[P2-B-0712] 整形外科疾患入院患者の転倒減少に向けた取り組み
BBS・TUGに基づく歩行自立度判定の標準化による効果
Keywords:整形外科疾患, 転倒, 歩行自立度
【はじめに,目的】
医療機関における転倒事故は医療事故の中でも高い割合を占め,リスクマネジメントの重要な課題となっている。医療現場では転倒防止のための取り組みを行っても有効な効果を得ず,転倒が慢性的に発生している現状がある。当院においても転倒防止に向け,アセスメントスコアシートの作成や予防計画立案等,標準的なフローは導入していた。しかし,転倒発生率は比較的高水準で横這いに推移しており,減少に向けた新たな対策の検討が必要とされた。今回我々は,入院患者の転倒減少の一助とすることを目的に,患者の病棟内における歩行自立度判定にBerg Balance Scale(以下,BBS),補助的評価としてTimed Up and Go Test(以下,TUG)を用いることを標準化し,その効果を調査した。
【方法】
調査対象は2011年5月~2014年4月に当院整形外科病棟と回復期病棟に,整形外科疾患で入院した患者2,268名(男性973名,女性1,295名,平均年齢64.1±21.9歳)とした。2012年5月よりBBS,TUGによる歩行自立度判定の運用を開始,判定にはBBSを使用することを基準とし,荷重制限など,BBS評価に適さない患者のみTUGによる判定を代替え的に行うこととした。当院では,転倒スクリーニングのカットオフ値をBBS45点,TUG13.5秒とし,カットオフ値以下であった場合には,自立歩行不可と判定,院内生活において歩行する際は,看護師による監視または介助を原則とした。分析は,運用前の1年間をA期,運用後の2年間をB期とし,各期における転倒件数と,リハビリスタッフが自立と判定して転倒が発生した件数(以下,判定後転倒件数)を,当院インシデント・アクシデントシステムおよび電子カルテより調査し,転倒率を算出,運用前後で比較検討した。統計解析にはIBM SPSS Statistics version19を用い,群間の特性および転倒率の比較は,名義変数にはカイ二乗検定を,連続変数にはMann-Whitney U検定を行い,いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
各期の特性として,平均年齢はA期63.4±21.6歳,B期64.4±22.0歳,性別はA期男性305名・女性384名,B期男性668名・女性911名,退院時Barthel IndexはA期81.8±25.4点,B期79.9±28.2点でいずれも2群間に有意差は認められなかった。
転倒件数はA期入院延べ患者数20,294人中41件,発生率2.02‰に対し,B期40,578人中51件,発生率1.26‰となり,AB間に有意差が認められた。判定後転倒件数はA期14件,発生率0.69‰に対し,B期7件,発生率0.17‰となり,AB間に有意差が認められた。
【考察】
今回,BBS・TUGに基づく歩行自立度判定の標準化により,判定後転倒件数は減少し,対象病棟全体の転倒発生率低下に貢献する結果となった。これは導入前の歩行自立度判定が,直感や経験など主観に基づいた判定を行っていたのに対し,導入後はエビデンスに基づいた判定を行うようになり,精度が質的に向上したことや,判定が統一化・単純化されたことにより,経験の浅いスタッフでも判断に迷うことなく,質のレベルが確保された判定を行うことが可能となったためであると考えられる。先行研究で,主観的評価のみであったセラピストの病院内歩行自立度判定に,客観的評価スケールを導入したことで,自立歩行患者の転倒件数が減少したとの報告があり,本研究でも同様の結果を示した。このようなことから,歩行自立度判定の標準化は,入院患者の転倒減少に有効であるといえるであろう。また,これまでの歩行自立度判定の導入効果を調査している研究は,脳血管疾患を対象としたものが多く,整形外科疾患に特化した報告は見当たらない。本研究は,急性期・回復期病棟に入院している整形外科疾患患者の,転倒予防対策の一指標になると考える。
【理学療法学研究としての意義】
転倒など多くの事故は組織事故であると言われ,いくつかの事象が連鎖し,最終的に事故が発生する。昨今,安全への取り組みとして,個別の質の向上への期待から組織的な質の管理への変容が求められている。今回の取り組みは,組織化された活動という側面でも重要な展開であり,標準化された評価指標の導入は患者の安全に繋がるものとなり,さらには,職員の安全にも効果が期待できると考える。
