[P2-B-0561] 変形性膝関節症に罹患して人工膝関節置換術を受けた患者の術後の運動介入が身体機能および活動に及ぼす影響
―ランダム化比較試験に対するシステマティックレビューおよびメタアナリシス―
Keywords:人工膝関節置換術, 身体機能, メタアナリシス
【はじめに,目的】
人工膝関節置換術(TKA)は,変形性膝関節症(膝OA)患者の治療方法の一つである。過去のシステマティクレビューによると術後の運動介入には歩行能力などに対する有意な効果が認められておらず,一方,膝関節可動域(膝関節ROM)には有意な効果が報告されている(Minns Loweら,2006)。しかし,Minns Loweらは,退院後の運動介入に限定して報告しているため,入院中に開始された運動介入の効果は不明である。もし,運動介入の効果が入院中にも確認できれば,運動介入の工夫による改善は術後の時期を問わず期待できるという科学的根拠が得られる。そこで,本研究の目的は,膝OAに罹患してTKAを受けた患者の術後の運動介入が身体機能や活動に及ぼす影響を開始時期別に検証することとした。
【方法】
文献検索は,2014年6月までの臨床研究論文をPubMed,PEDro,CINAHL,CENTRALの電子データベースを使用し,検索に加えて論文を網羅的に収集するためにハンドサーチを行った。組み入れ基準を以下に示す;(1)研究デザインがランダム化比較試験(RCT)である,(2)対象者は膝OAによりTKAを施行している,(3)介入手段が運動である,(4)アウトカムに身体機能または活動が含まれている,(5)言語が英語である。同じアウトカムを測定していた論文が複数あり,かつ数値データを入手できた論文をメタアナリシスの対象とした。データはRevMan5を用いて統合され,異質性の判定指標にはI2を使用し,効果量として標準化平均値差(SMD)を算出した。
【結果】
検索の結果,29編の論文を抽出した。そのうち,メタアナリシスに必要な統計量の記載があった論文は13編であった。13編が扱っていた運動介入は,早期運動介入(3編),術後入院中に開始された運動介入(入院中の運動介入)(2編),および退院後に開始された運動介入(退院後の運動介入)(8編)に大別された。各時期の介入と,効果が検討されていたアウトカムの組み合わせは以下の通りであった:早期運動介入-疼痛;入院中の運動介入-疼痛,Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)身体機能,WOMACこわばり,自動膝関節伸展屈曲ROM;退院後の運動介入-疼痛(3編),WOMAC身体機能(2編),WOMACこわばり(2編),膝関節伸展筋力(4編),膝関節屈曲筋力(2編),自動膝関節伸展ROM(2編),自動膝関節屈曲ROM(5編),Timed Up and Go test(TUG)(2編),および歩行スピード(2編)。統合の結果,有意な効果を認めたアウトカムは,疼痛[SMD:-0.41,95%信頼区間:-0.70~-0.12,I2:0%],WOMAC身体機能[-0.40,-0.74~-0.07,0%],WOMACこわばり[-0.42,-0.75~-0.08,2%],膝関節伸展筋力[0.30,0.07~0.54,0%],膝関節屈曲筋力[0.42,0.11~0.73,0%],自動膝関節屈曲ROM[0.22,0.03~0.42,0%],TUG[-0.66,-1.13~-0.18,57%]であった。これら有意な効果が認められたアウトカムは,全て退院後の運動介入によるものであった。なお,疼痛については,対象論文が4編あったが,異質性や統合効果量が非常に大きくなっていた[-1.57,-3.37~0.22,98%]。その原因として,効果量が突出していた1編(Monticoneら,2013)の論文の影響が考えられため,その論文は統合の対象から除外された。その他のアウトカムは,有意な効果が認められなかった。
【考察】
本研究の結果から,疼痛,筋力やWOMACなどといった身体機能および活動のアウトカムは,退院後の運動介入を工夫することで改善できるが,早期運動介入や入院中の運動介入による同様の改善は示されなかった。退院後の運動介入がもたらす疼痛への効果は,効果量が大きくなる原因と考えられた1編を除外してデータが統合された。しかし,除外されたMonticoneらも,退院後に開始する運動介入によって疼痛が改善されたことを報告している。これは,本研究の結果と矛盾せず,退院後の運動介入による疼痛の改善を支持しているといえる。本研究の強みは,膝OAに罹患しTKAが実施された患者の身体機能および活動をこれまで検討されていない介入時期も含めて3つに大別しメタアナリシスによって検証できた点と退院後の運動介入のエビデンスをアップデートできた点である。運動介入の頻度や負荷など内容が同じ論文のみのデータを統合したわけではないため,概念的異質性を完全には排除できていない点が,本研究の限界として挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
