下,術側膝屈曲・伸展ROM),非術側膝関節屈曲・伸展筋力(以下,非術側膝屈曲・伸展筋力),術側膝関節屈曲・伸展筋力(以下,術側膝屈曲・伸展筋力),在院日数とした。統計処理はBMI・非術側膝伸展筋力については対応のないt検定を,その他の変数についてはMann-Whitney検定を用い,2群間比較を行った。統計解析はSPSSを使用し有意水準は5%未満とした。
【結果】
支持脚OA群と支持脚TKA群において,非術側膝屈曲ROM(p<0.05),非術側膝屈曲筋力(p<0.05),在院日数(p<0.05)に有意差を認めた。非術側膝屈曲ROMは支持脚OA群で130°(90~157°),支持脚TKA群で120°(90~150°),非術側膝屈曲筋力は支持脚OA群で0.36Nm/kg(0.08~0.89 Nm/kg),支持脚TKA群で0.30 Nm/kg(0.08~0.82 Nm/kg),在院日数は支持脚OA群で26日(16~62日),支持脚TKA群で32日(18~80日)であった。
【考察】
我々の仮説に反し,支持脚TKA群の非術側膝屈曲ROM・筋力が不良であり,在院日数が延長していた。両群における術前の生活様式を考えると,支持脚OA群は両側とも生体膝であり,床上での生活を行っていることが多く,特に本邦では膝関節を深屈曲させる生活様式であるため,膝屈曲ROMを維持できる環境にある。一方,支持脚TKA群は片側が人工関節となり膝への負担軽減のため,和式から洋式生活への変更を推奨することが多く,日常生活で膝関節を深屈曲させる機会が減少する。このような術前の生活様式の違いにより,支持脚TKA群の非術側膝屈曲ROMが低値となったと考える。非術側膝屈曲筋力に関しては,膝OAではハムストリングスの筋萎縮や筋力低下が少ないと報告されており,支持脚OA群の膝屈曲筋力は比較的維持できていたと考える。一方,TKA後の膝屈曲筋力は退院後に有意な改善を認めなかったと報告されており,支持脚TKA群の膝屈曲筋力はTKA後に十分な改善が得られなかった可能性がある。結果として支持脚TKA群の非術側膝屈曲筋力が支持脚OA群と比較し低値となったと考える。さらに,白井らは支持脚OA群と支持脚TKA群との間で術後の歩行能力(平行棒歩行・T字杖歩行・階段昇降)の獲得時期について検討しており,平行棒・T字杖歩行は支持脚TKA群が遅延傾向であり,階段昇降は支持脚TKA群が有意に遅延すると報告している。歩行能力の低下は在院日数を長期化させることから,本研究においても支持脚TKA群が支持脚OA群に比べ,非術側膝屈曲ROM・筋力が不良であり,また歩行能力の獲得時期が遅延する可能性があるため,結果として在院日数が延長したと考える。
【理学療法学研究としての意義】
非術側下肢のTKA施行歴の有無が,術前の非術側膝屈曲ROM・筋力及び,在院日数に影響を与えることが明らかとなった。片側TKA施行後に対側膝に対してTKAを施行する場合において,術前より非術側膝屈曲ROM・筋力を向上させることにより,術後の在院日数を短縮させる可能性があると考える。
2014年の総務省の発表では65歳以上の高齢者人口は3,296万人,総人口に占める割合は25.9%と共に過去最高で,8人に1人は75歳以上といわれている。我が国において,要支援・要介護となった原因疾患の23%が骨・関節疾患であり,変形性膝関節症(以下,膝OA)の有病者数は2,500万人以上,有症者数で800万人以上と推計されており,社会問題化している。それに伴い人工膝関節全置換術(以下,TKA)の件数は年々増加傾向で,2012年には75,600件であり,医療費削減のために術後在院日数(以下,在院日数)の短縮は急務である。平均寿命の延長・膝OA患者の増加・TKA件数増加に伴い,片側TKAを実施し,その後対側膝もTKAを施行する症例が増加している。初回片側TKAと,片側TKA後に対側TKAを施行する症例では,術後の支持脚が生体膝と人工関節とで異なるが,術後の支持脚の違いが在院日数に及ぼす影響についての報告はなく不明である。我々は,術後の支持脚が膝OAである症例(以下,支持脚OA)に対し,支持脚がTKAを施行している症例(以下,支持脚TKA)は,術後早期に術側下肢への負担が軽減し,早期離床が可能となり,在院日数の短縮が図れるのではないかと考えた。本研究の目的は,非術側下肢のTKA施行歴の有無が術前の運動機能及び術後の在院日数に及ぼす影響について検討することである。
