第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

神経難病理学療法

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0657] パーキンソン病患者の歩行特性について

携帯型歩行分析計を用いた正常歩行との比較分析

海老原将太, 井形勉, 横道信之, 福永浩幸, 金丸裕貴, 松本恭平 (国立病院機構大牟田病院)

Keywords:パーキンソン病, 歩行分析, 歩行パターン

【はじめに,目的】
パーキンソン病(以下:PD)患者の歩行分析を,3次元動作解析装置を用いて行った文献は散見されるが,設置コストや測定に要する手順及び時間等を考慮すると,同装置を臨床での日常的な評価ツールとして使用することは難しい。そこで今回,携帯型歩行分析計を用いてパーキンソン病患者の定量的評価を行い,その歩行特性を抽出することで,日々の診療業務においてパーキンソン病を有する方の歩行動作を簡便に評価する手法及び着目すべきパラメータについての手がかりを得ることを目的に行った。
【方法】
平成26年2月から10月までに当院に入院したPD患者8名(平均年齢72.6±7.3歳,男性2名,女性6名,Yahr Stage 3~4)と,健常者8名(平均年齢32.5±5.7歳,男性5名,女性3名)を対象に,携帯型歩行分析計(MG-M 1110,LSIメディエンス社)を用いて10m歩行試験を行った。得られたパラメータのうち,PD患者と健常者の歩行中の歩幅,歩行速度,歩行率,平均加速度,上下・左右方向の運動軌跡,及びステップ時間の変動係数を,対応のないt検定にて比較した。
【結果】
歩幅:PD患者37.5 cm,健常者66 cm(p<0.01)
歩行速度:PD患者42.25 m/min,健常者75.88m/min(p<0.01)
歩行率:PD患者112.5 steps/min,健常者115.3 steps/min(有意差なし)
平均加速度:PD患者0.174 G,健常者0.280 G(p<0.01)
ステップ時間変動係数:PD患者4.54%,健常者1.90%(p<0.01)
ステップ時間変動係数の左右差:PD患者0.62%,健常者0.44%(有意差なし)
上下方向の運動軌跡:PD患者1.48cm,健常者3.23cm(p<0.01)
左右方向の運動軌跡:PD患者4.01cm,健常者2.08cm(p<0.01)
【考察】
PD患者の歩行の特徴的な所見としてしばしば見受けられる小刻み歩行は,歩幅が小さくまた一歩行周期の中で両脚支持期の占める割合が大きい歩行であり,今回被験者として協力を依頼したPD患者もこの小刻み歩行の症状が多くの例で見受けられた。小刻み歩行では立脚終期(前遊脚期)でのフォアフットロッカーが十分に機能せず,前進のための正の加速度を得ることが困難になり,また立脚初期から荷重応答期にかけてのヒールロッカーや大腿四頭筋の遠心性収縮による衝撃緩衝作用も得られにくい。そのため歩行中に増加と減少を繰り返す前後方向の加速度変化は小さく,結果として歩行速度や平均加速度は正常歩行に比べ有意に低値となったと考える。またPD患者の特徴的な姿勢である体幹前屈・骨盤後傾・股関節膝関節軽度屈曲位の姿勢と,前述した両脚支持期の延長のため,上下方向の運動軌跡は小さくなり,さらに疾患に起因する立位バランス能力の低下のため左右方向への運動軌跡は増大したと考えた。ステップ時間変動係数については,左右差はPD患者と健常者で有意な差は見られなかったが,左右複合での変動係数はPD患者で有意に大きく,歩行中の各ステップの不安定さが伺えた。携帯型歩行分析計を用いた歩行評価は短時間で簡単に行うことが可能であり,また測定結果は3次元動作解析での精密な動作分析と有意な相関を持つとの報告もあるため,日々の臨床で患者の歩行動作を定量的に評価する上で非常に有用である。
【理学療法学研究としての意義】
携帯型歩行分析計を用いた定量的評価によりPD患者の歩行特性を明らかにすることで,臨床でのPD患者の歩行能力評価及び比較検討を簡便に行うことができるようになり,またそれがPD患者へのリハビリテーションプログラム立案を行う上での一助となることが期待できる。