[P2-B-0718] 傾斜方向の違いによるチェンソー作業姿勢保持中の体幹筋群筋活動量の変化
Keywords:チェンソー作業, 筋活動量, 傾斜地
【はじめに,目的】
チェンソーを扱う林業従事者は,扱わない従事者に比べて腰痛の訴えが多いとされている。その腰痛の原因として,木を切り倒す(伐倒)作業中に体幹伸展筋群の持続的な緊張が生じることや,傾斜地で伐倒作業を行うことがあげられる(辻,1972)。
傾斜地での作業では身体の安定性が減少する。傾斜地での持ち上げ動作の研究では,動作時の筋活動量の変化から,林業従事者の腰痛発症機序が示されている(近久ら,2010)。
重量物の持ち上げ動作は左右対称的な動作であるが,チェンソー作業では左手でチェンソーの前ハンドルを,右手で後ハンドルを保持するため,伐倒作業は左右非対称な姿勢を強いられる。
本研究の目的は,異なる傾斜方向での体幹筋群の筋活動量を測定し,傾斜方向の違いによる体幹筋群の筋活動量の変化を探ることとした。仮説は,山足側の脊柱起立筋の筋活動量が,傾斜0oの平坦地と比較してより増加するとした。
【方法】
対象は健常成人男性10名(年齢 25.5±4.5歳,身長171.9±4.5 cm,体重66.7±7.8kg)とした。全ての対象は非林業従事者であり,チェンソーの使用経験はなかった。
対象は傾斜台に右足部(支持足)を後方に,左足部を前方に位置した立位姿勢をとり,チェンソー(550XP®45cmRT,重量7.0 kg,Husqvarna社)を臍部の高さで10秒間保持した。足幅は肩幅とした。実際の伐倒作業を想定して,チェンソーの歯を直径30.0 cmの丸太に当てるよう指示した。本測定では自作の可変式傾斜台を使用し,傾斜角度は0oと30oに設定した。傾斜30oでの傾斜方向は,右下肢を谷足側,左下肢を山足側とした右下がり(右傾),右下肢を山足側,左下肢を谷足側とした左下がり(左傾)と,平坦地の傾斜0oの計3条件とした。
筋活動量の測定には,表面筋電図(Personal-EMG,追坂電子機器社)を用いた。導出筋は,左右の腰部脊柱起立筋(ES)ならびに腹直筋(RA)とし,双極誘導にて活動電位を測定し,面積積分値で算出した。算出された値を最大等尺性収縮(MVC)で正規化し,左右それぞれの%MVCを求めた。
統計学的解析は,SPSS ver 20.0 for windows(IBM社)を使用した。各筋の筋活動量の左右の比較には対応のあるt検定を,傾斜方向の違いによる各筋それぞれの筋活動量の比較には反復測定分散分析を行った。有意な差が認められた場合には,多重比較検定としてBonferroni法を用いた。危険率5%未満を統計学的に有意とした。
【結果】
右のESの筋活動量は0o,右傾,左傾で,それぞれ17.7±6.6%MVC,15.6±5.5%MVC,18.5±9.4%MVCであり,3条件で有意な差はなかった。左のESの筋活動量は,13.0±6.8%MVC,13.8±7.5%MVC,14.0±7.5%MVCであり,3条件で有意な差はなかった。各条件で左右差をみると0oで,右のESの筋活動量が左より36.2%有意に高かった(p<0.05)が,他の条件では有意な差はなかった。
右のRAの筋活動量は0o,右傾,左傾で,それぞれ4.9±3.4%MVC,4.0±2.7%MVC,3.8±2.8%MVCであり,3条件で有意な差はなかった。左のRAの筋活動量は,4.3±2.7%MVC,3.7±2.7%MVC,4.2±2.8%MVCであり,3条件で有意な差はなかった。各条件で左右の筋活動量に有意な差はなかった。
【考察】
伐倒作業姿勢の多くは支持足が右下肢となる。平坦地では右の腰部脊柱起立筋の筋活動量は左の筋活動量よりも36.2%高くなることが確認された。これを,伐倒作業姿勢における筋電図学的特徴のひとつとして考えておく必要がある。
傾斜角度が増加するにしたがい,身体の安定性が減少すると報告されている(Simeonov et al, 2003)。傾斜地での持ち上げ動作では,傾斜角度30oで山足側の筋活動量は0oと比較して増加するといわれている(近久ら,2010)。そのため傾斜角度の増加による身体の安定性の低下に対して,山足側の脊柱起立筋の筋活動量が影響を受けると考えられる。
多く林業従事者は10~30o の傾斜地で労働を行っており,本研究では傾斜角度は30oと設定した。しかしながら,山足側となる腰部脊柱起立筋の筋活動量は,3条件で有意な差はなかった。本研究では静的な姿勢であり,重量物持ち上げ動作のような動的な姿勢でないため,身体の安定性が保持され,先行研究とは異なる結果が得られたのではないかと考えられる。
実際の伐倒作業では,チェンソーの振動が体幹筋群の筋活動量へ少なからず影響を与える可能性がある。そのため実際には,本研究の結果で得られた筋活動量より高くなると推測される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はチェンソーの保持という課題で行ったが,傾斜地での作業に関する体幹筋群の筋活動量の基礎的なデータを提供できたと考えられる。
