[P2-B-0579] TKA後の歩行およびバランス能力に影響を与える術前機能的因子の検討
キーワード:人工膝関節全置換術, 予測因子, 下肢機能
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下膝OA)は高齢者において多い骨関節疾患であり,重篤な膝OA患者に対しては疼痛除去と機能改善を目的とした人工膝関節全置換術(以下TKA)が施行される。
TKA後早期では歩行やバランス能力が健常者と比較して有意に低下することがこれまで報告されている。TKA後の歩行やバランス能力を早期に向上させるために,術前の関節可動域(以下ROM),筋力および疼痛などの機能的因子とTKA後の歩行やバランス能力の関連性を明らかにすることは術前からの理学療法をおこなう上で有益な情報となり得る。MiznerらはTKA後のバランス能力には術前のROMや筋力が影響すると報告しているが,TKA後の歩行およびバランス能力に関連する術前の機能的因子について多因子から検討した報告はみられない。
本研究の目的は,TKA後の歩行およびバランス能力と術前機能的因子の関連性について検討することである。
【方法】
対象は,TKAを予定している膝OA患者48例(女性44例・男性4例,平均年齢67.8±7.6歳,平均身長151.5±6.4cm,平均体重61.2±8.1kg)とした。除外基準として,反対側膝OA以外の整形疾患,平衡機能障害および歩行に影響のある疾患の既往,BMI40以上の者とした。
測定は,TKAの術前と術後4週で実施した。術前機能的因子は術側および非術側の両側測定し,ROMは膝関節他動伸展および屈曲をゴニオメーターで測定した。筋力はBiodexを用いて測定し,角速度180°/secでの膝伸展および屈曲筋力について体重で除した値を使用した。疼痛は歩行時の膝関節の疼痛をVisual Analog Scaleを用いて測定した。術後4週において,歩行能力の評価として10m歩行試験を実施した。10mの歩行路をできるだけ速く歩行し,所要時間を計測して歩行速度を算出した。また,バランス能力の評価として,片脚立位時間は下肢を挙上させた保持時間について計測した。Functional reach test(以下,FRT)は立位にて一側上肢を前方へ移動させた距離を計測した。Timed up and go test(以下TUG)は椅座位から立ち上がり3m先の目印で方向転換し,再び着席するまでの時間を計測した。Berg balance scale(以下BBS)は各項目0~4点から成り,14項目の合計を得点化した。
統計学的分析として,術前機能的因子と術後4週の歩行およびバランス能力の関連性の検討についてSpearmanの順位相関係数を,また術前の機能的因子から術後4週の歩行とバランス能力を予測するためにStepwise法による重回帰分析をおこなった。有意水準は5%とした。
【結果】
術後4週の歩行速度およびバランス指標と術前の機能的因子との関連性について,歩行速度は術側および非術側の膝伸展筋力(各r=0.39,0.35),術側および非術側の膝屈曲筋力(各r=0.35,0.42)と有意な相関を認めた(p<0.05)。また,片脚立位時間は術側の膝伸展および屈曲筋力(各r=0.50,0.49),FRTは術側の膝伸展および非術側の屈曲筋力(各r=0.31,0.35),TUGは術側の膝伸展および術側と非術側の屈曲筋力(各r=-0.45,-0.46,-0.40)と有意な相関を認めた(p<0.05)。
重回帰分析において,術後4週の歩行速度および片脚立位時間,TUGの予測には術側膝伸展筋力が,FRTについては非術側の膝屈曲筋力と術側屈曲ROMが投入され有意な回帰式が得られた。BBSを予測する有意な術前の機能的因子は抽出されなかった。
【考察】
本研究結果から,TKA後4週の歩行やバランス能力が術前のROMや疼痛よりも膝伸展および屈曲筋力と関連し,また,予測因子としても膝筋力が有用である可能性を示した。HolmらはTKA後の歩行速度は術前の膝筋力と関連すると報告しており,本研究結果はTKA後のバランス能力も含めて,これまでの報告を支持する結果となった。TKA後の歩行およびバランス能力をより向上させるためには,術後だけではなく筋力の改善を考慮した術前の理学療法が重要である可能性が推察された。
また,歩行能力に関して,術側だけではなく,非術側の筋力の関与も示された。TKAでは,手術による大腿四頭筋の侵襲の影響で膝伸展筋力の低下は避けられない。TKA後4週では術側機能の代償として非術側の筋力が重要である可能性も示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA患者に対する理学療法の目的に歩行やバランス能力を向上させることが挙げられる。どのような術前の機能的因子が術後の歩行およびバランス能力に関連するかは理学療法をおこなう上で必要なことである。本研究で検討したパラメータは機能的因子としては限られた項目であり,さらに細分化して検討をすることが必要である。
