第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

予防理学療法3

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0721] 糖尿病教育入院患者における退院後の目標歩数

―目標歩数に対する継続自信度の調査―

武井圭一1, 國澤洋介2, 森本貴之1, 新井健一1, 岩田一輝1, 山本満1 (1.埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション科, 2.埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:糖尿病教育入院, 身体活動, 自己効力感

【はじめに,目的】
糖尿病に対する運動療法では,身体活動量の増加や運動習慣の形成といった行動変容を促し,継続できるよう支援することが重要である。身体活動とは,運動と生活活動を含んでおり,生活の中で身体を動かすことのすべてを指している。身体活動の評価法は,歩数計を用いる方法が簡便かつ有効であり,1日の歩数を用いた目標として一般的に8000歩から10000歩が推奨されている。しかし,実際には目標を段階的に増加することが望ましく,目標歩数を継続することに対する自信など対象者の自己効力感を考慮して設定することが重要である。本研究の目的は,糖尿病教育入院(以下,教育入院)患者の入院期間における1日の平均歩数をもとにした目標歩数に対する退院後の継続自信度を調査することで,継続自信度の側面から退院後の目標歩数の標準を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2013年6月から2014年9月までに当院の教育入院に参加し,理学療法を実施した28名とした。除外基準は,身体活動量の記録が4日未満の者,継続自信度の測定が困難であった者とした。対象者の特性(平均値±標準偏差)は,年齢が59±11歳,HbA1cが10.3±2.1%,BMIが27.9±5.2kg/m2,歩行能力は全例自立であった。当院の教育入院は2週間の日程で,運動療法の指導・実践を目的に理学療法を6回実施している。調査項目は,教育入院中の身体活動量と目標歩数に対する継続自信度として診療録より後方視的に調査した。身体活動量は,歩数計で計測した1日の歩数として1回目から5回目の理学療法介入日における5日間の身体活動量を調査し,1日の平均歩数(百の位で四捨五入)を求めた。目標歩数に対する継続自信度は,質問紙を用いて理学療法最終日に評価した。質問内容は,1日の目標歩数に対して「少なくとも3日/週以上の頻度で目標歩数を継続できる自信」を問い,0%(全く行うことができない)から100%(絶対行うことができる)で評価した。目標歩数は,対象者ごとに現状の歩数をもとに1000歩刻みに5段階の歩数を設定しており,そのうち「平均歩数」,「平均歩数+1000歩」,「平均歩数+2000歩」における継続自信度の記録を調査した。分析は,各目標歩数に対する継続自信度の比較について反復測定による分散分析を行い,その後にTukey法を用いて多重比較を行った。統計解析には,IBM SPSS statistics 22を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
教育入院中の1日の平均歩数(平均値±標準偏差)は,7000±2500歩であった。目標歩数に対する継続自信度(平均値±標準偏差,95%信頼区間)は,平均歩数では90±14%,84-95%,平均歩数+1000歩では80±22%,71-89%,平均歩数+2000歩では67±30%,56-78%であった。各目標歩数における継続自信度の比較の結果,すべての目標歩数間において有意差を認め,目標歩数が増加するごとに継続自信度は有意に低下した。
【考察】
本研究で用いた継続自信度は,教育入院中における1日の平均歩数をもとに調査しているが,対象としている行動が入院中から退院後への生活変化を含んでいることや,退院後の継続可能性という不確定な要素を含んでいることから,教育入院中に実践可能であった平均歩数であっても自信度が100%にならなかったと考えられた。また,本研究では歩数計により身体活動量を評価できた者のみを対象としているが,対象者自身の現状歩数に対する理解度が目標歩数に対する継続自信度に影響すると考えられ,歩数計を使用して身体活動量を評価していない症例では継続自信度の結果が異なることが予測された。今回,目標歩数の増加に伴い継続自信度の有意な低下を認め,95%信頼区間は平均歩数+1000歩で71-89%,平均歩数+2000歩で56-78%であった。行動変容を支援するための工夫として,目標は努力すれば7-8割は達成可能と思える目標行動を具体化することが推奨されている。このことから,歩数計を用いて身体活動量を管理している症例に対しては,教育入院中に実践していた平均歩数+1000歩までの歩数が継続自信度の側面からは目標値として適切な範囲と考えられた。また,平均歩数+2000歩の目標は,95%信頼区間からは7割以上の可能性もあり不適切と判断するのではなく,個々に継続自信度を評価したうえで適応を検討することが重要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,現行の平均歩数を基準に異なる目標歩数に対する継続自信度を明らかにしており,歩数により身体活動量を管理している症例に対して継続自信度を考慮した退院後の目標設定に有用である。