[P2-B-0576] 当院での人工膝関節全置換術施行患者の自己効力感の傾向
キーワード:自己効力感, 人工膝関節全置換術, 疼痛
【はじめに,目的】
当院では人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty以下TKA)施行患者に対し,術後2週間(以下2w)プロトコールを設定し術後の理学療法を行っている。しかしながら,患者によっては自宅退院が術後2週間以上かかるケースもあり,月々のプロトコール達成率変動があるのが現状である。プロトコール達成のためには身体機能以外に患者自身のリハビリへの意欲,自主参加などのモチベーションが影響している。そういった精神機能を評価する指標として,自己効力感が用いられている。そこで今回,自己効力感に着目し,当院でTKAを施行した患者の自己効力感と身体機能の関係を明らかにすることを目的とし,以下の調査を行った。
【方法】
当院で変形性膝関節症と診断され,TKAを片側,両側施行された患者31名(男性8名,女性23名 平均年齢71.6±7.3歳,片側21名,両側10名)を対象とした。併存疾患として精神疾患,認知症,心疾患などの循環器疾患がある者,その他,医学的に介入が困難と判断された者は除外した。測定項目は,1)自己効力感(self-efficacy for rehabilitation outcome scale:以下,SER),2)Timed Up and Go test(以下,TUG),3)疼痛(安静時・荷重時・歩行時,Visual Analog Scale:以下,VAS),4)術側膝筋力(屈曲・伸展),5)術側膝可動域(屈曲・伸展)とし,術後1週間,術後2週間に計測した。術後2wで退院した患者をプロトコール達成群(以下,達成群)とし,術後2w以上かかった患者をプロトコール逸脱群(以下,逸脱群)として2群間のデータの比較,また片側TKA群と両側TKA群の2群に分けてのデータの比較を行った。統計学的分析は達成群と逸脱群の2群間,片側TKA群と両側TKA群の2群間の各測定項目比較には,Mann-Whitney U検定を使用した。各項目の変化量の差異をWilcoxonの符号付順位和検定を用いて求め,各測定項目の相関関係はSpearmanの相関を用いて統計処理を行った。総計ソフトはJSTAT for Windowsを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
術後2wプロトコール達成率は77%(24/31名,片側18名,両側6名),逸脱率は23%(7/31名,片側3名,両側4名)であった。プロトコール達成群と逸脱群のSER,TUGに有意差はなく,その他の項目との間には相関関係は認められなかった。また片側TKA群と両側TKA群の比較では,術後1wから2wにかけてのSER変化量に有意な差(p=0.02)があり,片側TKA群のほうが有意に向上していた。さらに片側TKA群を対象にしたSER変化量と歩行時痛の変化量の間には有意な相関関係が認められた(r=0.60,p=0.01)。
【考察】
今回,当院においてプロトコール達成群と逸脱群,片側群と両側群の比較ではSERと身体機能の相関関係は認められなかった。先行文献においては,SERとTUGとの関係性が示されているが,先行文献では対象者に人工膝関節単顆置換術施行者も多く含まれていたという点で,本研究との結果の違いがみられたと考えられる。しかしながら,術側別でみると片側TKA群では術後1wから2wにかけてのSER値の向上が認められ,SERがプロトコール達成に貢献している可能性が考えられた。また,片側TKA群のSERと歩行時痛の変化量に相関関係が認められた。自己効力感を高める要因として,遂行行動の達成,代理的経験,言語的説得,生理的・情動的状態が挙げられ,疼痛は組織損傷に結びつく不快な感覚・情動であり,生理的・情動的にSERを低下させる1つの要因になっていると考えられる。そのため,術後の疼痛管理が重要となってくる。加えて当院では,TKA術後患者を対象に集団リハを行っており,この取り組みが,遂行行動の達成,代理的経験につながりSERが向上したと考えられた。
両側TKA群では1wから2wにかけてのSER値に有意な変化はみられなかった。しかし,両側TKA群は術後1w時点でのSER値は,片側TKA群より高く,術後2w時点でもその高さは維持できていたことから両側TKA群は入院前から高いモチベーションを持っている傾向にあることが明らかになった。
今後はSERがプロトコール達成にどのように貢献しているかを調査し,SERをより向上させる要因を分析することで,それに応じた取り組み,対策の立案が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
プロトコールを達成するためには身体機能だけでなく精神機能も含めた包括的なアプローチが必要と考えられる。SERという評価指標を用いることで患者のリハビリ意欲を客観的に評価することができた。本研究の結果はリハビリ意欲を促す対策立案の一助となったと思われる。