チェンソーを扱う林業従事者は,扱わない従事者に比べて腰痛の訴えが多いとされている。その腰痛の原因として,木を切り倒す(伐倒)作業中に体幹伸展筋群の持続的な緊張が生じることや,傾斜地で伐倒作業を行うことがあげられる(辻,1972)。
傾斜地での作業では身体の安定性が減少する。傾斜地での持ち上げ動作の研究では,動作時の筋活動量の変化から,林業従事者の腰痛発症機序が示されている(近久ら,2010)。
重量物の持ち上げ動作は左右対称的な動作であるが,チェンソー作業では左手でチェンソーの前ハンドルを,右手で後ハンドルを保持するため,伐倒作業は左右非対称な姿勢を強いられる。
本研究の目的は,異なる傾斜方向での体幹筋群の筋活動量を測定し,傾斜方向の違いによる体幹筋群の筋活動量の変化を探ることとした。仮説は,山足側の脊柱起立筋の筋活動量が,傾斜0oの平坦地と比較してより増加するとした。
【方法】
対象は健常成人男性10名(年齢 25.5±4.5歳,身長171.9±4.5 cm,体重66.7±7.8kg)とした。全ての対象は非林業従事者であり,チェンソーの使用経験はなかった。
対象は傾斜台に右足部(支持足)を後方に,左足部を前方に位置した立位姿勢をとり,チェンソー(550XP®45cmRT,重量7.0 kg,Husqvarna社)を臍部の高さで10秒間保持した。足幅は肩幅とした。実際の伐倒作業を想定して,チェンソーの歯を直径30.0 cmの丸太に当てるよう指示した。本測定では自作の可変式傾斜台を使用し,傾斜角度は0oと30oに設定した。傾斜30oでの傾斜方向は,右下肢を谷足側,左下肢を山足側とした右下がり(右傾),右下肢を山足側,左下肢を谷足側とした左下がり(左傾)と,平坦地の傾斜0oの計3条件とした。
筋活動量の測定には,表面筋電図(Personal-EMG,追坂電子機器社)を用いた。導出筋は,左右の腰部脊柱起立筋(ES)ならびに腹直筋(RA)とし,双極誘導にて活動電位を測定し,面積積分値で算出した。算出された値を最大等尺性収縮(MVC)で正規化し,左右それぞれの%MVCを求めた。
統計学的解析は,SPSS ver 20.0 for windows(IBM社)を使用した。各筋の筋活動量の左右の比較には対応のあるt検定を,傾斜方向の違いによる各筋それぞれの筋活動量の比較には反復測定分散分析を行った。有意な差が認められた場合には,多重比較検定としてBonferroni法を用いた。危険率5%未満を統計学的に有意とした。
【結果】
右のESの筋活動量は0o,右傾,左傾で,それぞれ17.7±6.6%MVC,15.6±5.5%MVC,18.5±9.4%MVCであり,3条件で有意な差はなかった。左のESの筋活動量は,13.0±6.8%MVC,13.8±7.5%MVC,14.0±7.5%MVCであり,3条件で有意な差はなかった。各条件で左右差をみると0oで,右のESの筋活動量が左より36.2%有意に高かった(p<0.05)が,他の条件では有意な差はなかった。
右のRAの筋活動量は0o,右傾,左傾で,それぞれ4.9±3.4%MVC,4.0±2.7%MVC,3.8±2.8%MVCであり,3条件で有意な差はなかった。左のRAの筋活動量は,4.3±2.7%MVC,3.7±2.7%MVC,4.2±2.8%MVCであり,3条件で有意な差はなかった。各条件で左右の筋活動量に有意な差はなかった。
【考察】
伐倒作業姿勢の多くは支持足が右下肢となる。平坦地では右の腰部脊柱起立筋の筋活動量は左の筋活動量よりも36.2%高くなることが確認された。これを,伐倒作業姿勢における筋電図学的特徴のひとつとして考えておく必要がある。
傾斜角度が増加するにしたがい,身体の安定性が減少すると報告されている(Simeonov et al, 2003)。傾斜地での持ち上げ動作では,傾斜角度30oで山足側の筋活動量は0oと比較して増加するといわれている(近久ら,2010)。そのため傾斜角度の増加による身体の安定性の低下に対して,山足側の脊柱起立筋の筋活動量が影響を受けると考えられる。
多く林業従事者は10~30o の傾斜地で労働を行っており,本研究では傾斜角度は30oと設定した。しかしながら,山足側となる腰部脊柱起立筋の筋活動量は,3条件で有意な差はなかった。本研究では静的な姿勢であり,重量物持ち上げ動作のような動的な姿勢でないため,身体の安定性が保持され,先行研究とは異なる結果が得られたのではないかと考えられる。
実際の伐倒作業では,チェンソーの振動が体幹筋群の筋活動量へ少なからず影響を与える可能性がある。そのため実際には,本研究の結果で得られた筋活動量より高くなると推測される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はチェンソーの保持という課題で行ったが,傾斜地での作業に関する体幹筋群の筋活動量の基礎的なデータを提供できたと考えられる。