医療機関における転倒事故は医療事故の中でも高い割合を占め,リスクマネジメントの重要な課題となっている。医療現場では転倒防止のための取り組みを行っても有効な効果を得ず,転倒が慢性的に発生している現状がある。当院においても転倒防止に向け,アセスメントスコアシートの作成や予防計画立案等,標準的なフローは導入していた。しかし,転倒発生率は比較的高水準で横這いに推移しており,減少に向けた新たな対策の検討が必要とされた。今回我々は,入院患者の転倒減少の一助とすることを目的に,患者の病棟内における歩行自立度判定にBerg Balance Scale(以下,BBS),補助的評価としてTimed Up and Go Test(以下,TUG)を用いることを標準化し,その効果を調査した。
【方法】
調査対象は2011年5月~2014年4月に当院整形外科病棟と回復期病棟に,整形外科疾患で入院した患者2,268名(男性973名,女性1,295名,平均年齢64.1±21.9歳)とした。2012年5月よりBBS,TUGによる歩行自立度判定の運用を開始,判定にはBBSを使用することを基準とし,荷重制限など,BBS評価に適さない患者のみTUGによる判定を代替え的に行うこととした。当院では,転倒スクリーニングのカットオフ値をBBS45点,TUG13.5秒とし,カットオフ値以下であった場合には,自立歩行不可と判定,院内生活において歩行する際は,看護師による監視または介助を原則とした。分析は,運用前の1年間をA期,運用後の2年間をB期とし,各期における転倒件数と,リハビリスタッフが自立と判定して転倒が発生した件数(以下,判定後転倒件数)を,当院インシデント・アクシデントシステムおよび電子カルテより調査し,転倒率を算出,運用前後で比較検討した。統計解析にはIBM SPSS Statistics version19を用い,群間の特性および転倒率の比較は,名義変数にはカイ二乗検定を,連続変数にはMann-Whitney U検定を行い,いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
各期の特性として,平均年齢はA期63.4±21.6歳,B期64.4±22.0歳,性別はA期男性305名・女性384名,B期男性668名・女性911名,退院時Barthel IndexはA期81.8±25.4点,B期79.9±28.2点でいずれも2群間に有意差は認められなかった。
転倒件数はA期入院延べ患者数20,294人中41件,発生率2.02‰に対し,B期40,578人中51件,発生率1.26‰となり,AB間に有意差が認められた。判定後転倒件数はA期14件,発生率0.69‰に対し,B期7件,発生率0.17‰となり,AB間に有意差が認められた。
【考察】
今回,BBS・TUGに基づく歩行自立度判定の標準化により,判定後転倒件数は減少し,対象病棟全体の転倒発生率低下に貢献する結果となった。これは導入前の歩行自立度判定が,直感や経験など主観に基づいた判定を行っていたのに対し,導入後はエビデンスに基づいた判定を行うようになり,精度が質的に向上したことや,判定が統一化・単純化されたことにより,経験の浅いスタッフでも判断に迷うことなく,質のレベルが確保された判定を行うことが可能となったためであると考えられる。先行研究で,主観的評価のみであったセラピストの病院内歩行自立度判定に,客観的評価スケールを導入したことで,自立歩行患者の転倒件数が減少したとの報告があり,本研究でも同様の結果を示した。このようなことから,歩行自立度判定の標準化は,入院患者の転倒減少に有効であるといえるであろう。また,これまでの歩行自立度判定の導入効果を調査している研究は,脳血管疾患を対象としたものが多く,整形外科疾患に特化した報告は見当たらない。本研究は,急性期・回復期病棟に入院している整形外科疾患患者の,転倒予防対策の一指標になると考える。
【理学療法学研究としての意義】
転倒など多くの事故は組織事故であると言われ,いくつかの事象が連鎖し,最終的に事故が発生する。昨今,安全への取り組みとして,個別の質の向上への期待から組織的な質の管理への変容が求められている。今回の取り組みは,組織化された活動という側面でも重要な展開であり,標準化された評価指標の導入は患者の安全に繋がるものとなり,さらには,職員の安全にも効果が期待できると考える。