【方法】
対象は多施設研究の参加施設において,両膝OAと診断された支持脚OA群92例(平均年齢75.4±7.2歳)と,支持脚TKA群38例(平均年齢76.9±8.0歳)とした。測定項目は年齢,BMI,TUG最大速度(以下,TUG最大),5m最大歩行速度,非術側膝関節屈曲・伸展可動域(以下,非術側膝屈曲・伸展ROM),術側膝関節屈曲・伸展可動域(以下,術側膝屈曲・伸展ROM),非術側膝関節屈曲・伸展筋力(以下,非術側膝屈曲・伸展筋力),術側膝関節屈曲・伸展筋力(以下,術側膝屈曲・伸展筋力),在院日数とした。統計処理はBMI・非術側膝伸展筋力については対応のないt検定を,その他の変数についてはMann-Whitney検定を用い,2群間比較を行った。統計解析はSPSSを使用し有意水準は5%未満とした。
【結果】
支持脚OA群と支持脚TKA群において,非術側膝屈曲ROM(p<0.05),非術側膝屈曲筋力(p<0.05),在院日数(p<0.05)に有意差を認めた。非術側膝屈曲ROMは支持脚OA群で130°(90~157°),支持脚TKA群で120°(90~150°),非術側膝屈曲筋力は支持脚OA群で0.36Nm/kg(0.08~0.89 Nm/kg),支持脚TKA群で0.30 Nm/kg(0.08~0.82 Nm/kg),在院日数は支持脚OA群で26日(16~62日),支持脚TKA群で32日(18~80日)であった。
【考察】
我々の仮説に反し,支持脚TKA群の非術側膝屈曲ROM・筋力が不良であり,在院日数が延長していた。両群における術前の生活様式を考えると,支持脚OA群は両側とも生体膝であり,床上での生活を行っていることが多く,特に本邦では膝関節を深屈曲させる生活様式であるため,膝屈曲ROMを維持できる環境にある。一方,支持脚TKA群は片側が人工関節となり膝への負担軽減のため,和式から洋式生活への変更を推奨することが多く,日常生活で膝関節を深屈曲させる機会が減少する。このような術前の生活様式の違いにより,支持脚TKA群の非術側膝屈曲ROMが低値となったと考える。非術側膝屈曲筋力に関しては,膝OAではハムストリングスの筋萎縮や筋力低下が少ないと報告されており,支持脚OA群の膝屈曲筋力は比較的維持できていたと考える。一方,TKA後の膝屈曲筋力は退院後に有意な改善を認めなかったと報告されており,支持脚TKA群の膝屈曲筋力はTKA後に十分な改善が得られなかった可能性がある。結果として支持脚TKA群の非術側膝屈曲筋力が支持脚OA群と比較し低値となったと考える。さらに,白井らは支持脚OA群と支持脚TKA群との間で術後の歩行能力(平行棒歩行・T字杖歩行・階段昇降)の獲得時期について検討しており,平行棒・T字杖歩行は支持脚TKA群が遅延傾向であり,階段昇降は支持脚TKA群が有意に遅延すると報告している。歩行能力の低下は在院日数を長期化させることから,本研究においても支持脚TKA群が支持脚OA群に比べ,非術側膝屈曲ROM・筋力が不良であり,また歩行能力の獲得時期が遅延する可能性があるため,結果として在院日数が延長したと考える。
【理学療法学研究としての意義】
非術側下肢のTKA施行歴の有無が,術前の非術側膝屈曲ROM・筋力及び,在院日数に影響を与えることが明らかとなった。片側TKA施行後に対側膝に対してTKAを施行する場合において,術前より非術側膝屈曲ROM・筋力を向上させることにより,術後の在院日数を短縮させる可能性があると考える。