第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

体幹・肩関節

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0592] 左右広背筋肋骨部線維筋厚と肋椎関節剛性の関係

茂原亜由美1,2, 柿崎藤泰2,3, 西田直弥2,4, 石田行知2,3 (1.IMS(イムス)グループ新葛飾ロイヤルクリニック, 2.文京学院大学大学院保健医療科学研究科, 3.文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科, 4.医療法人社団苑田会苑田第二病院)

Keywords:左右差, 広背筋, 肋椎関節

【はじめに,目的】
我々は健常成人の胸郭形状の分析から定型的な左右差を有することを見出し,胸郭に直接的に関係する左右同筋の機能差について分析している。前回大会では,左右広背筋椎骨部及び肋骨部線維筋厚の比較検討について報告した。広背筋椎骨部線維(以下椎骨部線維)筋厚には有意な左右差がなく,広背筋肋骨部線維(以下肋骨部線維)筋厚は右側が厚いという結果から,胸郭の運動特性との関係性が示唆された。肋骨部線維は下位胸郭に付着しており胸郭形状の偏位にその機能は依存し,左右の同線維において機能差が生じるものと考える。本研究は,肋骨部線維筋厚とその起始部である肋骨の肋椎関節剛性の左右差,及びそれらの関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性11名(年齢24.6±3.2歳,身長170.9±5.6cm,体重66.1±6.6kg)とした。測定機器はデジタル超音波診断装置(日立メディコ社製HI VISION Preirus)を使用した。肋骨部線維筋厚は,腸骨稜上で上前腸骨棘と上後腸骨棘(以下PSIS)の中点から2横指PSIS寄りの部位と腋窩中央部を結ぶ線の外側に超音波プローブを置き,第10肋骨上で測定した。肋椎関節剛性は腹臥位にて,安静呼気時と肋骨をハンドヘルドダイナモメーター(Biometrics Europe BV社製micro FET2;以下HHD)で圧迫した際の肋骨偏位量で比較した。今回は筋厚の測定部位である第10肋骨で測定した。検者は超音波診断装置の操作と肋骨の圧迫,それぞれ熟練した1名とした。肋骨の圧迫方法は,臨床評価として我々が実際に行っている方法を再現した。第11胸椎棘突起から周径の13%の位置と第10肋骨の交点を圧迫位置とした。圧迫強度はHHDを用い30Nとした。圧迫方向は肋骨の前方回旋方向とし,肋骨長軸の垂線より30°外側,前額面に対し30°腹側方向とした。圧迫時の皮膚ずれには十分注意した。プローブは後腋窩線上で肋骨に直行させるように当てた。筋厚,肋骨偏位量ともに左右3回ずつ測定し平均値を算出した。得られた超音波画像は,フリーソフトウェアImageJ(米国国立衛生研究所)を用いて処理,計測を行った。第9肋骨を基準とし,第10肋骨の内側・頭側・合成偏位量を求めた。筋厚の左右比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を行い,肋骨偏位量の左右比較には対応のあるt検定を行った。また筋厚と肋骨偏位量の相関係数を求めた。統計処理はSPSS ver.21.0Jを使用し有意水準は5%とした。
【結果】
肋骨部線維筋厚は右7.5±1.0mm,左6.2±1.1mmで右側が有意に厚かった(p<0.01)。第10肋骨内側偏位量は右1.6±1.0mm,左2.3±1.5mmで有意差はなかったが,左側で大きい傾向となった(p=0.05)。頭側偏位量は右3.5±1.8mm,左6.2±1.8mmで左側が有意に大きかった(p<0.01)。合成偏位量は右4.1±1.4mm,左6.8±1.8mmで左側が有意に大きかった(p<0.01)。肋骨部線維筋厚と第10肋骨偏位量の相関係数は,内側:-0.5(p<0.05),頭側:-0.32(p=0.15),合成:-0.39(p=0.07)で,負の相関関係の傾向が見られた。
【考察】
本研究では呼吸の影響を除くため安静呼気時で統一し,また腹臥位にて脱力した状態で測定を行っている。よって,肋骨を圧迫した際の偏位量は肋椎関節の剛性を表していると考えられる。上肋横突靭帯はその走行より,肋骨の後方回旋に伴い緊張すると考えられる。つまり肋椎関節の剛性が高くなると言える。肋椎関節剛性に左右差が存在するのは,胸郭形状に左右差があるためと考える。柿崎らは,右側の下位胸郭は左側に比べ水平断面積が大きく,肋骨後方回旋位を呈していると報告している。今回我々の研究では,第10肋骨を前方回旋方向に圧迫した際の肋骨偏位量が右側で小さかったことより,肋椎関節剛性が左側に比べ右側で高いことが分かった。これは右側第10肋骨が後方回旋位であることを示唆する。よって先行文献とも一致する結果となった。肋骨部線維付着部は肋骨の外側部であるため,肋椎関節の剛性が高いと起始部である肋骨が安定し,安定した筋収縮が得やすいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
臨床において,胸郭形状や姿勢,筋活動の左右差を有する症例は多い。そして,これら左右差の是正が歩容改善や疼痛軽減につながることを多く経験する。以上より,形態や運動の左右差の把握は,理学療法を展開していく上でより有益な情報になり得ると考える。