[P2-B-0662] 身体合併症を有する精神科患者におけるリハビリテーションの効果について
精神疾患別での比較
キーワード:精神疾患, 身体合併症, 身体リハビリテーション
【はじめに,目的】
近年,高齢化に伴い身体疾患の合併(身体合併症)を有する精神科患者が増えており,精神障害だけでなく,身体障害に対するリハビリテーション(身体リハ)のニーズが高まっている。当院精神科は,単科の精神科病院にて対応困難な身体合併症を有する精神科患者を受け入れ,専門診療科と連携して身体的治療を行っており,依頼に応じて身体リハを提供している。精神科患者に対する身体リハの効果についての症例報告は多く見られるが,ADL能力の改善を統計学的に検討した先行研究は少なく,また精神疾患別での差異について検討した報告は見あたらない。今回,認知症・統合失調症・気分障害患者におけるADL能力の改善の有無と,ADL能力の改善に影響する因子を調べ,また入院前後と退院時のADL能力の変化が精神疾患で違いがあるかを検討した。
【対象,方法】
対象は平成25年1月~平成26年3月に当院精神科へ入院しリハを実施した157名のうち,退院時まで精神科病棟にてPTのみ,またはPT・OTのリハを継続して実施できた患者,認知症31名,統合失調症28名,気分障害11名(うつ病6名,双極性感情障害5名)とした。身体疾患の内訳は,神経系(認知症2名,統合失調症5名,気分障害2名),呼吸器系(13名,7名,0名),内分泌代謝系(2名,4名,1名),泌尿器系(2名,6名,1名),消化器系(5名,4名,1名),外皮系(5名,0名,1名),筋骨格系(1名,1名,2名),循環器系(1名,1名,2名),その他(0名,0名,1名)であった。データにSTの実施は含んでいない。
1)精神疾患別に,ADL能力の指標としてBarthel index(BI)得点を用い,ADL改善の有無について入院前・リハ開始時・退院時BI得点の差をFriedman検定,多重比較(Scheffe法)にて検討した。ADLの改善因子の検討は,BI上昇度(退院時BI-リハ開始時BI得点)を目的変数とし,①年齢,②入院からリハ開始までの日数,③リハ実施総単位数,④一日あたり平均リハ実施単位数,⑤BI下降度(入院前BI-リハ開始時BI得点),⑥精神機能の指標であるThe Global Assessment of Functioning(GAF)得点の上昇度(退院時GAF-入院時GAF得点)の計6項目を説明変数としStep Wise法による重回帰分析を行った。
2)入院前後と退院時のADL変化が精神疾患で異なるか,BI下降度とBI上昇度について認知症・統合失調症・気分障害患者の差をKruskal Wallis検定,多重比較(Scheffe法)にて検討した。
【結果】
1)認知症・統合失調症・気分障害ともにリハ開始時BI得点は入院前と比較し有意に下降(p<0.01)を,退院時はリハ開始時に比べ有意に上昇(p<0.01)を示した。入院前と退院時BI得点には有意差を認めなかった。BI上昇度に影響する因子として,認知症・統合失調症はBI下降度(p<0.01,正の影響)・GAF上昇度(p<0.01,正の影響)が挙がり,気分障害では年齢(p<0.01,負の影響)が抽出された。
2)BI下降度・BI上昇度ともに精神疾患での違いは認めなかった。
【考察】
今回の研究にて精神疾患の病状に関わらず身体リハを実施することでADL能力の改善に寄与することが明らかとなり,また入院前後と退院時のADL変化の程度についても精神疾患で差はないことが示された。ADLの改善因子では,認知症・統合失調症と気分障害において違いを認めた。当院における認知症・統合失調症患者は,身体疾患の治療のために行動制限を要する場合が多く,それにより活動が制限され廃用症候群を来す可能性が高い。また精神症状のために身体リハの実施が妨げられることも少なくない。重回帰分析の結果は,精神機能の改善が行動制限の解除や円滑なリハの実施に必要であることを示している。また入院前後でADL能力の低下が大きいほどリハによる改善が期待でき,入院前のADLを把握することは予後予測に役立つものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