当院では人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty以下TKA)施行患者に対し,術後2週間(以下2w)プロトコールを設定し術後の理学療法を行っている。しかしながら,患者によっては自宅退院が術後2週間以上かかるケースもあり,月々のプロトコール達成率変動があるのが現状である。プロトコール達成のためには身体機能以外に患者自身のリハビリへの意欲,自主参加などのモチベーションが影響している。そういった精神機能を評価する指標として,自己効力感が用いられている。そこで今回,自己効力感に着目し,当院でTKAを施行した患者の自己効力感と身体機能の関係を明らかにすることを目的とし,以下の調査を行った。
【方法】
当院で変形性膝関節症と診断され,TKAを片側,両側施行された患者31名(男性8名,女性23名 平均年齢71.6±7.3歳,片側21名,両側10名)を対象とした。併存疾患として精神疾患,認知症,心疾患などの循環器疾患がある者,その他,医学的に介入が困難と判断された者は除外した。測定項目は,1)自己効力感(self-efficacy for rehabilitation outcome scale:以下,SER),2)Timed Up and Go test(以下,TUG),3)疼痛(安静時・荷重時・歩行時,Visual Analog Scale:以下,VAS),4)術側膝筋力(屈曲・伸展),5)術側膝可動域(屈曲・伸展)とし,術後1週間,術後2週間に計測した。術後2wで退院した患者をプロトコール達成群(以下,達成群)とし,術後2w以上かかった患者をプロトコール逸脱群(以下,逸脱群)として2群間のデータの比較,また片側TKA群と両側TKA群の2群に分けてのデータの比較を行った。統計学的分析は達成群と逸脱群の2群間,片側TKA群と両側TKA群の2群間の各測定項目比較には,Mann-Whitney U検定を使用した。各項目の変化量の差異をWilcoxonの符号付順位和検定を用いて求め,各測定項目の相関関係はSpearmanの相関を用いて統計処理を行った。総計ソフトはJSTAT for Windowsを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
術後2wプロトコール達成率は77%(24/31名,片側18名,両側6名),逸脱率は23%(7/31名,片側3名,両側4名)であった。プロトコール達成群と逸脱群のSER,TUGに有意差はなく,その他の項目との間には相関関係は認められなかった。また片側TKA群と両側TKA群の比較では,術後1wから2wにかけてのSER変化量に有意な差(p=0.02)があり,片側TKA群のほうが有意に向上していた。さらに片側TKA群を対象にしたSER変化量と歩行時痛の変化量の間には有意な相関関係が認められた(r=0.60,p=0.01)。
【考察】
今回,当院においてプロトコール達成群と逸脱群,片側群と両側群の比較ではSERと身体機能の相関関係は認められなかった。先行文献においては,SERとTUGとの関係性が示されているが,先行文献では対象者に人工膝関節単顆置換術施行者も多く含まれていたという点で,本研究との結果の違いがみられたと考えられる。しかしながら,術側別でみると片側TKA群では術後1wから2wにかけてのSER値の向上が認められ,SERがプロトコール達成に貢献している可能性が考えられた。また,片側TKA群のSERと歩行時痛の変化量に相関関係が認められた。自己効力感を高める要因として,遂行行動の達成,代理的経験,言語的説得,生理的・情動的状態が挙げられ,疼痛は組織損傷に結びつく不快な感覚・情動であり,生理的・情動的にSERを低下させる1つの要因になっていると考えられる。そのため,術後の疼痛管理が重要となってくる。加えて当院では,TKA術後患者を対象に集団リハを行っており,この取り組みが,遂行行動の達成,代理的経験につながりSERが向上したと考えられた。
両側TKA群では1wから2wにかけてのSER値に有意な変化はみられなかった。しかし,両側TKA群は術後1w時点でのSER値は,片側TKA群より高く,術後2w時点でもその高さは維持できていたことから両側TKA群は入院前から高いモチベーションを持っている傾向にあることが明らかになった。
今後はSERがプロトコール達成にどのように貢献しているかを調査し,SERをより向上させる要因を分析することで,それに応じた取り組み,対策の立案が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
プロトコールを達成するためには身体機能だけでなく精神機能も含めた包括的なアプローチが必要と考えられる。SERという評価指標を用いることで患者のリハビリ意欲を客観的に評価することができた。本研究の結果はリハビリ意欲を促す対策立案の一助となったと思われる。