膝OAに罹患してTKAを受けた患者の身体機能および活動は,運動介入を工夫することでより改善できるが,それは退院後に限られるという科学的根拠を示した。
人工膝関節置換術(TKA)は,変形性膝関節症(膝OA)患者の治療方法の一つである。過去のシステマティクレビューによると術後の運動介入には歩行能力などに対する有意な効果が認められておらず,一方,膝関節可動域(膝関節ROM)には有意な効果が報告されている(Minns Loweら,2006)。しかし,Minns Loweらは,退院後の運動介入に限定して報告しているため,入院中に開始された運動介入の効果は不明である。もし,運動介入の効果が入院中にも確認できれば,運動介入の工夫による改善は術後の時期を問わず期待できるという科学的根拠が得られる。そこで,本研究の目的は,膝OAに罹患してTKAを受けた患者の術後の運動介入が身体機能や活動に及ぼす影響を開始時期別に検証することとした。
【方法】
文献検索は,2014年6月までの臨床研究論文をPubMed,PEDro,CINAHL,CENTRALの電子データベースを使用し,検索に加えて論文を網羅的に収集するためにハンドサーチを行った。組み入れ基準を以下に示す;(1)研究デザインがランダム化比較試験(RCT)である,(2)対象者は膝OAによりTKAを施行している,(3)介入手段が運動である,(4)アウトカムに身体機能または活動が含まれている,(5)言語が英語である。同じアウトカムを測定していた論文が複数あり,かつ数値データを入手できた論文をメタアナリシスの対象とした。データはRevMan5を用いて統合され,異質性の判定指標にはI2を使用し,効果量として標準化平均値差(SMD)を算出した。
【結果】
検索の結果,29編の論文を抽出した。そのうち,メタアナリシスに必要な統計量の記載があった論文は13編であった。13編が扱っていた運動介入は,早期運動介入(3編),術後入院中に開始された運動介入(入院中の運動介入)(2編),および退院後に開始された運動介入(退院後の運動介入)(8編)に大別された。各時期の介入と,効果が検討されていたアウトカムの組み合わせは以下の通りであった:早期運動介入-疼痛;入院中の運動介入-疼痛,Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)身体機能,WOMACこわばり,自動膝関節伸展屈曲ROM;退院後の運動介入-疼痛(3編),WOMAC身体機能(2編),WOMACこわばり(2編),膝関節伸展筋力(4編),膝関節屈曲筋力(2編),自動膝関節伸展ROM(2編),自動膝関節屈曲ROM(5編),Timed Up and Go test(TUG)(2編),および歩行スピード(2編)。統合の結果,有意な効果を認めたアウトカムは,疼痛[SMD:-0.41,95%信頼区間:-0.70~-0.12,I2:0%],WOMAC身体機能[-0.40,-0.74~-0.07,0%],WOMACこわばり[-0.42,-0.75~-0.08,2%],膝関節伸展筋力[0.30,0.07~0.54,0%],膝関節屈曲筋力[0.42,0.11~0.73,0%],自動膝関節屈曲ROM[0.22,0.03~0.42,0%],TUG[-0.66,-1.13~-0.18,57%]であった。これら有意な効果が認められたアウトカムは,全て退院後の運動介入によるものであった。なお,疼痛については,対象論文が4編あったが,異質性や統合効果量が非常に大きくなっていた[-1.57,-3.37~0.22,98%]。その原因として,効果量が突出していた1編(Monticoneら,2013)の論文の影響が考えられため,その論文は統合の対象から除外された。その他のアウトカムは,有意な効果が認められなかった。
【考察】
本研究の結果から,疼痛,筋力やWOMACなどといった身体機能および活動のアウトカムは,退院後の運動介入を工夫することで改善できるが,早期運動介入や入院中の運動介入による同様の改善は示されなかった。退院後の運動介入がもたらす疼痛への効果は,効果量が大きくなる原因と考えられた1編を除外してデータが統合された。しかし,除外されたMonticoneらも,退院後に開始する運動介入によって疼痛が改善されたことを報告している。これは,本研究の結果と矛盾せず,退院後の運動介入による疼痛の改善を支持しているといえる。本研究の強みは,膝OAに罹患しTKAが実施された患者の身体機能および活動をこれまで検討されていない介入時期も含めて3つに大別しメタアナリシスによって検証できた点と退院後の運動介入のエビデンスをアップデートできた点である。運動介入の頻度や負荷など内容が同じ論文のみのデータを統合したわけではないため,概念的異質性を完全には排除できていない点が,本研究の限界として挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
膝OAに罹患してTKAを受けた患者の身体機能および活動は,運動介入を工夫することでより改善できるが,それは退院後に限られるという科学的根拠を示した。