量的な介入だけでなく,予後予測を踏まえた,精神障害と身体障害の両面を視野に入れた質的なリハ提供が必要であり,精神科医との連携,精神疾患に応じた介入が重要である。
近年,高齢化に伴い身体疾患の合併(身体合併症)を有する精神科患者が増えており,精神障害だけでなく,身体障害に対するリハビリテーション(身体リハ)のニーズが高まっている。当院精神科は,単科の精神科病院にて対応困難な身体合併症を有する精神科患者を受け入れ,専門診療科と連携して身体的治療を行っており,依頼に応じて身体リハを提供している。精神科患者に対する身体リハの効果についての症例報告は多く見られるが,ADL能力の改善を統計学的に検討した先行研究は少なく,また精神疾患別での差異について検討した報告は見あたらない。今回,認知症・統合失調症・気分障害患者におけるADL能力の改善の有無と,ADL能力の改善に影響する因子を調べ,また入院前後と退院時のADL能力の変化が精神疾患で違いがあるかを検討した。
【対象,方法】
対象は平成25年1月~平成26年3月に当院精神科へ入院しリハを実施した157名のうち,退院時まで精神科病棟にてPTのみ,またはPT・OTのリハを継続して実施できた患者,認知症31名,統合失調症28名,気分障害11名(うつ病6名,双極性感情障害5名)とした。身体疾患の内訳は,神経系(認知症2名,統合失調症5名,気分障害2名),呼吸器系(13名,7名,0名),内分泌代謝系(2名,4名,1名),泌尿器系(2名,6名,1名),消化器系(5名,4名,1名),外皮系(5名,0名,1名),筋骨格系(1名,1名,2名),循環器系(1名,1名,2名),その他(0名,0名,1名)であった。データにSTの実施は含んでいない。
1)精神疾患別に,ADL能力の指標としてBarthel index(BI)得点を用い,ADL改善の有無について入院前・リハ開始時・退院時BI得点の差をFriedman検定,多重比較(Scheffe法)にて検討した。ADLの改善因子の検討は,BI上昇度(退院時BI-リハ開始時BI得点)を目的変数とし,①年齢,②入院からリハ開始までの日数,③リハ実施総単位数,④一日あたり平均リハ実施単位数,⑤BI下降度(入院前BI-リハ開始時BI得点),⑥精神機能の指標であるThe Global Assessment of Functioning(GAF)得点の上昇度(退院時GAF-入院時GAF得点)の計6項目を説明変数としStep Wise法による重回帰分析を行った。
2)入院前後と退院時のADL変化が精神疾患で異なるか,BI下降度とBI上昇度について認知症・統合失調症・気分障害患者の差をKruskal Wallis検定,多重比較(Scheffe法)にて検討した。
【結果】
1)認知症・統合失調症・気分障害ともにリハ開始時BI得点は入院前と比較し有意に下降(p<0.01)を,退院時はリハ開始時に比べ有意に上昇(p<0.01)を示した。入院前と退院時BI得点には有意差を認めなかった。BI上昇度に影響する因子として,認知症・統合失調症はBI下降度(p<0.01,正の影響)・GAF上昇度(p<0.01,正の影響)が挙がり,気分障害では年齢(p<0.01,負の影響)が抽出された。
2)BI下降度・BI上昇度ともに精神疾患での違いは認めなかった。
【考察】
今回の研究にて精神疾患の病状に関わらず身体リハを実施することでADL能力の改善に寄与することが明らかとなり,また入院前後と退院時のADL変化の程度についても精神疾患で差はないことが示された。ADLの改善因子では,認知症・統合失調症と気分障害において違いを認めた。当院における認知症・統合失調症患者は,身体疾患の治療のために行動制限を要する場合が多く,それにより活動が制限され廃用症候群を来す可能性が高い。また精神症状のために身体リハの実施が妨げられることも少なくない。重回帰分析の結果は,精神機能の改善が行動制限の解除や円滑なリハの実施に必要であることを示している。また入院前後でADL能力の低下が大きいほどリハによる改善が期待でき,入院前のADLを把握することは予後予測に役立つものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
量的な介入だけでなく,予後予測を踏まえた,精神障害と身体障害の両面を視野に入れた質的なリハ提供が必要であり,精神科医との連携,精神疾患に応じた介入が重要である。