第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0715] 健常女性における閉経前後での身体機能・骨密度・血管機能に関する横断的調査

糸川真帆, 瓜谷大輔 (畿央大学健康科学部理学療法学科)

キーワード:閉経, 身体機能, 骨密度

【はじめに,目的】
女性は閉経前後で心身の状態が大きく変化することが一般に知られており,閉経後の経過と身体機能や骨密度,血管系の機能の変化との関係についても報告されている。理学療法分野でのwoman’s healthも近年注目されるようになってきているが,理学療法士が積極的な介入をした研究報告は少なく,また閉経前後の身体の変化に注目した理学療法士の介入についての報告は少ない。そこで本研究では,閉経前後の身体の変化に着目し,地域在住女性の閉経後年数と身体機能・骨密度・血管機能の関係を横断的に調査することを目的とした。
【方法】
対象は地域在住女性91名(平均年齢61.2±9.3歳)であった。対象はアンケートによって聴取した閉経の有無および閉経年齢をもとに,閉経前群,閉経後1~10年群,閉経後11~14年群,閉経後15年以上群の4群に分類した。基本項目として身長,体重を測定した。身体機能測定では握力,等尺性膝伸展筋力,timed up and go test(TUG)を実施した。筋力項目は左右2回ずつ測定し,左右の最大値の平均値を算出した。TUGは2回測定し,最小値を採用した。骨密度は超音波法で右足(踵骨)のスティフネス値を測定した。血管機能測定では,Cardio-Ankle Vascular Index(CAVI)を左右測定し,その平均値を算出した。測定した5項目を一元配置分散分析とtukeyの多重比較検定を用いて4群間で比較した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者の内訳は,閉経前11名(平均年齢43.2±8.2歳),閉経後1~10年27名(平均年齢57.1±3.8歳),閉経後11~14年18名(平均年齢63.6±2.9歳),閉経後15年以上35名(平均年齢68.8±3.5歳)であった。計測結果についてはTUGで閉経前群(5.1±0.3秒)と閉経後1~10年群(5.2±0.4秒)が閉経後15年以上群(5.9±0.8秒)よりも有意に低値を示した(p<0.05)。骨密度では閉経前群(90.9±12.8%)と閉経後1~10年群(92.8±18.3%)が閉経後15年以上(75.7±13.0)よりも有意に高値を示した(p<0.05)。CAVIでは閉経前(6.9±0.6)が閉経後1~10年群(8.0±1.4)と閉経後11~14年群(8.3±1.1),閉経後15年以上(8.4±0.9)よりも有意に低値を示した(p<0.05)。握力と膝関節伸展筋力では有意差が認められなかった。
【考察】
身体機能については,TUGにて閉経後15年以上で有意に高値を示していたが,筋力には有意差を認めなかったことより,平衡性や敏捷性といった筋力以外の要素によって影響を受けていることが考えられた。しかし,敏捷性は筋力よりも後に低下すると言われていることから,本研究では主に平衡性が関係していると考えられる。骨密度では,骨形成は栄養や紫外線によりビタミンDが生成され,ビタミンDの活性化にエストロゲン・プロゲステロンが関与している。また,骨芽細胞にはエストロゲン受容体があり,エストロゲンが直接関与している。このため,閉経が近づくにつれエストロゲン・プロゲステロンの分泌機能が低下すると,骨密度は低下することが考えられる。閉経後年数が長いほど分泌機能は低下していることが考えられ,15年以上で有意に低値を示したと考える。エストロゲンはコレステロールを低下させる作用があり,動脈硬化はエストロゲンの分泌機能低下により血漿脂質が増加することや骨吸収が盛んになることによって骨成分が血流へ放出することで促進されると言われていることからCAVIにおいて閉経を境に有意に高値を示したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の健康増進,介護予防分野においては理学療法士の予防的な関わりが活発になってきているが,女性特有の身体の変化に着目し理学療法の専門性を生かすことは健康増進や介護予防の効果をさらに増大させられるものと考えられる。本研究結果をもとに,女性の身体的特徴を考慮し,閉経前から運動や栄養にアプローチを行うことは,閉経後の女性の骨粗鬆症や心疾患リスクの軽減,運動機能の維持向上に繋がるのではないかと考えられる。