変形性膝関節症(以下膝OA)は高齢者において多い骨関節疾患であり,重篤な膝OA患者に対しては疼痛除去と機能改善を目的とした人工膝関節全置換術(以下TKA)が施行される。
TKA後早期では歩行やバランス能力が健常者と比較して有意に低下することがこれまで報告されている。TKA後の歩行やバランス能力を早期に向上させるために,術前の関節可動域(以下ROM),筋力および疼痛などの機能的因子とTKA後の歩行やバランス能力の関連性を明らかにすることは術前からの理学療法をおこなう上で有益な情報となり得る。MiznerらはTKA後のバランス能力には術前のROMや筋力が影響すると報告しているが,TKA後の歩行およびバランス能力に関連する術前の機能的因子について多因子から検討した報告はみられない。
本研究の目的は,TKA後の歩行およびバランス能力と術前機能的因子の関連性について検討することである。
【方法】
対象は,TKAを予定している膝OA患者48例(女性44例・男性4例,平均年齢67.8±7.6歳,平均身長151.5±6.4cm,平均体重61.2±8.1kg)とした。除外基準として,反対側膝OA以外の整形疾患,平衡機能障害および歩行に影響のある疾患の既往,BMI40以上の者とした。
測定は,TKAの術前と術後4週で実施した。術前機能的因子は術側および非術側の両側測定し,ROMは膝関節他動伸展および屈曲をゴニオメーターで測定した。筋力はBiodexを用いて測定し,角速度180°/secでの膝伸展および屈曲筋力について体重で除した値を使用した。疼痛は歩行時の膝関節の疼痛をVisual Analog Scaleを用いて測定した。術後4週において,歩行能力の評価として10m歩行試験を実施した。10mの歩行路をできるだけ速く歩行し,所要時間を計測して歩行速度を算出した。また,バランス能力の評価として,片脚立位時間は下肢を挙上させた保持時間について計測した。Functional reach test(以下,FRT)は立位にて一側上肢を前方へ移動させた距離を計測した。Timed up and go test(以下TUG)は椅座位から立ち上がり3m先の目印で方向転換し,再び着席するまでの時間を計測した。Berg balance scale(以下BBS)は各項目0~4点から成り,14項目の合計を得点化した。
統計学的分析として,術前機能的因子と術後4週の歩行およびバランス能力の関連性の検討についてSpearmanの順位相関係数を,また術前の機能的因子から術後4週の歩行とバランス能力を予測するためにStepwise法による重回帰分析をおこなった。有意水準は5%とした。
【結果】
術後4週の歩行速度およびバランス指標と術前の機能的因子との関連性について,歩行速度は術側および非術側の膝伸展筋力(各r=0.39,0.35),術側および非術側の膝屈曲筋力(各r=0.35,0.42)と有意な相関を認めた(p<0.05)。また,片脚立位時間は術側の膝伸展および屈曲筋力(各r=0.50,0.49),FRTは術側の膝伸展および非術側の屈曲筋力(各r=0.31,0.35),TUGは術側の膝伸展および術側と非術側の屈曲筋力(各r=-0.45,-0.46,-0.40)と有意な相関を認めた(p<0.05)。
重回帰分析において,術後4週の歩行速度および片脚立位時間,TUGの予測には術側膝伸展筋力が,FRTについては非術側の膝屈曲筋力と術側屈曲ROMが投入され有意な回帰式が得られた。BBSを予測する有意な術前の機能的因子は抽出されなかった。
【考察】
本研究結果から,TKA後4週の歩行やバランス能力が術前のROMや疼痛よりも膝伸展および屈曲筋力と関連し,また,予測因子としても膝筋力が有用である可能性を示した。HolmらはTKA後の歩行速度は術前の膝筋力と関連すると報告しており,本研究結果はTKA後のバランス能力も含めて,これまでの報告を支持する結果となった。TKA後の歩行およびバランス能力をより向上させるためには,術後だけではなく筋力の改善を考慮した術前の理学療法が重要である可能性が推察された。
また,歩行能力に関して,術側だけではなく,非術側の筋力の関与も示された。TKAでは,手術による大腿四頭筋の侵襲の影響で膝伸展筋力の低下は避けられない。TKA後4週では術側機能の代償として非術側の筋力が重要である可能性も示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA患者に対する理学療法の目的に歩行やバランス能力を向上させることが挙げられる。どのような術前の機能的因子が術後の歩行およびバランス能力に関連するかは理学療法をおこなう上で必要なことである。本研究で検討したパラメータは機能的因子としては限られた項目であり,さらに細分化して検討をすることが必要である。