第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター2

体幹・肩関節

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0598] なで肩といかり肩の判断基準

木村淳志, 伯川広明, 押領司俊介, 鶴田崇 (医療法人南川整形外科病院リハビリテーション部)

Keywords:なで肩, いかり肩, 境界値

【はじめに,目的】
肩甲骨の位置異常や上方回旋不足は肩甲上腕関節の運動に影響を与え,これらが投球障害肩やインピンジメント症候群などの肩関節疾患を引き起こすとされている。「なで肩」や「いかり肩」もその一因となっていると考え,本研究はこれらの身体的特徴や運動特性を調査するための準備段階として,測定方法や判断基準を検討した。「なで肩」や「いかり肩」は一般的にも使用されている言葉であり,通常「見た目」で評価される。そのため,今回はデジタルカメラで撮影した写真を用いて,「見た目」による判定をもとに境界値を決定できるか検討した。

【方法】
(1)画像作成。被検者は肩に愁訴のない男性20名(平均年齢28.1±5.3歳)とした。上半身裸になってもらい安静立位背面での写真撮影を行った。この20名分の画像をA3サイズの用紙1枚つき1名分をカラー印刷しA3サイズの写真画像を作成した(以下,A3写真)。(2)見た目での判定(順位付け)。当院で肩関節についての研究発表を行っている3名の理学療法士(経験年数4~10年)に20名分のA3写真を渡し,左から右へと最も強い「いかり肩」から最も強い「なで肩」になるように見た目での判断で並べ順位付けをしてもらった。統計処理は,Kendallの一致係数(W係数)を用いて順位の一貫性を検討した。(3)見た目での順位の決定。3名の理学療法士により見た目で判定された順位を被検者ごとに合計し,その数値より「見た目の順位」を決定した。(4)傾斜角の計測。前述の3名の理学療法士に20名分のA3写真を1部ずつ渡し,頸から肩への傾きに両側とも接線を引いてもらい,水平線となす角を傾斜角として計測した(20名40肩)。統計処理は,内的整合性についてCronbachのα信頼係数を用い,3検者間の信頼性を検討した。(5)データの棄却。左右差の大きいデータを棄却するため,Smirnov-Grubbs検定により外れ値を棄却した。(6)境界値の検討。A3写真を見た目の順位のとおりに並べ,左の「いかり肩」から右の「なで肩」へと番号を付けた。その後,当院の療法士21名(理学療法士17名,作業療法士4名)に「いかり肩」と「なで肩」の境界番号を選んでもらった。

【結果】
3名の理学療法士による「いかり肩」から「なで肩」までの見た目の順位付けは,Kendallの一致係数(W係数)がW=0.92であり,一貫性のあるデータとなった。3名の理学療法士による傾斜角の計測は,Cronbachのα係数がα=0.83であり,検者間信頼性が認められた。A3写真20名分の傾斜角の左右差は0~8.33°であった。Smirnov-Grubbs検定により左右差の多い2名を棄却した(p=005)。
A3写真18名分の傾斜角は17.2~29.2°(平均22.2±3.6°)となった。最も強い「いかり肩」(1番)は17.2°,最も強い「なで肩」(18番)は29.2°であった。療法士21名により選択された「いかり肩」の境界番号は3~8番(傾斜角19.0~21.0°)であり,その中央値は5番(傾斜角19.0°)であった。「なで肩」の境界番号は11~16番(傾斜角21.8~27.2)であり,その中央値は14番(傾斜角24.2°)であった。

【考察】
医学的な「なで肩」の判断基準には,本山(1990)により報告された頸椎側面レントゲン像での第1胸椎の透見や井關(1951)により報告された鎖骨の傾斜角による判断がある。本研究では,デジタルカメラによる背面からの撮影による写真を使用する方法を検討した。これは,肩疾患治療における臨床の場では体表的に評価できる必要性があることと肩甲骨のアライメント異常や僧帽筋の発達の影響を確認するためである。
本研究では,「いかり肩」の境界値が傾斜角19.0°,「なで肩」の境界値が傾斜角24.2°となった。この値が境界値となりうる可能性があり,今後,データを増やし検証していきたいと考える。計測方法については,3名の理学療法士によりA3写真を見た目で判断して順位付けを行ったが一貫性のあるデータとなった。また,傾斜角の計測でも検者間信頼性のあるデータとなった。これらは,今後,検者が増えても一貫性や信頼性のあるデータとなるか検証していく必要がある。

【理学療法学研究としての意義】
「なで肩」と「いかり肩」の測定方法や判断基準の作成は,「なで肩」や「いかり肩」の身体的特徴や運動特性を調査し,肩関節疾患の治療効果を向上するうえで必要であり,理学療法学研究としての意義はあると考える。