第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0730] 化学療法実施中の切除不能肺癌患者に対する理学療法介入の予備的研究

熊谷謙一1, 山内康太1, 小柳靖裕1, 今永知俊2 (1.製鉄記念八幡病院リハビリテーション部, 2.製鉄記念八幡病院呼吸器内科)

キーワード:化学療法, 切除不能肺癌, 理学療法

【はじめに,目的】
病期の進行した切除不能肺癌は平均余命が短く,化学療法や放射線治療が標準治療となる。また全身状態や副作用の問題が治療を妨げる要因となる。これに対し,切除不能肺癌患者に対する運動療法は,身体機能やQOLを向上させ,不安・抑うつ,倦怠感を軽減させる効果が期待されており,諸外国での検討がなされ始めている。
今回,入院化学療法を実施する切除不能肺癌患者に対し,本邦ではじめて前向きの理学療法介入研究を行ったため報告する。

【方法】
2013年10月から2014年10月にかけて,化学療法目的に当院入院し,理学療法を実施した切除不能肺癌12例を対象とした。
理学療法は監視下運動療法を5回/週,有酸素運動およびレジスタンストレーニングで構成した。また,必要に応じてバランストレーニングや運動指導を行った。有酸素運動・レジスタンストレーニングはBorg scale 13(ややきつい)またはmax HRの75-80%程度の負荷を目標とし,可能な範囲で負荷を漸増した。
評価項目は身体機能として,運動耐容能(6分間歩行距離;6MD),筋力(握力,膝伸展筋力),歩行速度,Short Physical Performance Battery(SPPB),Basic ADLとした。また,質問紙表でHRQOL(Functional Assessment and Cancer Therapy-Lung;FACT-L),うつ・不安(Hospital Anxiety and Depression Scale;HADS),倦怠感(Cancer Fatigue Scale;CFS),身体活動量(International Physical Activity Questionnaire-Short Forms;IPAQ-SF)を,それぞれ理学療法開始時に評価した。また,運動実施の割合,運動療法の安全性に関して記載した。データは中央値(四分位範囲),割合で記載した。

【結果】
対象者の年齢は67(62-76)歳,性別は男性9例(75.0%),身長159(155-166)cm,体重56.6(48.0-63.8)kg,BMI 21.2(19.6-24.2)kg/m2であった。Performance Statusは0;3例(25.0%),1;4例(33.3%),2;2例(16.7%),3;3例(25.0%)であった。癌腫は非小細胞癌7例(58.3%),小細胞癌5例(41.7%)で,ステージはIIIA;1例(8.3%),IIIB;5例(41.7%),IV;6例(50.0%)となっていた。治療は化学療法単独が7例(58.3%),化学放射線治療が5例(41.7%)で,うち初回化学療法は9例(69.2%)であった。
理学療法開始時の身体機能評価は5-10例(38.5-76.9%),質問紙表は5-6例(38.4-46.2%)で評価可能であった。身体機能評価に関しては,6MD;387.5(366-458.8)m,握力;26.5(23.1-36.7)kg,膝伸展筋力;80.4(66.4-117.3)N・m,歩行速度;1.0(0.9-1.1)m/s,SPPB;12(8.5-12)点であり,Basic ADLは全例自立していた。質問紙表の結果はHRQOL(FACT-L);73(65.8-88.7),うつ・不安(HADS);17(14-18),倦怠感(CFS);30(29-30),身体活動量(IPAQ);0(0-0)Mets・h/weekであった。
入院期間中の運動介入可能な日数は,15.5(13.3-24.3)日で,実際に運動療法を実施出来た日数は7.5(5.8-9)日であり,運動療法を実施出来た日数の割合は45(31-61)%であった。また,有酸素運動の実施日数および割合は,7(3.3-8.3)日,40(25-60)%,レジスタンストレーニングは,3(1.5-6)日,15(7-45)%であった。有酸素運動の最大負荷は20(19.5-33)wattで,レジスタンストレーニングの種類は,重錘負荷での下肢自動運動,ハーフスクワット,階段昇降を選択されていた。運動による有害反応は腰痛の悪化を1例に認めた。

【考察】
先行研究と比べ,化学療法実施中の理学療法における研究参加者の年齢は同等であったが,運動耐容能やQOL,身体活動量が低く,不安・抑うつや倦怠感の強い対象者であった。また,評価を拒否される割合が高く,運動実施率も低く,運動負荷も低い強度であった。また,運動の種類に関しては,有酸素運動に比して,レジスタンストレーニングの実施率が低い結果であった。これは,低身体機能,低身体活動,不安・抑うつや倦怠感の強い対象者であったことや,本邦で切除不能癌に対してのリハビリテーション・運動介入の取り組みが少ないことが影響していると考えられた。本邦で切除不能肺癌患者に対しての運動療法を実施する上では,これらに関する包括的な介入の必要性を示唆する結果であったと考えられた。

【理学療法学研究としての意義】
切除不能肺癌に対する本邦での理学療法の報告は無く,化学療法の発展に伴い理学療法の必要性が期待される領域であるものと考えられる。そのため,対象者の特性や運動実施割合等,理学療法を実施する上で情報提示・問題提起が出来たことは臨床的意義が高いと考えられる。