第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

変形性膝関節症5・ACL損傷

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0582] ハムストリング腱を用いた膝前十字靱帯再建術症例における膝関節周囲筋の筋活動量

保科渡1, 山室慎太郎1, 青木幹昌1, 天正恵治2 (1.信州大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.信州大学医学部運動機能学教室)

キーワード:膝前十字靱帯再建術, 筋電図, 筋活動量

【はじめに,目的】
ハムストリング腱を用いた膝前十字靭帯(以下,ACLとする)再建術後の膝関節周囲筋において,筋力が低下している症例をしばしば経験する。ACL再建術後のリハビリテーションにおいて客観的筋力評価は不可欠であることは周知の通りであり,その回復過程に関する報告は散見される。しかし,その報告の多くは筋力値や筋体積を測定するものであり,膝関節周囲筋の筋活動量を客観的に検討したものはわれわれが渉猟した範囲ではなかった。そこで,今回われわれはハムストリング腱を用いたACL再建術症例における膝関節周囲筋の筋活動量について,表面筋電図計を用いて評価し検討したので報告する。
【方法】
対象は当院にてハムストリング腱を用いACL再建術を施行した54例54膝とした。性別は男性24膝・女性30膝,術側は右19膝・左35膝であり,平均年齢29±11.6歳,その他に整形外科的疾患を有さない者とした。筋活動量は,同一検者が酒井医療株式会社製の多用途筋機能評価運動装置BIODEXシステム4を用い,座位にて膝関節の屈曲・伸展の等速性随意収縮(60deg/sec)を5回実施し,同時に表面筋電図計Norexon社製Myosystem1400Aを用いることで測定した。膝関節周囲筋としての被験筋は術側・非術側膝関節伸展筋(内側広筋,外側広筋),術側・非術側膝関節屈曲筋(内側ハムストリング,外側ハムストリング)とし,マニュアルに沿って電極を貼付した。筋電解析ソフトMyoResarch XPを用いて得られた筋電波形を整流平滑化し,5回実施した平均値を筋電図積分値(以下iEMG)として求めた。iEMGを非手術側のiEMGにて正規化し,%iEMGを算出し筋活動量とした。対象を術前・術後3ヵ月・6ヵ月・9ヵ月・12ヵ月と分類し,各時期別に各被験筋の%iEMGの比較検討を行った。統計学的検定はMann-Whitney’s U testを用いて行い,危険率0.05%未満を有意差ありとした。
【結果】
内側広筋において術前と比較し術後3ヵ月では有意に低値を示した(92.2%iEMG vs 44.5%iEMG;P<0.05)。術後3ヵ月と比較し術後6ヵ月では有意に高値を示した(44.5%iEMG vs 111.2%iEMG;P<0.05)。その他の時期との間で有意な差は認めなかった。内側ハムストリングでは術前と比較し術後3ヵ月では有意に低値を示した(97.4%iEMG vs 56.6%iEMG;P<0.05)。術後3ヵ月と比較し術後6ヵ月では有意に高値を示した(56.6%iEMG vs 95.4%iEMG;P<0.05)。その他の時期との間で有意な差を認めなかった。外側広筋,外側ハムストリングにおいては全ての時期との間で有意な差を認めなかった。
【考察】
今回の結果から,ハムストリング腱を用いたACL再建術症例における膝関節周囲筋の筋活動量について,術側の内側広筋,内側ハムストリングは術後3ヵ月で筋活動量が低下していることがわかった。櫻井らの報告によると,ACL再建術後の大腿四頭筋内では,特に内側広筋の委縮が最も大きいとしている。猪俣は筋活動量低下はタイプII型線維の筋萎縮が著しいとし,Miilerは内側広筋にタイプII型線維が多いと報告している。さらに内側広筋に関して賽は膝の最終伸展15°で重要な働きをすると報告しているが,当院でACL再建靱帯保護の観点から術後3ヵ月まで膝伸展-30°までの自動運動範囲としている。以上よりこれらの要因が,術後3ヵ月での内側広筋の筋活動量低下を引き起しているのではないかと推測した。次に術側の内側ハムストリングに関して,諸家の報告によるとハムストリング腱採取後に筋体積の減少が生じるとされ,野村は手術侵襲を受けたハムストリング腱は術後3ヵ月まで,水分含有量の多い脆弱な組織であると報告している。以上のことからハムストリング腱を再建靭帯として用いることが,術後3ヵ月での内側ハムストリングの筋活動量低下を引き起こしたのではないかと推測した。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後の膝関節周囲筋の筋活動量の特徴について客観的に示した。内側広筋に関して術後早期から筋活動量改善を図るための選択的なアプローチが必要であり,内側ハムストリングに関しては,腱採取後の組織の状態に応じたアプローチが必要であることが示唆された。