第50回日本理学療法学術大会

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がん

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0724] 膵臓癌手術における周術期リハビリテーションについて

坂本佳奈美1, 垣添慎二1, 岸綾子1, 西原一善2 (1.北九州市立医療センターリハビリテーション科, 2.北九州市立医療センター外科)

Keywords:周術期リハビリテーション, 膵臓癌手術, 術後合併症

【はじめに,目的】
膵臓癌手術である膵頭十二指腸切除術(以下PD)や膵体尾部切除術(以下DP)は手術侵襲が大きいため術後呼吸器合併症が発症しやすい。術後呼吸器合併症予防のため周術期リハビリテーション(以下リハ)が必要である。また,膵臓癌手術は膵-消化管吻合による再建もあり難易度の高い手術とされている。そのため術後には膵液漏,胆汁漏といった術後合併症も高頻度で発症しやすい。よって術後のリハを実施する上では,呼吸器以外の合併症に対しても十分に配慮した上で進めていく必要がある。この様な膵臓癌手術症例に対して当院でも周術期に術前運動耐容能維持・向上,呼吸理学療法,早期離床を実施し,呼吸器合併症予防を目的に介入している。今回膵臓癌手術が施行されリハが実施された症例を対象に,術後の合併症に着目しリハの内容について検討したので報告する。
【方法】
2012.9~2014.4の期間に当院にてPD,DPが施行されリハが実施された27症例を対象とした。患者背景〔年齢/性比/Body Mass Index(BMI)/ASA-Performance status/術前合併症/術前減黄治療有無/Alubumin値(Alb)/Hemoglobin値(Hb)/CRP値/%VC(80%以下)/FEV1.0%(70%以下)〕,術中因子〔手術時間/出血量〕,術後因子〔Alb(POD1/3),Hb(POD1/3),CRP(POD1/3),ドレーン排液アミラーゼ値(POD1/2/3),術後合併症(Clavien-Dindo分類でGradeII以上を対象),歩行開始日〕について調査した。全例上腹部正中切開による開腹術,手術当日抜管。リハは術前に入院減黄治療中の症例では運動耐容能維持・向上を目的としたexercise,全例に対して2~3回の術前呼吸練習(深呼吸,排痰練習)と起居動作指導を実施した。術後は手術翌日より呼吸理学療法,早期離床を実施し,退院前日まで日常生活動作練習,運動耐容能向上を目的としたexerciseを継続した。
【結果】
[患者背景]〔年齢(歳)〕71.2±7.8〔性比(♂:♀)〕19:8〔BMI(m2/kg)〕21.2±2.2〔ASA-PS(1:2)〕19:8〔術前合併症(高血圧症:呼吸器疾患:糖尿病:脳血管障害:手術既往)〕8:2:6:5:2〔Brinkman指数(0:<400:>400)〕15:0:12〔術前減黄治療(yes;人)〕8〔Alb(g/dl)〕3.8±0.5〔Hb(g/dl)〕13.1±1.4〔CRP(mg/dl)〕0.9±1.6〔%VC(<80%;人)〕0〔FEV1.0%(<70%:人)〕7[術中因子]〔手術時間(min)〕403±121.6〔出血量(g)〕1075.5±970.9[術後因子]〔Alb(POD1:POD3)〕2.5±0.3:2.6±0.2〔Hb(POD1:POD3)〕11.9±1.7:10.8±1.5〔CRP(POD1:POD3)〕9.1±2.0:17.3±5.0〔排液アミラーゼ値(POD1:POD2:POD3)〕POD1:中央値864.5(最大値8473-最小値3),POD2:878.5(12931-13)POD3:543(7242-12)〔歩行開始日(日)〕2.5±0.6〔術後合併症(膵液漏:胆汁漏:呼吸器:重複;人)〕11:2:4:3。
【考察】
術後合併症では膵液漏が11症例(40.7%)と最も多く胆汁漏は2症例(7.4%)であった。GradeII以上の膵液漏が発症した11症例とそれ以外の症例において,POD1/2/3の排液アミラーゼ値を比較するとPOD1:中央値1923(最大値8473-最小値3)vs 288(2463-33)〈P<0.05〉,POD2:1286(12931-13)vs291(3928-72)〈P<0.05〉,POD3:1027(7242-12)vs360(2771-52)〈ns〉と膵液漏を呈した症例では排液アミラーゼ値がPOD1/2と有意に高く,POD3でも高い傾向であった。よって排液アミラーゼ値は膵液漏の状態を把握する上で重要である。また,呼吸器合併症は4症例(肺炎2:無気肺2)で認められ,そのうちの3症例で膵液漏と重複(症例①膵液漏GradeII/肺炎GradeII,症例②膵液漏III/肺炎II,症例③膵液漏III/無気肺II)していた。この3症例における患者背景では,術前運動耐容能が低く〔ASA-PS(①2:②2:③2)〕と,喫煙暦があり〔Brinkman指数(①800:②900:③1600)〕,呼吸機能が低下〔FEV1.0%(①72.9:②70:③63.2)〕している傾向にあった。また,術中因子ではその他症例と有意な差は認められなかったが,術後の歩行開始日では①4:②3:③4日と遅い傾向であった。その一要因として発熱,腹部疼痛を認めた。この様に術後リハを実施する上では,術前からの全身状態低下,喫煙者,術前呼吸機能低下の要因と術後の膵液漏に注意しリハを進めていく必要がある。よって,膵臓癌手術のリハでは術前からの運動耐容能の改善と呼吸理学療法,術後は術前high risk因子を有し,排液アミラーゼ値の高く,早期離床に制限が強いられる症例では状況に応じた呼吸理学療法が重要となってくる。
【理学療法学研究としての意義】
周術期リハビリにおいて膵臓癌手術のみに着目した報告は少ない。また,呼吸器合併症だけではなく,他の合併症との関連性から術後リハについて検討する事ができた。